天狗と骨董屋

吉良鳥一

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片割れは傍らに在り(下)

第六話

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 男性が言うにはこの兎のぬいぐるみは、男性の兄が大学の友人から譲り受けたと言う。
 それは夜になると勝手に動き、置いている場所とは違う場所に移動していると言う曰く付きだった。

 元々そう言う物に興味を抱いていた兄は、自分も心霊現象を見れるかもと弟の男性に語っていたと言うが、男性はそのぬいぐるみに嫌な気配がしたと言う。

「俺元々霊感あるんだよ。
兄貴はそう言うの無いから羨ましがってて……
全然いいもんでもないのに……」

 男性は物心ついた時から霊感があったと言う。 
 それほど強いものでは無いと言うが、気配を感じたりモヤモヤしたものを視たりするらしい。
 そんな男性を間近に見ていた兄は自分にも視えたらなんて面白がっていたと言う。
 
「で、俺はそのぬいぐるみはヤバいと思って捨てろって言ってたんだよ」

 しかしながら折角貰った物だからと兄は暫く自分の部屋に置いていたのだが、ある日そのぬいぐるみは男性の部屋にあった。
 兄に聞いても覚えが無いと言うので、流石に兄も怖いと思ったのかゴミとして出したが、そのぬいぐるみは家に戻ってきた。

「ヤバいってなって兄貴が寺に持ってたんだよ。
なのになんで俺はこれを持ってんだよ……」

  男性に言われた兄はとある寺に引き取って欲しいと持ち込んだ。
 しかし今、そのぬいぐるみは男性の手にあるのだ。

 このぬいぐるみは強力だ。
 そして理由はわからないが、どこかへ連れて行かせようと霊感があり自分の近くにいて影響を受けている男性を呼んだ。
 そんなところか?

「なあ、頼むからこれどうにかしてくれ」

 小さく震える男性に秋人は大丈夫と笑みを向けた。
 このぬいぐるみは詳しい理由は分からないが男性に取り憑いている。
 彼に霊感があるから呼びやすかったのかもしれない。
 
 秋人は立ち上がると手をかざすとそこに錫杖が現れた。

「えっ……」

 突然何もない所から現れた錫杖に男性は息を飲む。
 
「大丈夫、目を閉じて」

  男性は戸惑いの中言われるがまま目を閉じる。
 秋人は錫杖を左右に振りシャリンと音を鳴らす。
 そして最後にトンと地面を付き、もう大丈夫と男性に声を掛ける。

「もう貴方の元へは戻らない筈だ」

 秋人は男性に向けられたぬいぐるみの意識を自分へと移し代えたのだ。

「ありがとうございます……」

「いいえ、じゃあ私は急いでいるので」

「え、あのお礼……」

 男性が最後まで言う前に秋人は去って行った。
 
 
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