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10.初依頼
しおりを挟む翌朝、6時に目が覚めた。もはやいつもの時間と表現出来る気がする。
支度をして食堂へ降り、カギを見せると昨日の強面男性とは違う男性。まあそうか、酒場は遅くまで開いているだろうから朝早いのは辛い。
食後はすぐに下級ボード前へ行き、薬草類採集とゴブリン討伐の依頼を受けた。採集は薬草をはじめ火種草や糊草など計20本以上、討伐は5体以上で上限、期限は共に無し。常時ギルドから出されているものだ。最初なのだからこのくらいが良い。
カウンターを離れようとすると受付嬢から声が掛かった。
「あの、どの森へ行くのも北門から出た方が近いですよ」
「そうなんですか?知りませんでした。ありがとうございます。行ってきます」
「いってらっしゃいませ、お気を付けて」
彼女の温かい言葉を嬉しく思いながらギルドを発ち、北門から街を出た。
森は街の北、東、西にあり、昨日借りた本で見た地図は挿し絵と同様アテにはならずおおよその位置しか載っていなかった。ヘルプでも何処から出ると近いとか、入り口はどっち側かとかは分からない。だから彼女の助言はとても助かる。
私は本日の目的地である東のヒルバの森を目指した。
■
11時20分、ヒルバの森に到着。今回受けた依頼ならどの森でも達成出来そうだったが、一番迷い難いという一文に惹かれてここに決めたのだ。
薬草はある木の側に密集して生える、という本の情報を元にまずは木を探す。注意深く観察していると程なく目当ての木を発見、辺りに解析をかけて一気に採集した。続けて糊草と火種草も探し、たくさん生えているものは状態の良さで選んで採った。
採集は捗ったがその間にゴブリンにも出会すだろうという目論見は外れ、魔物を全く見かけないまま15時を過ぎた。幾ら何でも全くいないのはおかしい。ここはゴブリンやウルフなど下級冒険者でも倒せる魔物が多数存在し、ギルドがレベル上げに推奨している森なのに。
でも居ないのなら仕方がない、探しながら戻ろう。そう考えて移動を開始した直後、視界の端にゴブリンが見えた。
居た!
相手はまだこちらに気が付かない。細心の注意を払って少しずつ近づく。
が、どうも様子が変だ。
いつも複数で行動する奴らが1体しかいない上、周囲を全く見ずにふらふらと歩いている。ケガしている風でも無く、何かに誘われる夢遊病者みたいな動き。
戻る方向とさして違いはなかったし、気になったので大剣を構えながら後をつけてみる。ゴブリンはぽっかりと木のないスペースへと入って行く。森へ入った時遠目に見えた場所だ。その時は何か居たようには見えなかったが。
コソッと覗いた私は、目に飛び込んできた光景にギョッとして声を上げそうになった。慌てて口を押さえる。
そこでは沢山のゴブリンとウルフが何かから立ち昇る靄に凄い勢いで群がっていた。
何だか分からないけどとにかくここは危険。早く離れようと一歩後ずさる。
と、背後でガサッと音が!
振り向いた先に待ち構えていたのはウルフ。1体だがもう逃げられない。ウルフが飛びかかってきたのと大剣で斬りつけたのはほぼ同時、鋭い爪と牙は私に届く事なくその体は宙で裂けた。前方にはもういない事を素早く視認しスペースを振り返る。
やはり気付かれた!異常に血走った眼をした魔物たちが一斉に私へ向かってくる。もう薙ぎ払うしか手はない!
バッ!とスペースへ飛び出す。
「【薙ぎ払い!!】」
また魔石だけになるかも、という考えが頭を過るが当然加減する余裕などない。私は思いっきり大剣を横一線に払った。
神剣を通して放たれた魔力が無数の刃となって魔物に襲いかかる。刃は瞬く間にそのカラダを粉々に斬り裂いて消滅させた。
静まり返ったスペースに残ったのは沢山の魔石と僅かな血痕、それと斬り倒してしまった後方の木。
またやってしまった。魔石があればカラダだってあるのが普通で、魔石だけ売るなど不自然だろう。煩く聞かれなきゃいいな…。隠しておきたい気持ちもあるがこれはギルドに報告しなければいけないだろう。
いつまでもここにいる訳にはいかない。
散らばった魔石は回収、倒れた木は現場保存を考えてそのままにし、最後にあの靄を確かめる。見つけた時より小さくなったそれは地面から出ていた。解析。
【解析結果】
【名前】魔素溜まり
【種類】ーー
【状態】消滅寸前
【備考】ーー
これだけ?消滅寸前の魔素溜まり、か。これって完全に消滅するまで見届けた方が良いのかな?
そう考えているうちに靄が霧散する。念の為解析もしたがただの土に還っていた。戻ったならもうここにいる必要はない。
私は足早に森を出た。
■
森を出ると16時半、夕日に染まった細い道を急いで街道へ。少し進んだ所で来る時も休憩した川沿いで休む。解析せずにしまった魔石をインベントリのリストでチェック。1つ1つ取り出して解析となるとえらく時間かかるので、試しに入れたままの状態でまとめて解析。するとリストの横に解析欄なるものが増えた。そして魔石の解析欄には結果がズラリと並んだ。
おぉ、試してみるものですねぇ。複製出来そうなスキルはないかな~っと…。あ、あった!
見つかったスキルは、風魔法(F)、土魔法(F)、危機察知(F)、それに待望の回復魔法(E)!風と土、危機察知はウルフが、回復はゴブリンメイジが持っていた。Eランクの回復はまだ複製出来ないのでこの魔石だけは売らない事にして他を複製。
おにぎりを食べながらステータスの確認。
【ステータス】
【名前】キラ
【年令】20才
【職業】冒険者
【レベル】29
【体力】146
【魔力】4015/4920
【攻撃力】358
【防御力】270
【素早さ】109
【スキル】剣術(S)・火魔法(F)・風魔法(F)・土魔法(F)・解析(S)・危機察知(F)
【固有スキル】複製(F)0/3
【称号】転移人
…レベル29。異世界に来てまだ10日も経ってないのに1から29。これって剣術スキルと神弟子様の剣のおかげだよね。ありがたいかぎりです。教会とか神殿があったら絶対お祈りに行こう。それにしても、魔力が減ってるのを初めて数字で見た。今日だけで900も使ってる。どう考えても解析で減ったんだよね?覚えておいて偶にチェックしなきゃ。あ、剣術の文字が光ってる、見てみよう。
クリックするとメッセージが。
《剣技・峰打ちを獲得しました。確認しますか?》《YES・NO》
YES。
切り替わった画面には、剣技・峰打ち(12)、の文字。
これも字面から想像はつく。でも魔物相手に峰打ちを使う機会があるかな?…あぁ、盗賊とか捕まえるなら使えるか。ただ敵の数が多いとどうかな?まあ今考えても仕方ない。帰ろう。
私は腰掛けていた切り株から立ち上がった。
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