天狗と骨董屋

吉良鳥一

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河童の手のミイラ(下)

第十六話

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 幸い大蝦蟇は生きているし、また元の土地に戻ったのだろうから、荒れた土地も時間を掛けて元に戻るとは思うが不安はある。
 果たして本当に大蝦蟇が元の土地に戻ったのかはそこへ行ってみないと分からない。

「それについては天明道こっちで調べる」

 栗郷は今回の事を天明道に報告する義務がある。
 勿論大蝦蟇についてもだ。

「さて、帰るか……
真尋、立てる?」

「ああ、はい」

 少し休んだお陰で多少は体力が回復した。
 この日は皆家でゆっくり休み、後日また栗郷への刀の報酬を渡すことにした。
 それに栗郷は今回の報告や土地神の大蝦蟇についての調査など、後始末に追われたので報酬どころではなかった。

 栗郷が狐二匹と栗郷家に仕える40代の巫女の女性、水野と共に大蝦蟇がいると言う森にやって来た。

「……やっぱ荒れてんな」

 一体どのくらい大蝦蟇がここから離れていたのかは分からないが、木々が根元から倒れていたり、枯れていたり。
 更には外傷の無い猪や鹿の死骸に出くわした。
 もしかしたら土地神がいなくなった事により、病気になりやすくなったのかもしれない。

「坊っちゃん、彼処では?」

「ん?」

 水野が指差した先には少し大きな沼がある。
 ここが大蝦蟇が寝床にしている場所とみられたが、大蝦蟇の気配が無い。

 まさか死んだわけでは無いよな?と栗郷は不安になる。
 そうなれば新たな土地神が誕生するまでここはもっと荒れる。
 その新たな土地神もいつ生まれるのかも分からないし、どう生まれるかも実ははっきりとは分かっていないのだ。
 何せ他の妖とは性質が異なり、妖達もあまり詳しくは知らない上に棲家を荒らしたく無いと、なるべく怒らせないようにしているらしい。

 そうなればここに暮らす妖が人の世に下り、人を襲うようになるかもしれない。
 それだけは絶対に避けたい。

「………?」

 すると栗郷は沼の中から微かに妖気を感じた。
 地面に手をついて覗いてみると大蝦蟇らしき頭が見えた。

「眠っているようですね。
体力を回復しようとしているのでしょう」

 水野の言葉に栗郷は安堵した。
 土地神が他の土地に出るのは相当なストレスになるらしい。
 更に負傷した為、回復の為に眠っているのだと推測する。

「帰りましょうか」

「ああ………」

 生きてここに居るのならこの森もまた回復するだろう。
 我々はただ見守るしかない………
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