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7話 告白

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 朝、いつもより遅く目が覚めた。昨夜本を最後まで読んだら寝るのが遅くなってしまった。朝食を食べ、掃除、洗濯を済ませてから、炊いてあったご飯を塩むすびにして持っていく。今日は冒険者服だ。髪もまとめているので動きやすい。

  街を出て目的の場所へ向かう。最初はオリーブだ。本に書いてあった場所に着き採取で探すとすぐに木が見つかった。私の知っている物より大粒だが確かにオリーブだった。十分な量を採り、次に回復薬の材料を探す。自分でも少しストックしておくためだ。大体終わったところで川に移動してお昼にする。塩むすびを食べた後は釣りに挑戦だ。

  朝、家にある物で作った練り餌を付けて始める。まあ、釣れたらラッキーくらいの気持ちでやろう。

  結果は中々のものだった。ガトリー(イワナ似)と、ニコ(ワカサギ似の小魚)という魚が釣れた。練り餌の成果か、スキルの影響かは分からないが。

  そろそろ帰ろうと立ち上がると、探索に1つの赤いマーカー。川上の方だ。隠密を使って近づくと、大きなブタがいた。

  …ブタにしか見えないが、マーカーが赤いからあれも魔物なのだろう。仕留めてみよう。

  水を飲んでいるブタの後ろから狙って矢を射る。当たると「プギー!」と鳴き声を上げてのたうち回るが、すぐに動かなくなった。念のためダガーを持って近づき、確認してからしまう。

 <解析>   プギー レベル9 獣魔物

  …豚は解体した事ないけど、やってみよう。皮も使えるはずだし、豚肉が手に入るかも。

  夕刻になり、辺りがオレンジ色に染まる頃、やっと解体が終わった。魔石は無かったが、皮も使えそうだし、お肉は解析でも食材と出たし、見た目もやっぱり豚肉だった。これで食事のバリエーションが増える!

  村へ帰ってくると、すっかり暗くなってしまった。宿屋で夕食を済ませて家に向かうと、途中でクロスさんに会った。クロスさんは私を見つけると駆け寄ってきた。

 「ナツメちゃん!こんばんは。…あれ、もしかして外に行ってたの?1人で?大丈夫だった?」
  私の服装を見て心配そうに言う。
 「こんばんは、クロスさん。大丈夫ですよ。ありがとうございます」
  お礼を言うと、何だか顔を赤くしながらも私を見つめて言う。
 「うん、…あのさ、良かったら1人で外に出る時声かけてよ。この辺りの魔物はあまり強くないけど、やっぱり女の子1人じゃ危ないよ。ね?」
  だんだん近づいてくる。

  …近い。私は距離を取りたくて少し後ろに下がって話す。

 「…気遣いは嬉しいですけど、大丈夫ですから」
 「…そう?でも気が向いたらいつでも言ってね?」
 「はい、ありがとうございます。…じゃあ、失礼します」

  クロスさんはまだ何か言いたげだったが、話を切り上げて横をすり抜ける。
 振り向かずに家へ急いだ。こんな人気のない暗い場所で長く話すのは抵抗があった。

  シザーとロイさんが出発前に言っていた事を思い出す。…まさかね、でもクロスさんは私の家の方から来た。家から話をした場所までは一本道で周りも何もない。…もしかして家まで来たのかな?こんな夜に?…早く帰ろう。

  家に入ると入口はもちろん、裏口も窓もしっかりカギをかけて一息つく。
とりあえず明日からは、遅くならないように気を付けよう。そう決めてさっさとお風呂に入って寝る事にした。











 翌朝、いつものように朝食、掃除、洗濯を済ませる。直してもらったクワで畑を耕し、教えてもらった通りにローサの木の世話をする。世話を終えた時

ポーン

 久しぶりの電子音が鳴る。獲得スキルは園芸。花や木に関するスキルだろうが、どんな効果があるのかな?確か農業スキルもあったな…ふと思い立ってオリーブの実を畑の隅に植えてみる。
  野菜なら祖母の手伝いで世話した事があるが、それ以外は経験がない。オリーブがどう育つかでスキルの効果がある程度分かるだろう。

