異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
上 下
13 / 213

11.報告

しおりを挟む

 ハイミルに着いたのは21時。きちんとした身分証があれば22時までは街に入れる。

  真っ直ぐギルドへ戻りながらヘルプした内容を思い出していた。



  魔素はこの世界のありとあらゆるところに存在し、循環している。魔素溜まりとは、循環が悪くなって凝った魔素が1箇所に留まる事で出来るものだ。魔力感知スキルでも持っていなければ発生前に発見するのは困難、その上規模も発生場所も規則性は無い。その為突如として起こる場合が殆どだ。

  起こってしまうと魔物を引き寄せる。魔物は魔素を吸収し、限界を超えるとトランス状態となり狂暴化する。狂暴化した魔物は見境なく周囲を破壊し、猛り狂う。放っておくと近くの村や街を襲撃するのだ。




  ギルド内はまだ多少混み合っていて、窓口にも列があった。

  列に並び、程なくして私の番になったのでまずは達成報告をする。依頼書、薬草類計40本、ゴブリンの魔石18個入りの袋をカウンターに出す。後ろに並んでいる人は居ないので少し時間がかかっても平気だろう。

 「他にゴブリンメイジとウルフの魔石もあるんですが、取り敢えず依頼の分を先にした方が良いですよね?」
 「は、はい…ええと…」

  私の言葉を聞いて驚きながら返事をするもオドオド落ち着きがない。依頼書と薬草の山を見比べて選別を始めるが出来てない、混ざってる。そうしているうちに魔石を入れていた袋をを肘で小突き…

 ゴロ…ゴロロ…ゴロロロ…!!

  私は咄嗟に手を出したが間に合わず、袋から魔石が床に転がり落ちてしまった。…こちら側に。

 「うきゃあ!あ、あう…す、すみませんっ!すぐ拾いますぅ!」

  真っ赤になって謝り、カウンターを出て来て…

 ビタンッ!

 「へぶっ!!」

  転ぶ。しかもコントみたいに見事な前のめり。

 「……大丈夫ですか?」
 「…うぅ…ひゃい…らいじょうぶです…すみません…」

  声をかけながら散らばった魔石を拾っていると、違う女性が出て来た。

 「も、申し訳ありません!」

  頭を下げて謝り、テキパキと拾い集める。

 「すぐに確認をします。もう少々お待ちください」
 「はい」

  私に笑顔で言い、転んだ子を引っ張り起こしてカウンター内へ連れていった。他の受付嬢は苦笑い、冒険者たちはまたかと野次を飛ばしたり呆れていたり。

  皆知ってたんだね、ドジっ子だって。道理でこの子の窓口だけ人が少なかった訳だ。

 「お待たせしました。他の魔石もあるという事ですが全て買い取りに出されますか?」
 「はい、お願いします」

  残りの魔石ゴブリンメイジ4個、ウルフ16個を出す。ゴブリンも含めると計38個。数の多さに目を丸くする彼女に告げる。

 「今日ヒルバの森で魔素溜まりを見つけまして…」
 「そ、それは本当ですか!?少々お待ちください、今上の者に…」
 「あの、消滅は確認して来ました」

  魔素溜まりと聞いてすぐ上司を呼びに走ろうとするのを引き止めて続けた。

 「え…消滅、ですか?」
 「はい」
 「魔物は…」
 「先ほどのゴブリンとこれです」

  カウンターの魔石を指差す。周囲はざわざわと騒ぎ出し、女性は暫し惚ける。

 「…ハッ、あ、あの、お待たせしてばかりで申し訳ないのですが、もう少々お待ちください…」
 「はい。大丈夫ですよ」

  これはギルドマスターとかに呼ばれるパターンかな…

 そう考えながら慌てて奥へ行く後ろ姿を見送った。











 コンコン

「失礼します。ギルマス、キラさんをお連れしました」
 「おう、お前は戻っていいぞ」
 「はい。失礼しました」

  案内してくれた受付嬢が出て行くと部屋はギルマスともう1人の男、そして私の3人になった。やはり呼ばれましたよ。

 「お前がキラか。俺はアンメルツ、ハイミルの冒険者ギルドのマスターだ」
 「サブマスターのプラフです」

  執務机に座っていたギルマスが立って来て自己紹介すると、サブマスターも続いて名乗る。

  ギルマスは見た目40代、私よりかなり背が高く、色黒で白髪、筋骨隆々で顔もゴツイ。威圧感がスゴイ。アンメルツヨ○ヨ○を連想して笑ってはいけません。

  サブマスターは見た目30代、背は私より少し高く細身、淡いブルーの髪と濃いブルーの瞳で片目に眼帯をしている。綺麗な顔立ちだが冷たそうな印象を受けた。

 「キラです。よろしくお願いします」

  私も挨拶して頭を下げるとプラフさんがちょっと目を見開く。

  何だか会釈する度に驚かれてる気が…もしかしてここにはそういう文化が無いのかな?いや、返してくれた人もいるからそんな事はないか。

 「座れ。早速詳しい話を聞かせてくれ」
 「はい」

  ギルマスに促され、私は順を追って詳しく話した。



 「場所は確かにここだな?」
 「はい。森の北側から入った時、南東の方角にこのスペースが見えたんです。帰りも北側から出たのでここで間違いありません」

  テーブルに拡げられたヒルバの森の地図を見ながら答える。地図はやはり大まかにしか書かれていなかったがあのスペースは大きな目印として載っていたので確かだ。

 「…魔素溜まりは消えたように見えても縮んで燻っている場合があります。どうやって判断したのですか?」
 「解析です。1度目は消滅寸前、少し経ってからもう一度解析したら土に戻っていました」

