天狗と骨董屋

吉良鳥一

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片割れは傍らに在り(上)

第十四話

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 突如現れた謎の子供。
 ネコは構わず捕らえられた少女へもう一度向かっていく。

 しかし少女は直前で子供の手を振り払い逃げた。
 振り払われた子供はネコと衝突し、真尋の方へ弾き飛ばされる。

「おわっ……!!」

 飛ばされた子供を何とか受け止めた真尋は尻餅をつきつつも子供が無事か確認する。

「ちょっ、大丈夫?」

 真尋がそう尋ねるもその子は無表情で何も答える事はない。

 一方逃げた少女はその子供を見て初めて表情を変え、少々放心した様子だった。
 だがすぐに我に返り、近くのガラスの割れた窓から逃げ去ってしまった。

「あっ……」

「追うな!!」

 少女を追おうとした真尋を利音はすぐさま止めた。 
 今は一旦立て直した方がいいと利音は判断した。

 それより気になる謎の子供。
 少女に気を取られていた真尋はその子に目を戻したが、その瞬間消えてしまった。

白児しらちごだな」

「しら…ちご……」

  利音が言った言葉を真尋は反復する。

 白児とは犬神に遣える子供の妖。
 一説では犬神に噛み殺された子供だと言われている。

「そんなことよりさっさとここを出るよ。
崩れそう……」

 一連の戦闘で建物が脆くなってしまった。
 早々に脱出した方が良いだろう。
 
「待って利音さん」

 出口へ向かおうとする利音を呼び止める。

「あの二人も……」

 その目線の先には二つの遺体がある。
 恐らくさっきの妖の少女に殺されたのだろうと思われる。
 この人達を家族の元へ帰したいと彼は言う。

 正直彼らを抱えて移動するのは大変だし、胸を貫かれた遺体であることから後々面倒な事態になりかねない。
 
 それでもどうにかならないかと心を痛める彼を利音はピュアだなと思った。
 既に自分が無くしてしまった感情に羨ましいとすら思った。
 考えた末、ネコに運ばせる事にした。

 一体ずつ巨大化したネコが口に咥えて茂みの入り口付近へ運んだ。
 あとは誰かに見つけてもらえばいい。
 一先ず家に帰ろうと歩き出した時だった。

「真尋君?」

 二人の前には真尋の名を呼ぶ森一竜樹の姿があった__
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