  少し早めの昼食を食べて買い物へ行く。まずは畑に植える種を買う。店の人に聞くと今の時期はコレ、という事でポマロ(ジャガイモ似)と、高いが砂糖を買う。ベーコンを作るためだ。後はギルドへ寄って本を返してから帰ろう。

  ギルドに入り、カウンターに居たサラさんに本を渡す。

 「サラさん、これ、ありがとうございました。とても勉強になりました。地図や図解が丁寧に書かれていて、説明も分かりやすくて面白かったです」

  感想を言うと何故かサラさんが照れている。

 「ありがとうございます…この本、私が書いたんです」
  恥ずかしそうに言う。
 「え!そうだったんですか!?サラさん凄いです!」
 「いえ、そんな。あの、今2冊目を書いてるんです。出来たらお見せしますね」
 「2冊目ですか、楽しみです!ぜひ見せてください」
 「はい」

  思わぬ所で楽しみが増えて嬉しくなった。帰る前に依頼を見ようと思い、掲示板の前に行くと声をかけられた。

 「君がナツメちゃん?」

  振り返ると、1人の青年がいた。歳は20代後半だろうか、身長が高く、緩いウェーブがかかった長い金髪を後ろで結んでいて、大人の色気を感じさせる雰囲気を纏っている。青年はにっこりと微笑んで言った。

 「いきなり声をかけてゴメンネ?俺はフレッド。ギルドの酒場のマスターをしてる。セクロから君の話を色々聞いてね、俺も前は冒険者だったし、一度話してみたいと思ってたんだ」

  セクロさんを呼び捨て?見た目より歳がいってるのかな…。っていうかフレッドさんって、シザーたちが言ってた人だ。警戒心が高まるが、返事しない訳にはいかないし…

「いえ、挨拶が遅れました。ナツメです。よろしくお願いします」
 「ねえ、ちょっとだけ店に寄って行かない?今は他の冒険者もいないし」

  フレッドさんはガラ空きの酒場を指差して私を誘う。

 「いえ、あの…」
  断ろうとする言葉を遮られる。
 「ね、お近づきのしるしに一杯ご馳走するから。俺の淹れるお茶はうまいよ」
  どうぞ?という風に道を開けてくれるが、
 「すみません、今日は時間がないので遠慮します」
  と当たり障りがない言葉で断る。他の店ならともかく、ギルドの酒場のマスターだ。角が立つと良くない気がする。もっと個人的に誘われたならハッキリ断れるんだけど…
「そう?残念だな。じゃあ今度時間がある時でいいから一度来てね。歓迎するよ」
 「…はい」

  それ以外の返事が難しい返しをされちゃったな…フレッドさんの方が上手だ。そもそも誘われるなんてあんまり経験ないから当たり前か。と思いながらその場を後にした。

  ギルドを出る時、
 「あいつらに先手を打たれたか…」
  とフレッドが呟いたがナツメには聞こえなかった。

  本人はあんまり誘われた事なんて無い、と思っているがそれは違った。

  そもそも小さい頃から
「ナツメちゃんはいつも可愛いねえ」
  と言われて育った。だがそれは周りに子供がいないからだと思っていた。学校や会社でも言われるのは決まって
 「小さくて可愛い」
  だった。童顔だった事もあり、子供みたいで可愛いという意味だと捉えていたから、みんな子供好きなんだな~、と的外れな事を考えていた。要するに鈍いのだ。彼女にしたい子ランキングがあれば間違いなくダントツの1位なのに。









 家に着くと早速ベーコンの仕込みにかかる。本来なら燻製器もいるし1か月はかかるが、フライパンで作るやり方がある。うまくいくかは分からないが早く食べたいしやってみる事にしたのだ。

