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第三章 わたしと弟子と魔導書盗難事件
第35話 学園長の不在
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「何でも、一昨日から古代遺跡の調査に出かけているらしいですよ」
夕食の席でパンを食べながらそう言ったのは、学園側の動きを探ってくれていたニーナちゃんだった。それを聞いたロザリィ様は頭を抱える。
「タイミングが最悪ですわ。道理でフロッグ教頭の名を何度も聞くと思ったら、アルバス学園長が不在だったからというわけですわね」
「ニーナちゃん、アルバス先生がいつ頃戻ってくるかわかる?」
「えぇっと、そこまでは……」
「場所にもよりますけれど、学術調査となれば最低でも半月ほど。立場を考えればそう長く学園を離れられないはずですから、遅くても一か月といったところですわね」
「その間、教頭が代理で学園の全権を握っているわけですか……」
「考えるだけで頭痛がしてきますわね」
ロザリィ様は顔をしかめて溜息を吐く。フロッグ教頭がその気になればいつでもわたしたちに罪をかぶせられるという状況はあんまり居心地のいいものじゃないなぁ。
そうかと言ってどうすればいいのか、考えは浮かばない。しばらく腕を組んで悩んでいると、アリシアも食堂にやってきた。アリシアもまた浮かない表情をしていて、わたしの隣に座ったと同時に大きな溜息を吐く。
「あたし、いつの間に保健室で寝ちゃってたのかしら」
あ、そっち……?
「お昼前からの記憶がなくてヤバいわ。姉さまに会いに行ったのは覚えてるんだけど……」
アリシアは不思議そうに首を捻っている。どうやらわたしに抱き着いて甘えていた記憶はすっかり抜け落ちちゃっているみたいだ。思い出させるのもかわいそうだから、触れないでおいてあげよう。
「アリシア、昨晩の件でそちらは何か進捗がありましたの?」
「サッパリよ。アルバス学園長が不在で、フロッグ教頭は取り付く島がないわ」
「やっぱりわたしたちに罪を押し付けようとしてるのかなぁ?」
「それが、ちょっと違うみたい」
「違うって?」
わたしが訊ねると、アリシアは夕食のスープにパンを浸しながら教えてくれる。
「フロッグ教頭はむしろ責任から逃げたいみたいなのよね。ほら、自分が代理として学園を任されている間に侵入者が出て、しかも国が保有する貴重な魔導書が盗まれたなんて話になったら責任問題でしょ? あたしたちに罪を押し付ける以前の話なのよ」
「じゃ、じゃあもしかしてグロップ教頭は……」
「どちらかと言えば隠蔽したがってるわ。書庫への立ち入りを禁止したのもそれが理由ね」
「それはホッとしたというか、なんというかだね……」
「とはいえ安心はできないわよ。保身に走ったフロッグ教頭が何をしでかすかわからないわ。どちらにせよあたしたちはあたしたちで、侵入者探しはした方がいいと思う」
「同感ですわ。とは言え現状は手詰まりなんですわよね。アリシア、アイリス様に協力を仰げませんの?」
「いちおう母様には事情を説明する手紙を送ったわ。ただ、立場的にすぐ介入するのは難しいと思うわよ。王立魔法学園の独立性を保つために過度な干渉は避けるべきっていうのが、貴族社会の暗黙の了解だし」
「無暗に立ち入れば他の貴族から反感を買ってしまいますわね……」
「実際は王立魔法学園の内部でもオクトーバーだのセプテンバーだのって、貴族社会から影響受けまくってるのにね。馬鹿らしいけどこればっかりは仕方がないわ」
結局、わたしたちに取れる手段はこれといって残されていなかった。
侵入者探しは暗礁に乗り上げて、それから五日が経った。
事態が動いたのはその日の朝。ミナリーと食堂に行くと、いつものテーブルでロザリィ様とアリシア、そしてニーナちゃんが新聞を広げて何やら話し合っていた。
今朝の朝刊かな……? みんなが新聞を読んでるなんて珍しい。
「おはよー。何か面白い記事でもあったの?」
「ああ、姉さま。面白いかどうかはともかく、気になる記事をニーナが見つけたのよ」
「気になる記事?」
「これです、師匠さん」
ニーナちゃんが見せてくれたのは新聞の一面記事。見出しには『王都西地区で通り魔』『被害者5人目』『魔力奪われたか』と目立つように文字が並んでいた。
「通り魔事件?」
「ええ。何でもここ数日、王都で立て続けに市民が魔力を奪われる事件が起こっているそうですわ。被害者は全員魔力切れで入院中だとか……」
「不自然ですね」
記事を見てミナリーが言う。詳しく記事の内容を見てみると、初めの被害者が発見されたのは六日前の早朝。それから毎日のように王都の西地区を中心に被害が出ている。犯行は決まって日暮れから夜明けまでの間で、被害者はみんな魔力を奪われて魔力切れの症状を起こしているようだ。
記事では魔力を奪うモンスターの犯行が示唆されているけど、
「王都の街中にモンスターって、不自然だよね?」
わたしもミナリーに同意してみんなに訊ねる。
「そもそも魔力を吸うモンスターなんて、山奥の秘境かダンジョンにしか生息してないわよ」
「密輸業者がモンスターを持ち込めるほど王都の警備は甘くありませんわ」
「だとしたらこれって……」
「魔導書が関わっている可能性が高いですね」
ミナリーの総括に全員が頷く。
わたしたちは王都を騒がす連続通り魔事件を調べることにした。
夕食の席でパンを食べながらそう言ったのは、学園側の動きを探ってくれていたニーナちゃんだった。それを聞いたロザリィ様は頭を抱える。
「タイミングが最悪ですわ。道理でフロッグ教頭の名を何度も聞くと思ったら、アルバス学園長が不在だったからというわけですわね」
「ニーナちゃん、アルバス先生がいつ頃戻ってくるかわかる?」
「えぇっと、そこまでは……」
「場所にもよりますけれど、学術調査となれば最低でも半月ほど。立場を考えればそう長く学園を離れられないはずですから、遅くても一か月といったところですわね」
「その間、教頭が代理で学園の全権を握っているわけですか……」
「考えるだけで頭痛がしてきますわね」
ロザリィ様は顔をしかめて溜息を吐く。フロッグ教頭がその気になればいつでもわたしたちに罪をかぶせられるという状況はあんまり居心地のいいものじゃないなぁ。
そうかと言ってどうすればいいのか、考えは浮かばない。しばらく腕を組んで悩んでいると、アリシアも食堂にやってきた。アリシアもまた浮かない表情をしていて、わたしの隣に座ったと同時に大きな溜息を吐く。
「あたし、いつの間に保健室で寝ちゃってたのかしら」
あ、そっち……?
