天狗と骨董屋

吉良鳥一

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河童の手のミイラ(上)

第十四話

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 利音の呪いを形代へ移す事を失敗した。
 その事実に栗郷の表情が険しくなる。
 しかし彼とは裏腹に利音の表情は変わらない。
 寧ろ溜め息をついて呆れた顔を見せるだけで、焦るような様子は伺えない。

「呪いの専門家がこれ?
わざわざここまで来たのに損したね。
取り引きもこれじゃあナシってことで」

「はぁ?まだ終わってねぇよ!!
形代に移すのが失敗したのは、この呪いが強力だってことだろ!?
しかも術者の名前も顔も知らねぇとムズいだろうが。
それなら違う方法を見つける。
取り引きの交渉はまだ終わってねぇ。
……ってかお前はなんでそんな呑気なんだよ!?」

 全く焦りを感じない彼に不気味さまで感じてしまう。
 何故こうも余裕でいられるのか全く解せない。
 すると利音はテーブルに頬杖を付いてこう言った。

「呑気だなんて失礼だな。
俺だって色々考えてるさ。
大体、俺に恨みがあってここまで手の込んだ呪い掛けるって事は俺が祓い屋関係の人間って知ってるって事でしょ?」

「………?」

「しかもあの術者、なんか嫌な気配したけどあれは人間だ。妖じゃない。
………天明道かな?」

 禍々しい気配を感じたが、人の気配だった。
 それに自分の事を知っている人間なんて限られている。
 しかもこちらの実力を分かっていて仕掛けて来てる。
 利音の実力がその界隈に広まったのは天明道にいた頃。
 その後はひっそりと骨董屋を営んで、なるべく目立たないよう生きてきたので思い当たるのは天明道の人間だけ。

「……そんなの安易過ぎだろ。
アンタを知る人間なんぞ天明道で無くともいる。
妖に唆されアンタを狙うとか色々あんだろ」

 何も天明道の人間だけが容疑者ではない。
 だが利音はどうも天明道の中にいるように思えて仕方がない。
 それだけ天明道にいい思い出が無いせいだろうか?

「いずれにせよ、どうせあっちから来るでしょ。
君はそいつを取っ捕まえてくれればいいよ」

 恐らく栗郷と利音が行動を共にしていることは気付いていない筈。
 ならば追ってきた大蝦蟇に対処しつつ、その間に犯人を栗郷が捕らえてしまう方が手っ取り早いと思った。

 けれどどうも釈然としない栗郷。
 しかし相手の情報が分からないので彼の言う通り、待ち伏せ作戦が最善策なのだろうと同意した。

「安心しなよ。
ちゃんと捕まえてくれたら報酬の刀はあげるからさ」

 この件が解決すれば刀を譲るつもりだ。
 どうせ使わないし、だいぶ溜まってしまったコレクションもそろそろ減らさないと場所も無くなるので、処分するのに丁度いいと思った。


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