  仕込みが終わると今度は夕食の支度だ。今日はオムライスに挑戦する。ベーコンの仕込みをしながらご飯は炊いておいたので、トルト(楕円形のトマト似)とエシャル(玉ねぎ似)でケチャップもどきを作って、バターで炒めたトリ肉とご飯に混ぜて皿にとっておく。次に卵を焼く。半熟になったらさっきのケチャップライスを乗せて包む。後は皿に盛って上からケチャップをかけて出来上がりだ。

  テーブルについて一口食べる。うん、ケチャップがもどきだった割には上手く出来てる。この世界の食べ物は素材そのものの味が濃くておいしい。だから最低限の味付けでも充分おいしいのかも。

  …シザーはお米料理が好きそうだったな。これもおいしいって言ってくれるかな。

  初めて1人で夕食を食べた夜、シザーがいなくて寂しいと気が付いてからは、なるべく考えないようにしていた。でも結局頭の隅にいつもシザーがいた。彼と一緒だった3日間と1人で居た3日間。同じ位のはずなのに1人の3日間はとても長く感じて実感してしまった。彼が好きなんだと。

  出会ってまだ1週間しか経ってないけど、こんなにも。
 今までだって人を好きになった事も、付き合った事もある。でもまるで初めてみたいに嬉しいけど不安で、緊張するけど一緒に居たくて、ドキドキする。

  自覚したら、もう気持ちは大きくなるばかりだった。

 「早く帰ってこないかな…」
  思わずつぶやいた時だ。

  コンコン

 ノックの音に昨夜の事を思い出してビクッとする。が、次の瞬間

 「ナツメ、俺だ」

  聞こえたのはシザーの声。帰ってきた!飛んで行ってドアを開ける。

 「悪い、遅くなった。…入っていいか?」
 「いいよ。…おかえりなさい、シザー」
 「…おう、ただいま」

  何だか2人して照れている。傍から見たら付き合いたての恋人にしか見えない。
その時シザーのお腹が鳴る。

 「…」
 「…」

  一瞬の沈黙の後、同時に笑いだす。

 「夕食まだ?食べる?」
 「食う」
 「じゃあ、少し待ってて、すぐできるから」
 「おう」

  ご飯多めに炊いて良かった。さっきと同じ手順でオムライスを作ってシザーの元へ運ぶ。よほどお腹が空いていたのだろう、あっという間に食べ終わる。

 「ロールサンドか塩むすびならまだあるけど」
  と言うと塩むすび?と不思議そうにするので出してみた。一口食べて驚き、またあっという間に食べ終わった。

 「どっちも初めて食った。すげえうまい」
  と笑ってくれる。
 「ありがと、私の…」
  言いかけたときまたドアがノックされ、ビクッとする。誰だろう…まさか、と不安に思い一度シザーを見てからドアへ近づく。

 「…どなたですか?」
 「あ、ナツメちゃん!クロスだけど、あのさ、話があるんだ。開けてくれないか?」
 「え…あの、困ります。こんな時間に…今度にしてもらえませんか?」
 「大事な話なんだ、頼むよ」

  断るがあきらめてくれない。戸惑っているといつの間にかシザーが私の後ろにいた。バン!と勢いよくドアを開けると、目を見開いているクロスさんに言う。

 「…夜に、しかも女の1人暮らしの家に、何の用だ?だがまあ、どんな用でも断る。帰れ」

  声には明らかに怒気がこもって、威圧まで放っていた。

 「な、何でシザーに断られなきゃいけないんだ…。俺はナツメちゃんに用があるんだ。関係ないだろ、お、お前こそ何でここにいるんだよ」
  クロスさんは威圧に気圧されながらも食い下がる。

  するとシザーが後ろから私を抱きしめて言った。
 「ナツメは俺の女だ。誰にもやらねえ。…分かったら二度と来るな」
 「…!!そんな!ナツメちゃん!本当!?」
  クロスさんが驚いて聞く。

