天狗と骨董屋

吉良鳥一

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束の間の出逢い

第四話

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「宗像さん、高住さん、本当にありがとうございました。
最後にあの綺麗な金魚も見られたので満足です。
冥土の土産になりました」

「高橋さん……」

 満足そうな彼はではこれで失礼しますと深々と頭を下げて帰って行った。
 その後ろ姿を真尋は見えなくなるまで見送った。

「分かっててもやっぱ寂しいですね」

 再び居間に戻った真尋は利音にそう本音を言う。

「……高橋さんも言ってたでしょ。
人はいつかは死ぬ。
俺だっていつかは死ぬんだから慣れろ。
あまり感傷に浸ってるのは良くない」

 厳しい言い方の利音だが、割り切りは生きていく上で必要なものであると知っているからあえてそう言った。

 確かにこれからきっと別れは沢山やって来るんだろうと真尋は思うが、こればかりは中々慣れるのは難しいだろう。
 ここでふと疑問が湧いた。

 高橋はどうして最近になって金魚が見えるようになったのだろう?
 利音にその疑問をぶつけてみた。

「それは死が近いからだよ」

「死が……?」

「そう。
妖とはこの世とあの世の境に存在するもの。
だから、あの世に近づいた高橋さんだからこそ見えないものが見えるようになったわけ」

「なるほど……」

 納得した真尋は高橋から引き取った金魚鉢を棚の上に置いた。
 そしてその隣には、利音のお気に入りのあの付喪神の壺が未だに鎮座していた。

 最初ネコがずっと壺に向かって吠えていたが、最近はまるで壺が存在していないかのように無視するようになった。
 ご主人様である利音が気に入っているので仕方無いとばかりに、目に入れないようにしているようだった。

 真尋も最近はこの壺が段々と可愛く思えてきて、おはようやお休みと声かけするまでになっていた。

 その隣にこの美しい金魚鉢は少々ミスマッチな気がするが、ここしか場所が無いため仕方無い。
 壺は自分より可愛らしい金魚に嫉妬するように睨むが、とうの金魚は壺を気にするでもなく優雅に泳いでいる。

「綺麗ですね」

 窓から射し込む光に照らされた金魚はただそこで静かに、存在していた。

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