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11.報告
しおりを挟むハイミルに着いたのは21時。きちんとした身分証があれば22時までは街に入れる。
真っ直ぐギルドへ戻りながらヘルプした内容を思い出していた。
魔素はこの世界のありとあらゆるところに存在し、循環している。魔素溜まりとは、循環が悪くなって凝った魔素が1箇所に留まる事で出来るものだ。魔力感知スキルでも持っていなければ発生前に発見するのは困難、その上規模も発生場所も規則性は無い。その為突如として起こる場合が殆どだ。
起こってしまうと魔物を引き寄せる。魔物は魔素を吸収し、限界を超えるとトランス状態となり狂暴化する。狂暴化した魔物は見境なく周囲を破壊し、猛り狂う。放っておくと近くの村や街を襲撃するのだ。
ギルド内はまだ多少混み合っていて、窓口にも列があった。
列に並び、程なくして私の番になったのでまずは達成報告をする。依頼書、薬草類計40本、ゴブリンの魔石18個入りの袋をカウンターに出す。後ろに並んでいる人は居ないので少し時間がかかっても平気だろう。
「他にゴブリンメイジとウルフの魔石もあるんですが、取り敢えず依頼の分を先にした方が良いですよね?」
「は、はい…ええと…」
私の言葉を聞いて驚きながら返事をするもオドオド落ち着きがない。依頼書と薬草の山を見比べて選別を始めるが出来てない、混ざってる。そうしているうちに魔石を入れていた袋をを肘で小突き…
ゴロ…ゴロロ…ゴロロロ…!!
私は咄嗟に手を出したが間に合わず、袋から魔石が床に転がり落ちてしまった。…こちら側に。
「うきゃあ!あ、あう…す、すみませんっ!すぐ拾いますぅ!」
真っ赤になって謝り、カウンターを出て来て…
ビタンッ!
「へぶっ!!」
転ぶ。しかもコントみたいに見事な前のめり。
「……大丈夫ですか?」
「…うぅ…ひゃい…らいじょうぶです…すみません…」
声をかけながら散らばった魔石を拾っていると、違う女性が出て来た。
「も、申し訳ありません!」
頭を下げて謝り、テキパキと拾い集める。
「すぐに確認をします。もう少々お待ちください」
「はい」
私に笑顔で言い、転んだ子を引っ張り起こしてカウンター内へ連れていった。他の受付嬢は苦笑い、冒険者たちはまたかと野次を飛ばしたり呆れていたり。
皆知ってたんだね、ドジっ子だって。道理でこの子の窓口だけ人が少なかった訳だ。
「お待たせしました。他の魔石もあるという事ですが全て買い取りに出されますか?」
「はい、お願いします」
残りの魔石ゴブリンメイジ4個、ウルフ16個を出す。ゴブリンも含めると計38個。数の多さに目を丸くする彼女に告げる。
「今日ヒルバの森で魔素溜まりを見つけまして…」
「そ、それは本当ですか!?少々お待ちください、今上の者に…」
「あの、消滅は確認して来ました」
魔素溜まりと聞いてすぐ上司を呼びに走ろうとするのを引き止めて続けた。
「え…消滅、ですか?」
「はい」
「魔物は…」
「先ほどのゴブリンとこれです」
カウンターの魔石を指差す。周囲はざわざわと騒ぎ出し、女性は暫し惚ける。
「…ハッ、あ、あの、お待たせしてばかりで申し訳ないのですが、もう少々お待ちください…」
「はい。大丈夫ですよ」
これはギルドマスターとかに呼ばれるパターンかな…
そう考えながら慌てて奥へ行く後ろ姿を見送った。
■
コンコン
「失礼します。ギルマス、キラさんをお連れしました」
「おう、お前は戻っていいぞ」
「はい。失礼しました」
案内してくれた受付嬢が出て行くと部屋はギルマスともう1人の男、そして私の3人になった。やはり呼ばれましたよ。
「お前がキラか。俺はアンメルツ、ハイミルの冒険者ギルドのマスターだ」
「サブマスターのプラフです」
執務机に座っていたギルマスが立って来て自己紹介すると、サブマスターも続いて名乗る。
ギルマスは見た目40代、私よりかなり背が高く、色黒で白髪、筋骨隆々で顔もゴツイ。威圧感がスゴイ。アンメルツヨ○ヨ○を連想して笑ってはいけません。
サブマスターは見た目30代、背は私より少し高く細身、淡いブルーの髪と濃いブルーの瞳で片目に眼帯をしている。綺麗な顔立ちだが冷たそうな印象を受けた。
「キラです。よろしくお願いします」
私も挨拶して頭を下げるとプラフさんがちょっと目を見開く。
何だか会釈する度に驚かれてる気が…もしかしてここにはそういう文化が無いのかな?いや、返してくれた人もいるからそんな事はないか。
「座れ。早速詳しい話を聞かせてくれ」
「はい」
ギルマスに促され、私は順を追って詳しく話した。
「場所は確かにここだな?」
「はい。森の北側から入った時、南東の方角にこのスペースが見えたんです。帰りも北側から出たのでここで間違いありません」
テーブルに拡げられたヒルバの森の地図を見ながら答える。地図はやはり大まかにしか書かれていなかったがあのスペースは大きな目印として載っていたので確かだ。
「…魔素溜まりは消えたように見えても縮んで燻っている場合があります。どうやって判断したのですか?」
「解析です。1度目は消滅寸前、少し経ってからもう一度解析したら土に戻っていました」
プラフさんに聞かれて素直に答えたが彼は目を眇めて私を見据える。
「魔素溜まりの解析などスキルが上級ランクでなければ出来ないはずですが」
「おい、プラフ…」
ギルマスの言葉を遮って続ける。
「正直に申し上げると、あなたのような新人冒険者が上級を持っているとは信じ難い」
まあ普通はそうだよね。要するに証拠を見せろ、という事だろう。私はインベントリからギルドカードをとりだし、解析スキルを呼びだして2人に提示した。
「「……」」
解析(S)の文字を見て無言になる2人。先に我に返ったのはプラフさん。
「…すみません」
「いえ」
「その若さでS級スキルか…凄えな…」
「マスター、検証への同行はどうします?」
謝罪を口にしてくれたが全くの無表情。スゴイポーカーフェイス。話の切り替えも早い。
「いや、大丈夫だろ。キラ、悪いが明日明後日は街を出ないでくれるか?」
「褒賞金は魔素溜まり跡を検証し、確認が取れたら出ます。規模によって金額が異なりますが新人にとっては大金でしょう」
「褒賞金、ですか?」
知らなかった制度に首を傾げて聞き返すとまた驚く2人。
「…知らなかったのか?」
「はい。あ、褒賞金がどういうものかは知ってますよ」
「…では、何故わざわざ報告を?」
「何故って…消滅したとはいえ、あんな異常事態があったら報告するのが当然じゃないですか?」
「「……」」
よく驚かれる日だ。
「…とにかく結果が出て褒賞金を受け取るまで街に居て下さい」
「はい、分かりました」
部屋を出て息を吐く。
良かった。どうやって倒したかとか細々と聞かれなくて。それに褒賞金か。プラフさんの言っていた通り、少額でも私にはありがたい。
さて、カウンターに寄って部屋に戻ろう。
思ってもいなかった収入に足取りも軽くその場を離れた。
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