異世界ライフは前途洋々

くるくる

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閑話.レオハーヴェン視点

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「悪かったなぁ、レオン。予定外の事まで色々頼んじまってよ」

  ここまで護衛してきた馴染みの旅商人がすまなそうに言う。

 「いつもの事だろ、じゃあな」
 「相変わらずアッサリしてんなぁ、今度会う時までにはいい加減女の2人や3人作れよ」
 「余計なお世話だ。俺は何人も嫁貰う気ねえよ」
 「嫁は1人、か?レオンはそればっかしだな。勿体ないねぇ、お前とエヴァなら凄いハーレム作れるだろうに」
 「うるせえよ、女は1人で充分だろ。もう行くぜ」
 「おぉ、またな!」
 「ああ」

  別れてから小さく息を吐く。あいつは信用出来る良い奴だがお節介なのがたまにキズだ。何度勧められようが嫁は1人、これは絶対変わらない。




  一夫多妻、一妻多夫、双方許可されていても実際に多いのは一夫多妻。男性は強さと富の象徴であるハーレムを作りたがり、女性もそういうところに嫁ぎたがる。女性の社会進出も進んできたがひと財産築くのはやはり男性の方がやり易い。ならば玉の輿を、という訳だ。

  だが一方で一妻多夫への憧れが根強いのも確か。実現は難しいがこうなりたいと一度は夢みる女性が多い。




  帰路はいつも乗り合い馬車。これもすっかり馴染みになった御者親子の馬車に乗った。ヴェスタまで10日、ジッとしているには長過ぎるが仕方ねえ。と思っていたら俺の神経を逆撫でするハーレム夫婦と一緒になって気分は最悪。夜は他の迷惑も考えずおっぱじめ、馬車内でも女どもの猫なで声がイライラを増長させる。そして最高にムカつくのは男の自慢気な態度だった。だがこんなトコで怒鳴っても余計にイラつくだけ、そう自分に言い聞かせて黙っていた。

  そんな時、停留点であるハイミルからひとりの女が乗ってきた。

  それがキラだった。

  長く綺麗な銀髪、澄んだ空のような蒼い瞳は涼しげで穏やかで…可愛らしい唇は艶やかさまで纏っている。黒い長めのローブに上品な装飾の銀色のグリーブ。身体は覆われているのに、その優艶さは隠せていない。男なら誰もがあのローブの中身を見たいと思うだろう。

  俺はキラの持つ不思議な雰囲気と美しさから視線を剥がせずにいた。するとふと目が合う。何故か見つめ合うような形になったものの互いに目を逸らさない。

  その時他の奴らが戻ってきた。

  走り出した馬車内の男の視線が俺以外全てキラに注がれる。ハーレム野郎まで自分の妻そっちのけで見ていたが視線に慣れているのか本人は平然と構えていた。




 「レオハーヴェンだ」
 「キラです」

  夜、一緒に見張りをする事になり端的な自己紹介をすると似たような返事がきた。喧しいのが嫌いな俺にはちょうど良い。

  キラは黙って焚き火を見つめている。若そうだがある程度は野営に慣れているようだ。物音にも変にビクついたりしないし、メシ時に見たインベントリの感じだと魔力も高そうだった。チラリと見えたビキニアーマーが他の女冒険者とは違う意味である事は明確で、きっと腕も立つだろうと容易に想像出来る。

  そんな事を考えているうちにまた始まっちまった。今夜は一段と声がデカイ。

  さて、こいつはどう反応を示す?

  挙動を伺っていると、驚いた後少し照れたそぶりを覗かせたがすぐに表情が変わる。そして周囲の反応を見て息を吐き、茶を淹れて俺にも勧めた。

  落ち着いた女、それがキラの第一印象だった。











 翌日、馬車内で目障りな奴らが朝っぱらからイチャついている。そしてキラに見当違いな因縁を吹っかけて文句を言いだし、仕方なく返された言葉を嘲笑った。それでもキラは反論などせず黙ってやり過ごす。賢明な判断だが女どもはますますヒステリックになる。

  黙ってようと思ったがもう我慢ならねえ。俺は力で抑えつける事にした。

  怒気を隠さず言葉にすると一気に静かになり、やっとハーレム野郎が一言謝る。最後にそのハーレム野郎にだけ威圧を吹っかけて仕上げをした。




  その夜。きっちり正座して頭を下げ、俺に礼を言うキラ。お前の為じゃねえと返すが、助かったのでと呟いて茶を飲む。

  こんだけ美人でプロポーションも抜群、とくればもっと高飛車でも不思議じゃねえ。だがこいつは全く違った。

  変わった女だ、と思わず口にすれば不思議そうに首を傾げる。そこでふと思いついてコーヒーは飲まないか聞いてみると好きだと返事がきた。俺が淹れた訳じゃねえがコーヒーは大量に持ってきている。

 「明日はコーヒーを飲ませてやる」
 「わ、ありがとうございます。楽しみです」

  茶の礼をするつもりで言うと、必死に声を小さくしながら嬉しそうに答える。冷静で大人びているかと思えばコーヒーひとつで喜ぶ。その違いが可愛く思えて笑うとまた不思議そうな顔をした。

  とその時魔物の気配がした。

 「「―――!」」

  キラは俺とほぼ同時に気配を察知した。驚きながらもヤレるか聞くとしっかり頷き、なんと大剣を構えた。

  シルバーウルフをサッサとまとめて始末して戦いぶりを見ていたが、予想通り良い腕。加えて綺麗な剣筋に感心するがそれだけでは無かった。

  地面の血痕を瞬く間に洗い流す魔力の高さと発想力、寝不足の連続で疲労がたまっている御者親子に掛けた言葉にも感心し、極め付けは…

 コーヒーを飲んだ時の嬉しそうな笑顔。

  見惚れるほど綺麗で、それでいて可愛くて。その笑顔を引き出したコーヒーを淹れたのが俺ではないという事が酷く残念に思えて…自覚した。

  キラに惹かれている自分を。











 5日目、山越えの最中に雨に降られて小屋に着くまでにびしょ濡れになった。

  濡れたキラを見る野郎どもの目を遮るようにキラの前に立ち乾燥を頼むと、少しホッとした表情になった。俺の胸の前に手を置いて見上げてくる距離感と状況に柄にもなく照れてしまうが、その魔力を感じる事に集中した。

  魔力と一括りに言ってもその気配は千差万別、同じものなどない。人柄が出るのも特徴だ。好きな相手が嫌いな気配だった、なんて話は聞いた事ねえが相性が良いに越したことない。

  感じたのは、柔らかで気持ち良い暖かさ。

 「これがお前の魔力か…」
 「えっ?」
 「何でもねえよ、ありがとな」
 「はい…」

  『俺の魔力をいつかお前にも感じて欲しい』心の中でそう続けた。




  翌日も雨で足止めを食らって他の客がイラつき出したが、それを鎮めたのはキラだった。急に温かい物を作ると言い出してローブを脱ぎ、料理を始める。ローブは邪魔だったんだろうが、ビキニアーマーの後ろ姿はかなり魅力的だ。

  また魅惑的な格好を…と思いながら側に立って野郎どもを威嚇し、自分は手際の良い作業を見つめる。細くて綺麗な指がするすると迷いなく動くのは、ずっと見ていても全然飽きなかった。

  出来たチーズリゾットはもちろん美味い。

  その後、温かい料理に嫌な空気が和んだのは言うまでもない事だった。

  雨も止み、明日は山を降りられる。そうすればヴェスタはもう目の前だ。俺は街に着いてからもどうやって繋がりを持ち続けるか考えを巡らせていた。

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