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第二章 わたしの妹は超絶カワ(・∀・)イイ!!ツンデレ魔法使い!

第22話 妹との再会(ミナリー視点)

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   ◇◇◇

「終わりました……。わたしの学園生活はもうお先真っ暗です……」

 入学式を終えて教室へ戻る途中、ニーナは肩を落として酷く落ち込んでいました。

「あはは、わたしの人生って本当にいつもこうですね。上手くいかないというか、光があたらないというか。暗いところが好きだし、闇魔法しか使えないし。一瞬先は闇っていうかもうわたしの存在そのものが闇というかこのままもう闇の中に消えていったらいいのに」

 はぁー……と重たい溜息がニーナの口から洩れでます。

 とはいえ新入生代表挨拶を噛みに噛んだニーナですが、途中で原稿が抜けることもなく最後まで読み切ることはできていました。

「そう気を落とさずとも大丈夫ですわ。グダグダな挨拶にはなりましたけれど、最後まで読み上げたのですから上出来ですわよ」

「ろ。ロザリィ様ぁ……!」

「あなたもそう思いますわよね、ミナリー?」

 ロザリィに尋ねられ、私はとりあえず首肯します。

「お疲れ様です、ニーナ」

「み、ミナリーさん……! ……ってぇ、ミナリーさんこのまえわたしが助けを求めるのを無視してさっさと帰りましたよねぇ!? あの後わたしがどれだけ大変だったかわかっているんですか!? 闇魔法使っちゃって修道院には帰れないわ、王都で宿に泊まるだけのお金も持ってないわで、二日ほど公園で寝泊まりしたんですよ!? ロザリィ様に助けてもらえなかったらどうなっていたことかっ!」

「公務の帰りに馬車から偶然ベンチの下で寝ているニーナを見かけたときは肝が冷えましたわよ……」

 どうやら入学試験後に色々あったらしいです。とりあえず公園で二日ほど寝泊まりできるニーナの適応力の高さを褒めるべきですか。

「とにかく、落ち込んでいても仕方がありませんわよ。これから王立魔法学園での生活が始まるんですから。そうですわよね、アリスさま?」

「…………」

 私の隣を歩いていた師匠が急に立ち止ります。

「師匠?」

「ごめん、みんな。先に教室戻ってて? わたしちょっと用事思い出しちゃった!」

 そう言って、師匠は踵を返してどこかへ行ってしまいます。

「おトイレですかね?」

「はしたないですわよ、ニーナ。それにたぶん、違います。きっとアリシアに会いに行くつもりですわ」

「アリシア……って、生徒会長さんですか?」

「ええ。二人は姉妹ですから」

 師匠の妹であり、この学園の生徒会長アリシア・オクトーバー。師匠は前から妹に会いたいと何度も口にしていたので、その気持ちが抑えきれなくなったのかもしれません。

「わたくしたちは先に教室へ戻っていましょう。久々の再会を外野が邪魔してしまうのも無粋ですわ」

「感動の再会ってやつですね!」

 ロザリィとニーナはそのまま教室に戻ろうと歩き始めます。けれど、私は立ち止まって遠ざかっていく師匠の背中を見つめ、その後を追いかけることにしました。

「ちょ、ちょっとミナリー・ポピンズ! まさか邪魔をしに行くつもりですの!?」

「邪魔をするつもりはないです。……けど、少し気にかかることもあるので」

「気にかかることですか?」

「もしかしたら私の杞憂かもしれません」

 それならそれで構わないのですが、そうでなかった場合には師匠を放っておくわけにもいかないです。

 私が師匠を追いかけ始めると、ロザリィとニーナも後ろをついてくる。

「無粋じゃなかったんですか?」

「二人の再会をあなたが邪魔しないよう監視のためですわ」

「わ、わたしは何となく付いていった方が面白そうなので!」

「そうですか……」

 私たちは師匠にばれないよう尾行を続け、やがて大劇場の裏の人目につかない場所に辿り着きました。ちょうど大劇場から出てきたアリシアに師匠が声をかけて、アリシアが師匠をそこまで連れ出したのです。

「で、話ってなによ?」

 腕を組んだアリシアが師匠に問います。わたしたちは物陰に隠れてその様子を覗いていました。

「あ、えっと。久しぶりだね、アリシア」

 師匠は少しぎこちなく、強張った面持ちで妹へ話しかけます。二人が会うのはおよそ5年ぶりのことで、式の最中に号泣していた師匠ですが、やはり緊張はしてしまうようです。

「あ、あのね! あれから色々あって、わたしようやく王立魔法学園に入学することができたの! 驚かせちゃったかな……? わたしも驚いちゃった。アリシア、わたしが知らない間にすっごく成長して、王立魔法学園で生徒会長までしてるんだもん。立派な姿が見れて思わず泣いちゃった、えへへ……。アリシア、ずっと寂しい思いさせてごめんね。お姉ちゃん、これからはアリシアと――」

「どうして、今になって帰ってきたりなんかしたのよ……っ!」

「……え?」

 アリシアが絞り出すように発した言葉に、師匠は茫然と立ち尽くします。アリシアはキッと師匠を睨みつけると、堰を切ったように捲し立てました。

「5年前、家を飛び出したあんたがオクトーバー家にどれだけの迷惑をかけたのか、お母様の顔にどれだけの泥を塗ったのかわからないの!? 公爵家に生まれながら王立魔法学園の入学試験すら受けられなかった無能令嬢なんて社交界の笑いものにされて、妹のあたしがどれだけ肩身の狭い思いをしてきたと思ってるのよっ!」

「あ、ご、ごめっ……! わたしは、そんなつもりじゃ……」

「5年もずっと手紙すら寄越さなかったくせに! いきなり目の前に現れてお姉ちゃん面なんかしないで!」

「…………っ」

 師匠とアリシアがどのような姉妹関係だったのか私は知りません。だけど、こうなることを私は頭のどこかで危惧していました。

 師匠は忘れているかもしれませんが、出会ってすぐの頃に師匠からアリシアの話を聞いたことがあります。仲が良くて甘えん坊な妹が居るから、いつか紹介したいなんて言われたこともあります。

 入学試験の日。王都のカフェでも師匠はアリシアにいつか私を紹介したいと言っていました。もしかしたら師匠はそのいつかを今実現しようとしてくれていたのかもしれません。

 けれど現実は、私と師匠が過ごした5年間は。

 あまりにも、長すぎたのです。
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