天狗と骨董屋

吉良鳥一

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束の間の出逢い

第一話

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「ありがとうございました」

 宗像骨董店で働きだしてその仕事も大分慣れてきた真尋。
 最近は犬神であるネコが看板犬をやってくれているお陰で客が少し増えた気がする。
 我々に敵意を向けなければ大人しく撫でられてくれるので若い女性も来てくれるようにもなった。

 しかも真尋と利音と言う若く顔のいい二人がいるので、女性の中にはイケメン目当てに来る人も出るくらいだ。
 何にせよそれで客が増えるならいいことだし、買ってくれるなら尚良い。

 そんな中で、真尋が来る前からの常連さんが来ていた。

「宗像さん、高住さんこんにちは」

「あ、高橋さんいらっしゃい」

 真尋が出迎えると高橋と言う年配の男性はにこにこと嬉しそうな顔を向ける。
 彼も骨董が趣味で、ここへ来ては利音とよく長話しをしている。
 今時の若い人が骨董が好きと言うのが高橋には嬉しいようだ。
 だが最近あまり顔を見せないものだから心配していた。
 なんだかやつれたように見えるから、もしかしたら病気を患ったのかもしれない。

「お久しぶりですね。
中々いらっしゃらないから心配してました」

「ご心配お掛けしてすみません。
もう私も年なので、身体があちこちガタが来てましてね」

「………っ」

 そう自虐的に話す高橋の頭の上から黒いモヤのような物が見えた。
 そのモヤの正体を知っている真尋は悟ってしまった。

 ああ、この人は……

「ああ高橋さん」

 じっと高橋を見つめていたら後ろから利音が現れた。

「宗像さん、お久しぶりです」

「どうも……」

 利音を見るなり嬉しそうな顔をして、早速店の中を周りながら利音と会話を始めた。
 楽しそうな高橋を他所に真尋は少し離れた所から切な気に見ていた。

「すいませーん」 

「……!!
あ、はい……」

 ぼーっとしていると他の客から呼ばれ、真尋は客の元へ駆け付ける。

「ありがとうございました」

 無事その客は商品を購入してくれて、真尋は深々と頭を下げ、客を見送った。
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