199 / 213
181.顔合わせ
しおりを挟む
コテージに帰った私たちは、昼食を済ませてから冒険者ギルドに向かった。
有事の際はもちろん、通常でも街の守りとして重要な立場にあるSランクパーティーは、拠点としている街のギルマスと顔合わせをしておく必要かある。暫くシラコワに滞在することが決まった私たちも、ここのギルマスには挨拶しておかなければならないのだ。
なので今日の目的はギルマスへの挨拶である。
最近は外で待つ事が多いスノウたちと別れてギルド内に入る。14時という暇な時間帯だが冒険者はそこそこ居て、皆思い思いに過ごしている。確かにギルドは冒険者同士の交流場所でもあるが、やはりここのような緩い雰囲気は珍しい。
まずは空いている窓口へ。
「ギルマスに会いたいんだが」
「お名前とご用件をお願いします」
レオンがカウンターにパーティーのカードを出す。
「Sランクパーティーのレックスだ。ギルマスに挨拶したい」
「…!少々お待ちください」
カードを見て目を見開いた受付嬢は足早に奥へ消え、少しして戻ってきた。
「ご案内します。こちらへどうぞ」
私たちはギルマスの執務室へと案内された。
「おれがシラコワの冒険者ギルドマスター、ジキルだ」
「サブマスターのスカーレットです」
執務室にはマスターとサブマスターが揃っていた。
ギルマスのジキルさんは見た目50代、スキンヘッドとつぶらな瞳、筋骨隆々な体をしている。声も何だかドスが効いているし、これでサングラスでもかければ外見は完璧にヤクザだが瞳は可愛い。
そしてサブマスターのスカーレットさんは物凄い金髪美人…いや、美男子だ。名前だけ聞けば女性かと思いそうだが、とにかく綺麗なその顔立ちは神秘的で中性的。身体もあまり筋肉は無いようだし、服装によっては男女どちらにも見えるであろう不思議な人だ。年齢も想像が付き難い。
「レックスのリーダー、レオハーヴェンだ」
「エヴァントです」
「キラです」
簡素な自己紹介を終え、促されてソファーに腰掛けるとジキルさんが話し始める。
「カードは確認させてもらった。…全員Sランクのパーティーなんて初めて見た。しかも…いや、話が逸れたな。それで?」
「俺らは旅の冒険者だが、暫くの間シラコワに滞在することになったから挨拶に。期間は1年前後だ」
「理由は?」
「妻が妊娠中だからだ。子が産まれて落ち着くまで一か所に留まる事にした」
「そうか」
旅の冒険者が1つの街に何か月も滞在することはあまりないが、私を見た時点で分かっていたのだろう。2人はすんなり納得した。
次にスカーレットさんが口を開く。
「Sランクパーティーの役割はあなた方もご存じでしょうが、念のため申し上げておきます。奥さんが妊娠中でも、有事の際にレオハーヴェンさんとエヴァントさんのお2人には協力していただくことになりますがよろしいですか?」
「ああ、承知している」
「…ありがとうございます」
「俺らの他にSランクパーティーは?」
「シラコワには居ません。Aランクパーティーは居ますが」
「そうか」
「滞在地をお聞きしても?」
「カルマさんの土地を借りている」
カルマさんの名が出た途端、2人が一瞬目を見開く。
「カルマ婆さんが土地貸したのか?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「いや…カルマ婆さんは色々賃貸条件が厳しくて、クリアできた奴はあまりいないからちょっと驚いただけだ」
商業ギルドでならともかく、冒険者ギルドにまで知られてるなんて…厳しくて有名な人なんだ。でも私がそう思ったのは初対面の時の僅かな間だけ。それも訳あってのことだし、本当はとても優しい人だと思うな。
「とにかく、一時的にでもSランクパーティーが街に居るのは有り難い。よろしくな」
「こっちこそ、よろしく頼む」
ジキルさんとレオンが握手を交わす。
その後いくつか質問し、一応依頼もチェックしてからギルドを後にした。
その頃執務室ではジキルとスカーレットがレックスについて話していた。
「レックス…何処かで聞いたような…」
「ラッキーシンボルですよ」
「おお、それだ!」
ポンッと手を打つギルマス。
「同一人物だと思うか?」
「ええ、おそらくは」
「凄えな…」
「そうですね、同感です」
「珍しいな。お前が手放しで褒めるなんてよ」
「…対面しただけで圧倒的強者であることが分かるような相手に対して、他にどう言えと?」
「それもそうか…」
窓から外を眺めていたスカーレットの視線は、帰路に着こうとしているレックス一行に注がれていた。
◼️
その日の夕食後。
「これで挨拶やら何やらは済んだな」
「だね。ちょっと慌ただしかったけど、キラ疲れてない?」
「うん。大丈夫」
「そう?良かった。後4日も経てば安定期だし、それまではのんびりしよう」
「そうだな。大森林の情報集めと依頼消化はその後で良い」
「あ、なら温泉に行きたいな」
(おんせん!スノウもおんせんいきたいの!)
(オレ モ)
私の希望にテーブルの上に居たスノウとスレートも賛成の声を上げる。
「そういえばまだ行ってなかったな」
「そうだったね。じゃあ明後日辺りにでも行ってみる?」
「ああ、良いぜ」
(やったぁなの!)
