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第一章 わたしと弟子の王立魔法学園入学試験
第18話 合格発表
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「わたし、本当に王立魔法学園の生徒になれるのかな……」
「師匠なら大丈夫です。模擬魔法戦も相手を瞬殺してたじゃないですか」
「そ、それはそうなんだけどね……?」
ただあんまりにもあっさり勝っちゃったから、あれがどう評価されるんだろうって少し不安な所もあったりする。
それに、不安な所はもう一つあって、
「招待状にミナリーがわたしの名前を書き足したこと、ばれちゃったりしないかな……?」
これは不安というよりは、何というか「良いのかなぁ?」って感じだ。ミナリーに悪気があったとは思わないけど、招待状を偽造しちゃっているわけだし……。不正入学として後から処分されやしないかとヒヤヒヤしながら過ごすのも心臓に悪いし。
「それなんですが、師匠。招待状を確認された時に試験官の人が言っていたことを覚えていますか?」
「試験官の先生が言ってたこと?」
「はい。私の記憶が確かなら、師匠の名前を見て『受験者名簿に名前がある』と言っていました。私は招待状に師匠の名前を書き足しただけで、受験者名簿に細工はしてません。もちろん試験官に催眠や幻覚の魔法をかけたわけでもないです」
「じゃあ、わたしには初めからちゃんと王立魔法学園の入学試験を受ける資格があったってこと?」
「そうとしか考えられないと思います。もしかしたら、毎年実家に招待状が届いていたりしたんじゃないですか?」
「実家かぁ。それは盲点だったかも……」
15歳の春に家出してから、実家には一度も戻っていない。それどころか手紙一つ出していないから、今は完全に音信不通状態だ。仮に実家に招待状が届いていたとしても、わたしにはそれを知る術は無いし、実家からもわたしにそれを知らせる術が無かったと思う。
……そっか、受験者名簿に名前があったならあんまり気にしなくていいのかな。
「そういえばみんなどうしてるんだろう……? アリシアは元気にしてるかな……」
「妹さんの名前でしたよね」
「うん。歳はミナリーの一つ上かな。わたしよりも魔法の才能がある子だったから、たぶん王立魔法学園に入学してると思うんだよね。会えるといいんだけど……」
アリシアは小さい頃からわたしにべったりで、ロザリィ様と一緒にいつも三人で遊んでいた。わたしが王立魔法学園への入学を目指して勉強や魔法の鍛錬をするようになってからはあんまり遊べていなかったけど……。
「もし会えたら、謝りたいんだよ。家出して、一人にしちゃったこと。色々と苦労をかけちゃったと思うし……」
「きっと、受け入れてくれると思います」
「うん、そうだといいね。それに、ミナリーのことも紹介しないと。わたしの自慢の弟子だよって。だから友達になってあげてねって」
「友達、ですか?」
「うん! ミナリーとアリシアはきっと仲良くなれると思うんだぁ。素直じゃない所とか、ツンツンしてる所とか、二人ともそっくりだもん!」
「……師匠、色々と言いたいことはありますが同族嫌悪って言葉は知ってますか?」
「知ってるけど、心配はしてないかなぁー。ミナリーもアリシアも優しい子だからね!」
「……はぁ。善処はしてみます」
ミナリーは小さく溜息を吐いてティーカップを口に運ぶ。わたしはミナリーの返事がちょっと意外で、思わずその所作をまじまじと見つめてしまった。
「どうかしましたか?」
「あ、ううん。自分で言っててあれだけど、ミナリーが素直に受け入れてくれるとは思わなかったから。ミナリーって友達とかあんまり興味ないタイプだと思ってたよ」
「……そうですね。自分でも意外でした。師匠以外の誰かと関わることなんて、今後の人生においてあまりないことだと思っていたので」
