ギャペラ～獣の世界に落ちて～

実の家族

第二話

 家の中を見渡していると一人の女性が目に映る。

 茶色い髪に、茶色の丸みを帯びた耳に長い尾の先は房のようになっている事からライオンのギャペラであるようだ。

 彼女はケイを目にして、涙を浮かべ、傍へ駆け寄ると抱き締めた。

『サージェス……サージェス……』

｢………｣

 サージェス……
 彼女が繰り返し繰り返し発するのは、確かノイルが言っていたケイの本名だ。

 中々離れようとしない彼女にラジェッドが声をかけながらポンポンと背中を叩き、離れるよう促す。

｢悪い、ずっと君を待っていたから沢山溢れてしまったようだ。
……この人が君の母、ミーシェだ｣

 ラジェッドから紹介され、改めて母親をよく見る。

 少しやつれた様に見えるがとても美しく若々しい姿だと思った。

｢えと………｣

 母を前にどう言葉をかけていいのかも分からないし、それに彼女は日本語は理解出来ないようだから余計にどう接したらいいのかも分からない。

 それを察したように母、ミーシェは先に声を掛ける。

｢オカ…エリ……ケイ｣

｢………っ!!｣

 お帰りと日本語でそう言った。
 きっとラジェッドに教わったのだろう。
 たどたどしい日本語だが、伝えたい気持ちは痛いほど伝わった。

 それだけじゃない。
 彼女は本名の"サージェス"では無く"ケイ"と言った。

 自分が付けた思い入れのある名では無く、息子が馴染んでいる他人が付けた名を……

 きっとケイと呼ぶには相当な葛藤があっただろう。
 けれど、彼女は息子に寄り添おうと言う覚悟が窺えた。

 その母の愛を知ったケイの頬には涙が伝った。
 ミーシェはその涙をそっと袖で拭うと、今度はラジェッドが二人を包むように抱き締める　　

｢お帰り、ケイ｣

｢……っ、ただいま｣