  私はというと、突然の出来事に真っ赤になって頷く事しか出来なかった。











 クロスさんが帰っても私は抱きしめられたままだった。さっきのは追い返すために言ってくれたのかな?それとも…

「…勝手にあんなこと言っちまって悪かった。だが気持ちは嘘じゃねえ。…お前が好きだ。俺の女になってくれ」

  耳元で言われ、嬉しくて震える。

 「わ、私も…私もシザーが…」

  言おうとした時、頭をよぎったのは私の秘密。スキルなんて一緒にいたら必ず分かる時が来る。後で分かってしまって仕方なく打ち明ける?そんな事になったら嫌われてしまわないだろうか?でも今すべてを打ち明けて、受け入れてもらえなかったら?…どうしよう。

  シザーは言いかけて黙ってしまった私の体を離して向き合い、しっかりと見つめて言う。

 「その続きは?聞かせてくれないのか?」
 「あ、の、私、その」

  好き、と言いたい。でも不安で。どうしたらいいか分からなくなって泣きそうになる。

 「何でそんな顔をする?俺はお前を困らせてるか?」
  それを聞いて首を横に振るが声が出ない。その様子を見たシザーは
「…悪かった。少し頭を冷やす。」
  そう言って家を出て行ってしまった。

 「…あ。や、やだ。行かないで…」
  小さな声で言うが彼には聞こえない。ここで言わなかったら、もうこのままダメになってしまう。そう思って震える足を叱咤して後を追った。

  懸命に追うが、彼の姿は見えない。シザーの足は速い。追いつけないかも。もうダメかも。そう思ったら足が止まってしまった。そのまましゃがみ込み、泣きながら後悔していた。

  どれくらいそうして泣いていただろう。ここにいても仕方がない、帰らなくてはと思うが足に力が入らない。立とうとして転ぶ。

 「いたっ」
  どうやら石の上に転んだようだ。情けなくてまた泣きたくなった時。

 「ナツメ!?そこに居るのか!?」

  聞こえたのはシザーの声。そんなはずない、と思いながらも名前を呼ぶ。

 「シザー…?」
 「ナツメ!」

  駆け寄ってきたのは確かにシザーで、珍しく息を切らしている。

 「ナツメ!何でこんな所に!どこか怪我でもしたのか!?とにかく帰るぞ!」

  慌てて抱き上げ、家に走る。

 「何で…戻ってきてくれたの?」
  聞くと走るのを止めて言った。
 「頭を冷やすって言ったろ。…嫌だなんて言われたら頭に血が昇って、お前に何するか分からねえ。でも戻ったらいねえし、焦ったぜ。お前こそ何で家にいなかった?」
 「だって…戻ってきてくれると思わなくて…今話さないとダメな気がしたから…」
 「…」

  シザーは無言で歩き出した。探してくれてた事を嬉しく思うが、無言が怖い。

  中に入ってイスに座らせ、ケガを確認する。

 「待ってろ、今…」
  と離れようとするシザーを引き止める。

 「待って、違うの。困ってない。私もシザーが好き。ただ私の全部を知っても好きでいてくれるか、不安だったの」
  必死に言うと
「ナツメ…」
  シザーが嬉しそうに呟いて私を抱きしめてくれる。少しだけ体を離して見つめあうと、自然に唇が触れ合う。初めは軽く、角度を変えて何度も啄む。そして深くなるとすぐに舌を絡めとられて息が上がる。苦しくて胸を叩くと解放してくれた。

  そして私の足を手当てすると、黙って話を最後まで聞いてくれた。









 異世界からの転生、魔力、スキル、神様から貰った物。こんな事を全て知ったらどう思われるか不安だったと素直に打ち明けた。シザーがどんな顔をしてるか怖くて見れない。

  ずっと黙っているという選択肢もあった。でも好きな人には私の全てを知ってほしい、そして受け入れてほしい。自分でも我が儘な甘えた考えだと思うが、この先ずっと異世界で生きて行くのには、自分の全てを預けられる人が欲しかった。そして、それがシザーであってほしいと願っていた。

