天狗と骨董屋

吉良鳥一

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河童の手のミイラ(下)

第十三話

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「アンタの呪いを俺に移せ」

「はぁ?」

 栗郷が利音に向かってそう言ったのは、二人が合流し、葛西を追い掛ける前の事だった。
 栗郷は利音の呪いを自分に移そうと考えた。

「形代には無理でも俺になら移せる筈だ。
そこから俺が呪詛返しでアイツに返す」

 葛西は利音だけでなく栗郷の事も憎んでいる。
 ならばこの呪いは栗郷へも有効だろうと考え、更には顔が分かっていれば呪詛返しがやりやすいだろうと言う目論みだ。
 しかし利音は訝しげに彼を見る。

「何のために?
呪詛返しなら俺が自分でやった方が成功率は高いし、それに失敗した時の反動は大きい。
最悪死ぬよ?」

 失敗した時のリスクが高いと利音は反対した。
 だが栗郷は呪術に詳しいのは自分だと言った。

「それにアイツも多分呪術師だ。
やり返さないな気が済まねぇ。
これは最早俺とヤツの戦いなんだよ。
邪魔するな」

 呪術師同士のプライドを掛けた戦いと、呪術なら利音よりも勝ると自負していた。
 それに形代に呪いを移せなかった事が余程腹が立ったようだ。
 そんな彼に利音は呆れるが、もう面倒だと呪いを栗郷へと移した。

「舐めんじゃねぇよ!!」

 葛西が今発動させた呪いに心臓をやられた栗郷は苦しみながらも笑みを浮かべる。
 そして文字の書かれた式札を人差し指と中指で挟みことばを紡ぐ。

天切てんきる、地切つちる、八方切やもきる、あめ八違たがやひ、つちとお文字ふみ秘音ひめね………」

「なん…だ……」

 すると栗郷の詞に周囲の空気が変わる。

ひとつ十々とおとおふたつ十々とおとおみつ十々とおとおよつ十々とおとおいつつ十々とおとおむつ十々とおとおきてはなつ、さんびらり!!」

 言い終わると同時に栗郷の中にあった二つの呪いが睦合うように葛西へと返され、途端に苦しみ出した。

「あ……ああぁぁぁっ!!」

「この呪詛返しは俺がアンタから直接喰らってじゃないと成功率が低かった。
アンタが俺に術を使ってくれて助かった」

 呪詛返しは文字通り呪詛を術者に返す物。
 なので本来利音から移した呪いは栗郷が返す事は難しい。
 しかし栗郷が葛西から術を受けたことで呪詛返しが出来た。
 正直ここは掛けでしかなかったのでラッキーとも言える。

 そしてこれも現在真尋が大蝦蟇と戦い、足留めしてくれているお陰だろう。
 そうでなければここまでスムーズにはいかない。

 
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