(バンザイ)
「ふふ、楽しみだね。サニーとサックスが入れないのは残念だけど」
「ここでも飲料用を売ってれば、複製で増やして馬体を洗ってあげられるんだけどね」
「そうだね、あれば良いな」
こうして大まかな予定を組み終えた後、コテージのバスルームでゆっくりと温まってから眠った。
有事の際はもちろん、通常でも街の守りとして重要な立場にあるSランクパーティーは、拠点としている街のギルマスと顔合わせをしておく必要かある。暫くシラコワに滞在することが決まった私たちも、ここのギルマスには挨拶しておかなければならないのだ。
なので今日の目的はギルマスへの挨拶である。
最近は外で待つ事が多いスノウたちと別れてギルド内に入る。14時という暇な時間帯だが冒険者はそこそこ居て、皆思い思いに過ごしている。確かにギルドは冒険者同士の交流場所でもあるが、やはりここのような緩い雰囲気は珍しい。
まずは空いている窓口へ。
「ギルマスに会いたいんだが」
「お名前とご用件をお願いします」
レオンがカウンターにパーティーのカードを出す。
「Sランクパーティーのレックスだ。ギルマスに挨拶したい」
「…!少々お待ちください」
カードを見て目を見開いた受付嬢は足早に奥へ消え、少しして戻ってきた。
「ご案内します。こちらへどうぞ」
私たちはギルマスの執務室へと案内された。
「おれがシラコワの冒険者ギルドマスター、ジキルだ」
「サブマスターのスカーレットです」
執務室にはマスターとサブマスターが揃っていた。
ギルマスのジキルさんは見た目50代、スキンヘッドとつぶらな瞳、筋骨隆々な体をしている。声も何だかドスが効いているし、これでサングラスでもかければ外見は完璧にヤクザだが瞳は可愛い。
そしてサブマスターのスカーレットさんは物凄い金髪美人…いや、美男子だ。名前だけ聞けば女性かと思いそうだが、とにかく綺麗なその顔立ちは神秘的で中性的。身体もあまり筋肉は無いようだし、服装によっては男女どちらにも見えるであろう不思議な人だ。年齢も想像が付き難い。
「レックスのリーダー、レオハーヴェンだ」
「エヴァントです」
「キラです」
簡素な自己紹介を終え、促されてソファーに腰掛けるとジキルさんが話し始める。
「カードは確認させてもらった。…全員Sランクのパーティーなんて初めて見た。しかも…いや、話が逸れたな。それで?」
「俺らは旅の冒険者だが、暫くの間シラコワに滞在することになったから挨拶に。期間は1年前後だ」
「理由は?」
「妻が妊娠中だからだ。子が産まれて落ち着くまで一か所に留まる事にした」
「そうか」
旅の冒険者が1つの街に何か月も滞在することはあまりないが、私を見た時点で分かっていたのだろう。2人はすんなり納得した。
次にスカーレットさんが口を開く。
「Sランクパーティーの役割はあなた方もご存じでしょうが、念のため申し上げておきます。奥さんが妊娠中でも、有事の際にレオハーヴェンさんとエヴァントさんのお2人には協力していただくことになりますがよろしいですか?」
「ああ、承知している」
「…ありがとうございます」
「俺らの他にSランクパーティーは?」
「シラコワには居ません。Aランクパーティーは居ますが」
「そうか」
「滞在地をお聞きしても?」
「カルマさんの土地を借りている」
カルマさんの名が出た途端、2人が一瞬目を見開く。
「カルマ婆さんが土地貸したのか?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「いや…カルマ婆さんは色々賃貸条件が厳しくて、クリアできた奴はあまりいないからちょっと驚いただけだ」
商業ギルドでならともかく、冒険者ギルドにまで知られてるなんて…厳しくて有名な人なんだ。でも私がそう思ったのは初対面の時の僅かな間だけ。それも訳あってのことだし、本当はとても優しい人だと思うな。
「とにかく、一時的にでもSランクパーティーが街に居るのは有り難い。よろしくな」
「こっちこそ、よろしく頼む」
ジキルさんとレオンが握手を交わす。
その後いくつか質問し、一応依頼もチェックしてからギルドを後にした。
その頃執務室ではジキルとスカーレットがレックスについて話していた。
「レックス…何処かで聞いたような…」
「ラッキーシンボルですよ」
「おお、それだ!」
ポンッと手を打つギルマス。
「同一人物だと思うか?」
「ええ、おそらくは」
「凄えな…」
「そうですね、同感です」
「珍しいな。お前が手放しで褒めるなんてよ」
「…対面しただけで圧倒的強者であることが分かるような相手に対して、他にどう言えと?」
「それもそうか…」
窓から外を眺めていたスカーレットの視線は、帰路に着こうとしているレックス一行に注がれていた。
◼️
その日の夕食後。
「これで挨拶やら何やらは済んだな」
「だね。ちょっと慌ただしかったけど、キラ疲れてない?」
「うん。大丈夫」
「そう?良かった。後4日も経てば安定期だし、それまではのんびりしよう」
「そうだな。大森林の情報集めと依頼消化はその後で良い」
「あ、なら温泉に行きたいな」
(おんせん!スノウもおんせんいきたいの!)
(オレ モ)
私の希望にテーブルの上に居たスノウとスレートも賛成の声を上げる。
「そういえばまだ行ってなかったな」
「そうだったね。じゃあ明後日辺りにでも行ってみる?」
「ああ、良いぜ」
(やったぁなの!)
(バンザイ)
「ふふ、楽しみだね。サニーとサックスが入れないのは残念だけど」
「ここでも飲料用を売ってれば、複製で増やして馬体を洗ってあげられるんだけどね」
「そうだね、あれば良いな」
こうして大まかな予定を組み終えた後、コテージのバスルームでゆっくりと温まってから眠った。
41
お気に入りに追加
4,891
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる