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第三章 わたしと弟子と魔導書盗難事件

第43話 ドラコ再び(ミナリー視点)

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「ニーナ、怪我人を可能な限り救護して校舎まで避難なさい」

「ロベルト・グレンジャー、あんたも手伝って」

 襲撃者を前に、ロザリィとアリシアの行動は迅速でした。魔力を奪われた生徒たちの救護を指示し、自分たちは襲撃者と相対するため一歩前に出ます。

 ニーナは「は、はいっ!」と即座に怪我人の救護にあたり、私たちの後に続いて外へ出てきたロベルトも頷いて魔力を奪われて動けない人々の元へ駆け寄ります。

 私と師匠はロザリィたちに加勢しようとしたのですが、

「アリスさま、それとミナリーも。手出しは無用ですわ」

 ロザリィが杖を構えながら私たちを制止します。そして、

「久しぶりですわね、ドラコ・セプテンバー」

「くひひっ……」

 ロザリィが睨み付ける先、黒色のローブの襲撃者はかぶっていたフードをゆっくりと外しました。露になるのは、濃緑色の髪に赤縁の眼鏡をかけた、まだ少しあどけなさの残る少年の顔です。

「ひひっ。久しぶりですねぇ、ロザリィ王女殿下ぁ。元気にしていたかい?」

「ドラコ。やはり、あなたでしたのね」

 ロザリィは油断なく杖を構えたまま、どこか物悲し気な表情を浮かべます。どうやらあの少年がドラコ・セプテンバーで間違いなかったようです。

 まだ気分が優れませんが、意識を集中させて魔力の流れを見ます。ドラコが持つ〈吸魔の書〉から、彼の体にかなりの量の魔力が流れ込んでいました。〈吸魔の書〉は奪った魔力を所有者の物にできるようです。

 魔力量だけで見れば、アリシアやニーナと同等かそれ以上。そのうえ、〈吸魔の書〉が魔力を吸う限り魔力量はどんどん膨れ上がっていきます。厄介な相手です。

「いちおう聞きますけれど、なぜこのような真似をしたんですの?」

「くひっ、そんなの決まっているじゃないですかぁ。僕を入学させなかったこの学園の連中を後悔させてやるためですよぉっ!」

 ドラコは唾を飛ばして叫ぶように言うと、私の傍らに居た師匠に向かって指をさします。

「そこに居る無能令嬢が合格して、どうして僕が不合格なんですか!? おかしいじゃないかっ! どうせオクトーバーと学園がグルになって、セプテンバー家の次期当主たる僕を貶めようとしているんでしょう!?」

「何を馬鹿な……」

 ロザリィは呆れた様子で呟きました。指さされた師匠は、私の手をギュッと握りしめてきました。被害妄想も甚だしいです。貶めるも何も、貴方は入学試験の模擬魔法戦で純粋な実力で師匠に敗れた。ただそれだけじゃないですか。

「僕はセプテンバー公爵家のドラコですよ!? 僕の将来は約束されていたはずだったんだ! パパの領土を継ぎ、ロザリィを僕の妻として、やがてこの国の王に君臨する! そう決まっていたはずだったんですよぉっ!! なのに、それなのにっ! 学園に合格できなかった僕をパパは放逐した! どうして僕がこんな惨めな目に合わなくちゃいけない!? それもこれも全部、この学園とオクトーバーのせいだぁっ!!」

「…………あなたの人生設計に勝手に組み込まれていたことに関しては甚だ遺憾ではありますけれど、ほんの少しだけ同情いたしますわよ、ドラコ・セプテンバー」

 ――ですが。ロザリィは語気を強めます。

「それがあなたのしでかしたことを正当化する理由にも、憐れむ理由にもなりませんわ! わたくしは知っています。あなたと同じような挫折を味わいながら、それでも誰かのせいにせず、ただひたすら魔法の深淵を目指した人のことを!! ドラコ・セプテンバー! あなたには然るべき罰を与え、罪を償ってもらいますわ!」

「くひひひっ! 今の僕に君程度が敵うとでも? 見てくださいよぉ、僕の中に滾るこの魔力を! あははははっ! 力が、魔力が湯水のようにわいてくる!!」

「その程度の魔力で悦に浸っているようなら、程度が知れますわね。世の中には、上には上が居るものですわよ?」

「ロザリィぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!」

 ドラコが持つ〈吸魔の書〉が赤黒く光を放ち、何本もの蔓のような触手がロザリィに向かって放たれます。

「〈風刃〉!!」

 ロザリィは杖をふるい、〈風刃〉で触手を切り落としました。

 そこへすかさず、

「〈炎槍〉!」

 アリシアが杖を振るい、火魔法を発動させます。放たれた炎の槍は、

「〈砂壁《サンドウォール》〉ぅううううううううううううッ!!」

 即座に反応したドラコの土魔法によって防がれました。

「くひっ。二対一とは随分と卑怯な真似をしますねぇ、アリシア・オクトーバー!」

「黙りなさいよ。犯罪者を取り押さえるのに卑怯も何もないわ」

「貴様らオクトーバーはいつもそうだ。卑怯な手でいつも僕の邪魔をする! いつも、いつもいつもいつもいつもいつも!! 貴様らさえ居なければ、この国は僕らセプテンバー家の物になっていたんですよぉ!!」

「ギャーギャー喚くのもいい加減にしなさいよね。あんた、さっきから言ってることが無茶苦茶よ。ちょっとは落ち着いたら?」

「黙れ黙れ黙れぇっ!! 〈土人形《ゴーレム》〉、あいつらを蹴散らせぇ!!」

 アリシアの言葉を否定するようにドラコが魔法を放った直後、彼の足元の地面が大きく隆起しました。土の中から現れたのは、一体の巨大な人型ゴーレム。その背丈は学園の校舎と同じくらい、人の背丈の5倍以上はあります。

「きゃっはははは!! アリシア・オクトーバー! 貴様もすぐにあの世に送ってやるよぉ!!」

 ……貴様も?

 ゴーレムはおもむろに動き出し、振り上げた拳をアリシアに向かって振り下ろします。

「〈炎槍〉!!」

 アリシアは魔法で迎撃を試みましたが、ゴーレムの質量に〈炎槍〉は脆くも弾かれました。〈土人形〉は土を魔力で繋ぎ合わせて動かす魔法です。通常の魔法と異なり、〈土人形〉には土本来の質量が存在しているので、魔力のみで構成される魔法では相性があまりよくありません。アリシアの放った魔法にはドラコの〈土人形〉の質量を上回るだけの威力が足りませんでした。

「しまっ……」

 魔法での迎撃を選んだためにアリシアの回避行動が遅れます。

 そこへ、ゴーレムの拳が振り下ろされました。

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