  俯いていると不意に顎を持ち上げられ、軽くキスされる。私を抱え上げて自分がイスに座り、膝の上で横抱きにする。そして抱きしめながら静かに口を開いた。

 「不安になる事なんかねえよ、どこの誰だろうが関係ねえ、大事なのはお前の気持ちだ」

  一拍おいて続ける。

 「半ば伝説化してる話だが、昔魔王を倒した勇者は、神が異世界から呼んだ奴だと聞いたことがある。異世界出身も、魔力もスキルも確かに珍しいが、それもひっくるめてナツメだろ?…それに俺が惚れたのは、周りにどう思われても親父さんを助ける事に必死だった優しいお前だ。…これでもまだ不安か?」

  優しい声に誘われて顔を上げる。

 「…嬉しい、ありがとう」
  私が伸びあがってキスすると、シザーがそのまま舌を絡める。音を立てて舌を吸われぞくっとする。

 「んっ…ふぁ、んん、んぁ…」
 「ん…は…今日、泊まってもいいか?」
  キスの合間にささやく。
 「っん…うん…」
  頷いた途端私を抱き上げ、ベッドへ座らせると逞しい上半身をさらす。思わず見惚れていると
「ナツメ…」
  切なそうに呼ばれ、首筋にキスしながら胸に触れられてビクン!と体が跳ねる。
 「っあ!あ…ま、待って」
  慌てて止める。
 「…ダメか?」
  悲しそうに聞かれる。
 「ダメじゃない…でもお風呂に入りたい」
 「…一緒に入るか?」
 「え、な、でも…」
  平然として言い、真っ赤になる私に構わずお湯をために行ってしまう。

  シザーが戻ってくる。

 「シザー先に入って?」
 「一緒が良い」

  即答。…シザーが可愛く見える。

 「だって恥ずかしい…」
 「大丈夫だ、ナツメは可愛い」

  笑顔で言われてもう何も言えなくなった。











 「ん…」
  朝目を覚ますと目の前にシザーの顔。私は彼の腕の中にすっぽり収まって寝ていた。シザーを見ていたら昨夜の事を思い出して1人で赤くなる。

  昨夜は結局一緒にお風呂に入って体を洗われ、湯船でいちゃつき、のぼせ気味でベッドへ運ばれると、何度となく奥を突かれて気を失った。だけど、その後目が覚めた時、幸せそうなシザーの顔を見たら、体の痛みなど忘れてしまった。

  …そう、17歳の体に戻った私は処女だった。

  どこで調べたのか神様の作ったこの体は、髪の長さも、胸の大きさも17歳の私そのものだった。それは分かっていたつもりだったが、さすがにここまでは思いつかず、貫かれた痛みで思い知った。

  すなわち、胸はこの後まだ成長するのだ。身長はこのままだけど…

 寝ているはずなのにガッチリとホールドされていて、抜けるのに時間がかかってしまった。時刻はもう8の刻だ。身支度を整えて朝食の準備をする。…痛い。主に下半身が。

  2人分の朝食が嬉しくてにやけてしまう。目玉焼きを作ろうと、試しにオリーブを1つ潰してみる。すでに熟していた実は簡単に潰れてオイルが流れ出る。…あれ?オイルになるには、ここから揉まなきゃいけないはずなんだけど…手元にあるのは殻とオイル。いや、楽でいいんだけど、見た目が同じだっただけにちょっとした衝撃を受けた。

  指に付けて舐めてみる。…このまま使えそう。前に仕込んでそのまましまっていたパンを焼きながらサラダと目玉焼きを作る。それをテーブルに運ぶとパンが焼けた。そうだ、今度ジャムを作ろう。ここの果物は味が濃いからハチミツをちょっとだけ入れたらちょうどいいかも。

  色々と思いを巡らせながらパンを盛っていると、急に後ろから抱きしめられた。

 「きゃっ!」
 「…はよ、ナツメ。体大丈夫か?」
  眠そうに言って私の下腹部を撫でながらキスする。
 「んっ…、おはよ、大丈夫だよ。…ねえ、どうして足音しないの?」