「ロザリィ様やニーナちゃんとも仲良くなったもんね」
「……別に仲良くなってないです」
「そこは否定するんだ!?」
ミナリーはまた顔を隠すようにティーカップを口に運ぶ。さっきもう空になっていたのを見ちゃったけど、師匠は優しいからあえて指摘しないであげよう。
それからしばらくカフェで時間を潰して、日が暮れ始めたタイミングでわたしたちは学園に戻った。入学試験の受験生は闘技場に集められ、全員の目の前に今年の合格者の名が成績順で張り出される。今年の合格者は52名。
結果は以下の通りだった。
首席 ニーナ・アマルフィア
次席 ミナリー・ポピンズ
三席 ロザリィ・マグナ・フィーリス
四席 アリス・オクトーバー
ニーナちゃん首席合格。
魔力量測定では全受験生で一番の魔力量を誇り、模擬魔法戦では〈魔力開放〉を使用した上で闇系統魔法を巧みに操って勝利を収めた。
魔力量測定の結果が芳しくなかったミナリーやわたし、ミナリーに負けちゃったロザリィ様が評価を落としたと考えれば、ニーナちゃんが首席合格なのも納得できる。
「わ、わたしが首席ですか……!?」
ただ、魔力切れのためか顔色が悪いニーナちゃん本人は首席合格にさらに顔を真っ青にしていた。試験官の先生から首席合格者には入学式で新入生を代表してあいさつしてもらうと言われてからは、もう今にも吐きそうなグロッキー状態になっている。
「まさかわたくしが三席だなんて……! 悔しいですが、認めざるを得ませんわね。入学式でお会いできることを楽しみにしていますわ、アリスさま。そしてミナリー! この借りはいずれ必ず返させて頂きますわよ!」
魔力切れから回復したロザリィ様はミナリーを指さしてそう宣言すると「ふんっ」鼻を鳴らして去っていく。
そして、
「やった、やったね、ミナリー! 合格、合格だよぉーっ!」
「そうですね。おめでとうございます、師匠」
「うん、ミナリーも! おめでとう、我が弟子よ!」
目じりに涙を浮かべたわたしは、喜びのあまりミナリーにギューッと抱き着く。ミナリーも優しく抱きしめ返してくれて、二人で喜びの瞬間を分かち合ったのだった。
「師匠なら大丈夫です。模擬魔法戦も相手を瞬殺してたじゃないですか」
「そ、それはそうなんだけどね……?」
ただあんまりにもあっさり勝っちゃったから、あれがどう評価されるんだろうって少し不安な所もあったりする。
それに、不安な所はもう一つあって、
「招待状にミナリーがわたしの名前を書き足したこと、ばれちゃったりしないかな……?」
これは不安というよりは、何というか「良いのかなぁ?」って感じだ。ミナリーに悪気があったとは思わないけど、招待状を偽造しちゃっているわけだし……。不正入学として後から処分されやしないかとヒヤヒヤしながら過ごすのも心臓に悪いし。
「それなんですが、師匠。招待状を確認された時に試験官の人が言っていたことを覚えていますか?」
「試験官の先生が言ってたこと?」
「はい。私の記憶が確かなら、師匠の名前を見て『受験者名簿に名前がある』と言っていました。私は招待状に師匠の名前を書き足しただけで、受験者名簿に細工はしてません。もちろん試験官に催眠や幻覚の魔法をかけたわけでもないです」
「じゃあ、わたしには初めからちゃんと王立魔法学園の入学試験を受ける資格があったってこと?」
「そうとしか考えられないと思います。もしかしたら、毎年実家に招待状が届いていたりしたんじゃないですか?」
「実家かぁ。それは盲点だったかも……」
15歳の春に家出してから、実家には一度も戻っていない。それどころか手紙一つ出していないから、今は完全に音信不通状態だ。仮に実家に招待状が届いていたとしても、わたしにはそれを知る術は無いし、実家からもわたしにそれを知らせる術が無かったと思う。
……そっか、受験者名簿に名前があったならあんまり気にしなくていいのかな。
「そういえばみんなどうしてるんだろう……? アリシアは元気にしてるかな……」