「お昼前からの記憶がなくてヤバいわ。姉さまに会いに行ったのは覚えてるんだけど……」
アリシアは不思議そうに首を捻っている。どうやらわたしに抱き着いて甘えていた記憶はすっかり抜け落ちちゃっているみたいだ。思い出させるのもかわいそうだから、触れないでおいてあげよう。
「アリシア、昨晩の件でそちらは何か進捗がありましたの?」
「サッパリよ。アルバス学園長が不在で、フロッグ教頭は取り付く島がないわ」
「やっぱりわたしたちに罪を押し付けようとしてるのかなぁ?」
「それが、ちょっと違うみたい」
「違うって?」
わたしが訊ねると、アリシアは夕食のスープにパンを浸しながら教えてくれる。
「フロッグ教頭はむしろ責任から逃げたいみたいなのよね。ほら、自分が代理として学園を任されている間に侵入者が出て、しかも国が保有する貴重な魔導書が盗まれたなんて話になったら責任問題でしょ? あたしたちに罪を押し付ける以前の話なのよ」
「じゃ、じゃあもしかしてグロップ教頭は……」
「どちらかと言えば隠蔽したがってるわ。書庫への立ち入りを禁止したのもそれが理由ね」
「それはホッとしたというか、なんというかだね……」
「とはいえ安心はできないわよ。保身に走ったフロッグ教頭が何をしでかすかわからないわ。どちらにせよあたしたちはあたしたちで、侵入者探しはした方がいいと思う」
「同感ですわ。とは言え現状は手詰まりなんですわよね。アリシア、アイリス様に協力を仰げませんの?」
「いちおう母様には事情を説明する手紙を送ったわ。ただ、立場的にすぐ介入するのは難しいと思うわよ。王立魔法学園の独立性を保つために過度な干渉は避けるべきっていうのが、貴族社会の暗黙の了解だし」
「無暗に立ち入れば他の貴族から反感を買ってしまいますわね……」
「実際は王立魔法学園の内部でもオクトーバーだのセプテンバーだのって、貴族社会から影響受けまくってるのにね。馬鹿らしいけどこればっかりは仕方がないわ」
結局、わたしたちに取れる手段はこれといって残されていなかった。
侵入者探しは暗礁に乗り上げて、それから五日が経った。
事態が動いたのはその日の朝。ミナリーと食堂に行くと、いつものテーブルでロザリィ様とアリシア、そしてニーナちゃんが新聞を広げて何やら話し合っていた。
今朝の朝刊かな……? みんなが新聞を読んでるなんて珍しい。
「おはよー。何か面白い記事でもあったの?」
「ああ、姉さま。面白いかどうかはともかく、気になる記事をニーナが見つけたのよ」
「気になる記事?」
「これです、師匠さん」
ニーナちゃんが見せてくれたのは新聞の一面記事。見出しには『王都西地区で通り魔』『被害者5人目』『魔力奪われたか』と目立つように文字が並んでいた。
「通り魔事件?」
「ええ。何でもここ数日、王都で立て続けに市民が魔力を奪われる事件が起こっているそうですわ。被害者は全員魔力切れで入院中だとか……」
「不自然ですね」
記事を見てミナリーが言う。詳しく記事の内容を見てみると、初めの被害者が発見されたのは六日前の早朝。それから毎日のように王都の西地区を中心に被害が出ている。犯行は決まって日暮れから夜明けまでの間で、被害者はみんな魔力を奪われて魔力切れの症状を起こしているようだ。
記事では魔力を奪うモンスターの犯行が示唆されているけど、
「王都の街中にモンスターって、不自然だよね?」
わたしもミナリーに同意してみんなに訊ねる。
「そもそも魔力を吸うモンスターなんて、山奥の秘境かダンジョンにしか生息してないわよ」
「密輸業者がモンスターを持ち込めるほど王都の警備は甘くありませんわ」
「だとしたらこれって……」
「魔導書が関わっている可能性が高いですね」
ミナリーの総括に全員が頷く。
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