  プラフさんに聞かれて素直に答えたが彼は目を眇めて私を見据える。

 「魔素溜まりの解析などスキルが上級ランクでなければ出来ないはずですが」
 「おい、プラフ…」

  ギルマスの言葉を遮って続ける。

 「正直に申し上げると、あなたのような新人冒険者が上級を持っているとは信じ難い」

  まあ普通はそうだよね。要するに証拠を見せろ、という事だろう。私はインベントリからギルドカードをとりだし、解析スキルを呼びだして2人に提示した。

 「「……」」

  解析(S)の文字を見て無言になる2人。先に我に返ったのはプラフさん。

 「…すみません」
 「いえ」
 「その若さでS級スキルか…凄えな…」
 「マスター、検証への同行はどうします?」

  謝罪を口にしてくれたが全くの無表情。スゴイポーカーフェイス。話の切り替えも早い。

 「いや、大丈夫だろ。キラ、悪いが明日明後日は街を出ないでくれるか?」
 「褒賞金は魔素溜まり跡を検証し、確認が取れたら出ます。規模によって金額が異なりますが新人にとっては大金でしょう」
 「褒賞金、ですか?」

  知らなかった制度に首を傾げて聞き返すとまた驚く2人。

 「…知らなかったのか?」
 「はい。あ、褒賞金がどういうものかは知ってますよ」
 「…では、何故わざわざ報告を?」
 「何故って…消滅したとはいえ、あんな異常事態があったら報告するのが当然じゃないですか?」
 「「……」」

  よく驚かれる日だ。

 「…とにかく結果が出て褒賞金を受け取るまで街に居て下さい」
 「はい、分かりました」




  部屋を出て息を吐く。

  良かった。どうやって倒したかとか細々と聞かれなくて。それに褒賞金か。プラフさんの言っていた通り、少額でも私にはありがたい。

  さて、カウンターに寄って部屋に戻ろう。

  思ってもいなかった収入に足取りも軽くその場を離れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車輪屋男爵~異世界から来たピンク髪で巨乳の女の子が冷蔵庫とかシャワーとか良く分からないことを言ってるので訳してもらっていいッスか?

くさなぎ
ファンタジー
 『車輪』、それは神代文字……カタカムナ。  郵便馬車で始まった車輪屋は異世界文化の流入と同時に次第に変化していった。  斜陽を迎え、崩壊と混乱へと向かいつつある巨大な『帝国』世界。  元も辺境に位置する弱小貴族のアレキサンダー男爵の当主エドアードこと、三流魔術師クローリー。  彼は、|賢者《セージ》を名乗る異世界から召喚されてきた小太りの青年から伝え聞いたバブル時代の日本の豊かさと平和に憧れた。  世界を変えようとまでは思わない。  自分と自分の周り、つまり小さな自分の領地の中だけでも豊かにしたかった。  優れた領主というわけではない。  人望もあまりない。  みんなで食料に困らず、今よりちょっと豊かに、今よりちょっと楽ができる世界。  それがクローリーの妄想する世界だった。  混乱する帝国では各諸侯たちが暗躍する。  異世界から異能の力を持ったバランスブレイカーを召喚して戦略兵器としてキャスティングボードを握ろうとしていた。  そのために次々と異世界から召喚されるが、その多くは平凡な人物だった。  彼らは『ハズレ』と呼ばれゴミのように捨てられた。  だが、そのような存在こそクローリーの望むもの。  能力よりも豊かな異世界の文化の知識を必要としていたのだ。  例えば塾講師、例えばテロリスト……。  例えば胸の大きい女子中学生。  後で考えればその巨乳ロリ中学生の沙那を拾ったことが全ての始まりだったのかもしれない。 「なにこれ、美味しくないーい!味しなーい!」「お風呂とシャワーはー?」「街の中がトイレの臭いするー。くっさーい!」  物怖じしない超アクティブなJCに振り回されつつ、クローリーの野望は現実化していく……のだが!  世界は混沌としていくばかり。  クローリーの箱庭のような領地にも次々と難題が襲い掛かる。、   何で攻めてくるやつらがいるの?     荒波の中の小舟のように揺れるクローリーたちの明日はどっちだ!? (この作品は下書きみたいなものなので、いずれは再構成版をアップしたいと思います)

処理中です...