「妹さんの名前でしたよね」
「うん。歳はミナリーの一つ上かな。わたしよりも魔法の才能がある子だったから、たぶん王立魔法学園に入学してると思うんだよね。会えるといいんだけど……」
アリシアは小さい頃からわたしにべったりで、ロザリィ様と一緒にいつも三人で遊んでいた。わたしが王立魔法学園への入学を目指して勉強や魔法の鍛錬をするようになってからはあんまり遊べていなかったけど……。
「もし会えたら、謝りたいんだよ。家出して、一人にしちゃったこと。色々と苦労をかけちゃったと思うし……」
「きっと、受け入れてくれると思います」
「うん、そうだといいね。それに、ミナリーのことも紹介しないと。わたしの自慢の弟子だよって。だから友達になってあげてねって」
「友達、ですか?」
「うん! ミナリーとアリシアはきっと仲良くなれると思うんだぁ。素直じゃない所とか、ツンツンしてる所とか、二人ともそっくりだもん!」
「……師匠、色々と言いたいことはありますが同族嫌悪って言葉は知ってますか?」
「知ってるけど、心配はしてないかなぁー。ミナリーもアリシアも優しい子だからね!」
「……はぁ。善処はしてみます」
ミナリーは小さく溜息を吐いてティーカップを口に運ぶ。わたしはミナリーの返事がちょっと意外で、思わずその所作をまじまじと見つめてしまった。
「どうかしましたか?」
「あ、ううん。自分で言っててあれだけど、ミナリーが素直に受け入れてくれるとは思わなかったから。ミナリーって友達とかあんまり興味ないタイプだと思ってたよ」
「……そうですね。自分でも意外でした。師匠以外の誰かと関わることなんて、今後の人生においてあまりないことだと思っていたので」
「ロザリィ様やニーナちゃんとも仲良くなったもんね」
「……別に仲良くなってないです」
「そこは否定するんだ!?」
ミナリーはまた顔を隠すようにティーカップを口に運ぶ。さっきもう空になっていたのを見ちゃったけど、師匠は優しいからあえて指摘しないであげよう。
それからしばらくカフェで時間を潰して、日が暮れ始めたタイミングでわたしたちは学園に戻った。入学試験の受験生は闘技場に集められ、全員の目の前に今年の合格者の名が成績順で張り出される。今年の合格者は52名。
結果は以下の通りだった。
首席 ニーナ・アマルフィア
次席 ミナリー・ポピンズ
三席 ロザリィ・マグナ・フィーリス
四席 アリス・オクトーバー
ニーナちゃん首席合格。
魔力量測定では全受験生で一番の魔力量を誇り、模擬魔法戦では〈魔力開放〉を使用した上で闇系統魔法を巧みに操って勝利を収めた。
魔力量測定の結果が芳しくなかったミナリーやわたし、ミナリーに負けちゃったロザリィ様が評価を落としたと考えれば、ニーナちゃんが首席合格なのも納得できる。
「わ、わたしが首席ですか……!?」
ただ、魔力切れのためか顔色が悪いニーナちゃん本人は首席合格にさらに顔を真っ青にしていた。試験官の先生から首席合格者には入学式で新入生を代表してあいさつしてもらうと言われてからは、もう今にも吐きそうなグロッキー状態になっている。
「まさかわたくしが三席だなんて……! 悔しいですが、認めざるを得ませんわね。入学式でお会いできることを楽しみにしていますわ、アリスさま。そしてミナリー! この借りはいずれ必ず返させて頂きますわよ!」
魔力切れから回復したロザリィ様はミナリーを指さしてそう宣言すると「ふんっ」鼻を鳴らして去っていく。
そして、
「やった、やったね、ミナリー! 合格、合格だよぉーっ!」
「そうですね。おめでとうございます、師匠」
「うん、ミナリーも! おめでとう、我が弟子よ!」
目じりに涙を浮かべたわたしは、喜びのあまりミナリーにギューッと抱き着く。ミナリーも優しく抱きしめ返してくれて、二人で喜びの瞬間を分かち合ったのだった。
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