天狗と骨董屋

縄張り争い(下)

第十六話

　天狗が去り、一瞬の静寂の後にまた慌ただしくなった。
　この襲撃で多大な被害が出た。
　そこら中から血の臭いが鼻につく。

　秋人の身体も既に限界でその場に倒れて動けなくなり、栗郷は慌てて救護班を呼ぶ。
　その後秋人は病院で治療を受け、自宅へと帰る。
　と言うより帰されたと言うべきか……
　今回の件で怪我人が多く病院側も手一杯なので、比較的怪我の程度も軽く、且つ半妖なので怪我の耐性もあるだろうと言う事情だ。

　そんな事情だから真尋は秋人が心配で家に戻って来た。

｢私の事は心配しなくとも良いのに。
学校もバイトもあるだろう？｣

｢学校は大丈夫。
バイトも利音さんに言って調整して貰ってるし。
だから今日だけはゆっくりしなよ｣

　普段ゆっくり休む事も無い秋人なので真尋の言う通り、今日だけはゆっくり休むのもいいかもしれないと思う。

｢そう言えば緋葉はずっとお前のところに居るのか？｣

　元々真尋に恩を返すと言うことで傍にいたがいつまでいるのか、この先どうするのか気になった。

｢う～ん、俺は別にずっと居てもいいと思ってるし、利音さんもなんか店の手伝いさせてたりってか、いいように使ってる感じするし、緋葉がいいなら一緒に居てもって感じ？｣

　最初は緋葉に良い感情は持っていなかった利音も、現在はタダで使える労働力として見ている。
　それは人では大問題になるだろうが、人の道理で動いていない妖だし、緋葉自身もそれで不満は無いようなので、今のこの生活を続けたらいいのではと真尋は思っている。

｢そうか………｣

　彼らがそれで良いなら良いと秋人はそれ以上は口出しはしなかった。
　緋葉が秋人との事を言わなければどうしようが構わない。
　それに緋葉も約束したことは守るタイプなので心配も無用と判断した。
　更に言うと天狗が去ったとは言え、未だ分からない謎も残されたままなので、緋葉が真尋に着いていてくれると心強いと言うのも本音である。

　そしてこの日は家事全て真尋に任せ、秋人は身体を休めるため寝ていた。