天狗と骨董屋

吉良鳥一

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縄張り争い(下)

第八話

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 秋千代と言う名に反応した秋人を見た緋葉は彼に跪き、頭を深々と下げた。
 だが秋人は厳しい顔のままだ。

「何故お前が真尋の傍にいる!?
二度と私の前に姿を見せるなと申した筈!!」

「も、申し訳ござませぬ。
しかし真尋殿がまさか貴方様の血縁であるとは知らず……」

 たまたま真尋に助けられたので恩返しをするために居るのだと説明する。

「私の傷を癒したのもお前だろう?」

「……倒れているのがもしかしたら秋千代様ではないだろうかと最初は名も違いましたので半信半疑でしたが、真尋殿に無理にお願い致し着いて参りました。
やはり私の勘は間違ってはいなかった。
秋千代様……」

「その名で呼ぶな。
私の今の名は春日秋人だ」

「申し訳ございませぬ」

 秋人の声色は未だ低く鋭いままで、緋葉は気圧される。

「真尋には何か言ったか?」

「いいえ何も……
まだ確信が持てなかった故……」

「ならばあの子には何も言うな。
あの子には父上の事など関係無い。
何も知らなくていい……」

「………はい」

 緋葉は少し寂しそうな表情を見せながらも了承した。
 たった一人と決めたあるじ
 その主は人と恋に落ち、それに激怒した身内に殺された。

 緋葉は哀哭あいこくし、一時は復讐も考えたが、復讐など所詮気休めで、主が還ってくることなどない。
 だから緋葉は主の息子秋人、幼名を秋千代と言うまだ子供だった彼を主と定めようと思ったが、当の本人はそれを望んではいなかった。
 それどころか妖とは距離を置き、緋葉を遠ざけたので、それ以来会うことはなかった。

 それがまさかこんな形で繋がった事は緋葉にとって幸運な事か、それとも………
 だが一つ確信を持てた。
 真尋が主に何となく似ていたのは、血縁故のものなのかと……

 秋人の傍には仕えられないが、真尋の傍に居られるのならそれも本望だ。
 すると秋人は緋葉へ口を開く。

「だがお前が私の傷を癒してくれた事は感謝する。
お陰で生きていられる」

「秋千代様………」

 この時だけは柔らかな口調で緋葉へ感謝を述べ、緋葉は感極まり目を潤わせた。
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