天狗と骨董屋

吉良鳥一

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縄張り争い(上)

第八話

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 天明道の作戦は夜明けと共に各地で一斉に天狗達を奇襲する事だった。
 昼間なら闇夜に潜む妖は力が弱る。
 そして戦闘が長引く事を想定して早朝を選んだ。
 しかし大天狗ならばそれも微々たるもので気休めではある。

 そしてこの殲滅作戦より少し前の事。
 この任務に着いた秋人と竜樹、そして朱兼と芙紗が天狗の縄張りの近くに待機していた。

「良かったんスか?
真尋君に何も言ってないんスよね?」

 まだ夜も明けぬ暗がりの中、竜樹が秋人に話し掛ける。
 今回の事は真尋には伝えていない。
 余計な心配を掛けたく無かったから。
 それに………

「あの子には仕事で命を落とす可能性がある事は常日頃言い聞かせている。
今更何も話すことなど無い」

 天明道の任務はいつだって命懸け。
 それでも半妖である秋人の居場所はここにしか無かった。
 だから天明道を辞める選択肢など無い事は真尋も理解している筈だ。

「私よりもお前だ。
今からでもこの任から降りてもいいんだぞ?
お前には死んでほしくない」

 秋人がそう言うと竜樹はムッと顔を顰め、怒りを顕にする。

「死ぬかもしれないなんて最初から分かりきった上でここにいるんスよ。
それこそ今更です。
それに、俺はここで死ぬつもりは無いッス」

 竜樹の覚悟を決めた発言にはっとさせられる。
 そうだ、死ぬつもりは無いと秋人は心を改める。
 そして太陽が昇り始めたその時、合図である結界が張り巡らされる。
 この任務では結界を張る専門にいる者達がいる。
 彼らは各地点でそれだけに神経を費やして、秋人達はその中で天狗を倒すと言う作戦である。

「行くぞ」

 朱兼の言葉を皮切りに相手の陣地に乗り込んだ。
 そしてそれに気付いた天狗達が何事かと飛び出してくる。
 そこをまず朱兼と芙紗が下半身を蛇の姿に変えて、長い尻尾で天狗達を薙ぎ倒していく。

「スゲェ………」

 思わず竜樹の口から声が漏れる。
 蛇神の血を引くこの兄妹きょうだいの力と言うものは一目を置かれる。
 そんな二人に竜樹も遅れを取るまいと天狗へ向かっていく。

「大地の神よ、祓い給え、清め給え!!」

 竜樹の放った術は、草木が刃となり天狗を貫く。
 そして秋人もそれに続く。

「焼き払え、炎舞!!」

 秋人の炎が天狗へ襲いかかり、空高くまでその炎が上がり、焼き尽くす。

 
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