  不思議に思っていた事を聞いてみる。どうやらわざとじゃないみたいだ。

 「ん?…腹減った…飯食いながら話す」

  別に隠してたわけじゃないが、と話し出す。

 「俺は獣人の血が混ざってる。混血だから人族と外見は変わらないが五感は人より鋭い。気配や足音がしないのは固有スキルの効果だ。お前もあるって言ってたろ?固有スキルは常時入りっぱなしだ。俺のは獣人能力強化だからな、気配も足音も自然と消えちまう。まあ、ナツメのレベルが高くなりゃ聞こえるかもな」

  獣人と聞いて納得のいく事が他にもあった。

 「じゃあ、昨夜の瞳も見間違いじゃないんだ」
  体を重ねている時に見えた、獣特有の瞳。見つめられるとゾクッとする瞳だった。
 「ああ、昼間は大丈夫なんだがな。夜、特に何かに夢中になると出ちまう。…怖かったか?」
 「ううん、怖くない。…その、私はあの瞳好き」
  理由を聞いたらなおさら。獲物を捕らえる瞳、そこまで求められていると感じる瞳。恥ずかしいがシザーが不安そうだったので素直に言った。

  一瞬驚き、すぐ笑顔になる。

 「そんな事言うのはロイ以外は初めてだ」

  朝食後、洗濯はこなしたが掃除は体が痛くて明日に回した。畑仕事も止めておこう。洗濯物を干しに裏口から出ると畑の隅に異変があった。

 「…えー!」
  思わず声を上げるとシザーが顔を出す。
 「どうした?」
  聞かれて畑の隅を指さす。
 「これ、オリーブの木か?ここに木なんかあったか?」

  そこには1本の木。それはまだ実こそ付いていないが、昨日植えたばかりのオリーブだった。

 「昨日そこにオリーブの実を植えたの。園芸と農業スキルの効果を試そうと思って」
 「…昨日?」
 「…うん、昨日」
 「…」

  何か思い当たる事があるのか、シザーは考え込んでいる。

 「…そうか、セリばあさんだ。ここは元はセリばあさんの畑だからな、土自体が特別なんだろ」
 「セリさんの畑だから?」
 「あれ、言ってなかったか?セリばあさんはハイエルフだったんだ」
 「ハイエルフ?」

  ハイエルフはエルフの上位種で、極限られたエルフだけが何らかの条件でなれるという。エルフは長命でMPが高く、属性も多く持っている。だがハイエルフは段違いで、全てにおいてエルフを大きく上回り、複雑な魔法も多く扱える。エルフ一族の長には代々ハイエルフが務めているのだとか。

  セリさんの存在が大きい訳だ…園芸スキルは分からないな…。とりあえず様子を見る事にして中へ戻るとシザーが思い出したように言った。

 「そういえば昨日、モーブさんがお前に用があるって言ってたな。用って何だ?」
 「え、ホント?もう準備できたんだ」
 「…用は何だ?」

  …目が怖いです。私は回復薬の事をシザーに話した。

 「…そうか、なるほどな。まあ、そのくらいなら良いだろう」

  …?今、何の許可が出たの?首を傾げる私を見てシザーが笑う。

 「ククッ、分かんねえか?モーブさんは滅多に笑わねえ人だ。だが、お前は気にいられたみてぇだな。…それに、あの人はまだ独身だ」
 「笑わない?そんな事なかったけど…気にいられたって言っても片付け手伝っただけだし、調合師としてじゃないの?」

  それを聞いてシザーがまた笑う。

 「む!何で笑うの?」
  笑われてばかりで面白くない。膨れて睨むとシザーが私を抱き寄せる。
 「拗ねんな。睨んでも可愛いだけだ」
  そう言ってキスを落とす。額に、瞼に、頬に、そして唇に…

「あ~の~さ~!僕、さっきからここに居るんだけど!いつになったら気が付くのさ!?」

  入口に立ったロイさんが呆れ顔でこちらを見ていた。
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