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第一章 わたしと弟子の王立魔法学園入学試験
第17話 師匠と弟子の王都デート
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「しょ、勝者! ニーナ・アマルフィア!」
審判を務めていた試験官の先生が、股を押せて倒れこんだニーナちゃんの対戦相手を痛ましそうに見ながら宣言する。周囲を見渡すと男の子の受験生がみんな哀れみの目で運ばれていく対戦相手を見送っていた。
「あれ、どれくらいの痛さなんでしょうか」
「さ、さあ……? それよりも勝ったね、ニーナちゃん!」
「はい。まさかあそこまで闇系統魔法を使いこなすとは思いませんでした」
時間的な制約もあって、わたしたちがニーナちゃんに教えることができた闇系統魔法はたったの二つ。〈影縫い〉は相手の足元を影との接地面に魔力で縛り付けて動きを阻害する魔法。〈帳〉は魔力で光を遮断して相手の視界を奪う魔法。
どっちも闇系統魔法の中では難易度が高くて、ミナリーがこの二つの魔法をチョイスした時にはニーナちゃんが使いこなせるのか不安だった。でもどうやらその不安は杞憂に終わったみたいで、ニーナちゃんのセンスの高さには脱帽するしかない。
「しかも〈魔力開放〉までしちゃうなんて……」
あれだけの才能を持ちながら……ううん、持っていたからこそなのかな。闇系統魔法への適性が高すぎるが故に、ニーナちゃんは他の系統の魔法が使えなかった。アルミラ教のシスター見習いとして過ごしていたら、あの才能は埋もれちゃっていたかもしれない。
「師匠、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん。そうだね、ニーナちゃんを出迎えてあげないとね」
「出迎え? 何を言っているんですか? 王都散策の方です」
「え、そっち!?」
わたしはてっきりニーナちゃんを迎えに行って三人で王都探索に出かけるんだと思ってた。でもミナリーはどうやらそういうつもりはまったくないみたいで、そのまま観覧席から外へ向かう通路の方へ歩いて行ってしまう。
「あ、あれっ!? この体内から溢れ出る魔力はどうやって止めるんですか!? み、ミナリーさん見てますよね!? これの止め方教えてくださいよーっ!?」
「ミナリー呼ばれてるよ……?」
「魔力が切れたらその内止まります」
そりゃそうだけども……。
先を行くミナリーに追いついて横顔をちらりとうかがう。心なしか、ミナリーの表情は満足そうに見えた。言動には出さないけど、内心ではニーナちゃんが模擬魔法戦に勝って嬉しがってるみたい。会いに行ってあげないのは気恥ずかしいだけなのかも。
わたしたちは学園の外へ出るにあたって試験官の先生に許可を貰いに行った。合格者発表は日暮れ頃に予定されていて、それまでに戻ってくるようにと言われて許可を貰う。
学園の外に出たわたしたちは、大勢の人々が行きかう王都を二人揃って歩き出す。
「来るときも思いましたが凄い人の数ですね」
「王国で一番人口の多い街だもん。あ、そうだ! ミナリー、はぐれちゃわないように手を握って歩こうよ。ほら、一緒に旅をし始めたときみたいに!」
「私もうそんな歳じゃないですよ」
「そう言わずに、ね?」
ミナリーの手を取って指を絡ませる。ミナリーはわたしと繋いだ手を見て小さく溜息を吐いた。
「まったく……。甘えん坊な師匠です。わたしからはぐれないよう注意してください」
「はぁ~い!」
何だかんだ手を繋いでくれる弟子を持ててわたしは幸せな師匠だよ。思い出すなぁ、ミナリーを連れて旅をしていた時のこと。移動は基本的には箒だったけど、行く先々の村や町ではこうして手をつないで色々なところを見て回ったなぁ。
ログハウスで生活するようになってからはそういう機会も減ってしまって、ミナリーが小さかった頃を懐かしみながら王都を色々と見て回る。
まずは模擬魔法戦でボロボロになっちゃったミナリーのローブを探しに行く。王都には魔法使い向け専門のお店が幾つもあって、質素なローブから魔道具的な役割を持つローブなんかも色々あった。予算の都合で安価なローブを買うことにはなっちゃったけど、ミナリーと一緒に専門店を見て回るのはとっても楽しかった。
その後は帽子屋さんに入って二人でお揃いの魔女帽子をかぶって鏡の前に並んでみたり、露店で売られているアクセサリーを見てみたり。色々歩き回ったわたしたちは、日暮れが近づいて最後に学園近くのオシャレなカフェに腰を落ち着かせることにした。
「楽しかったね、ミナリー?」
わたしが尋ねると、ミナリーはハーブティを飲みながら視線を横にそらす。
「師匠は少しはしゃぎすぎです」
「えー? もしかして師匠とのデートは楽しくなかった?」
「……別に、楽しくなかったとは言ってないですが」
ミナリーは顔を隠すようにティーカップを傾けた。んもぅ、ミナリーったら照れ屋さんなんだから。わたしもハーブティを一口。口いっぱいに優しい甘みと爽やかな香りが広がる。
「美味しい! ねぇミナリー、春になったら畑でハーブも育ててみない?」
「別に構いませんが、学園の敷地で勝手に栽培するつもりですか?」
「あっ!」
そうだった。無事に合格が決まったら春からわたし、王立魔法学園の生徒になるんだった。実はあんまりまだ実感がわいてないんだよねぇ……。
審判を務めていた試験官の先生が、股を押せて倒れこんだニーナちゃんの対戦相手を痛ましそうに見ながら宣言する。周囲を見渡すと男の子の受験生がみんな哀れみの目で運ばれていく対戦相手を見送っていた。
「あれ、どれくらいの痛さなんでしょうか」
「さ、さあ……? それよりも勝ったね、ニーナちゃん!」
「はい。まさかあそこまで闇系統魔法を使いこなすとは思いませんでした」
時間的な制約もあって、わたしたちがニーナちゃんに教えることができた闇系統魔法はたったの二つ。〈影縫い〉は相手の足元を影との接地面に魔力で縛り付けて動きを阻害する魔法。〈帳〉は魔力で光を遮断して相手の視界を奪う魔法。
どっちも闇系統魔法の中では難易度が高くて、ミナリーがこの二つの魔法をチョイスした時にはニーナちゃんが使いこなせるのか不安だった。でもどうやらその不安は杞憂に終わったみたいで、ニーナちゃんのセンスの高さには脱帽するしかない。
「しかも〈魔力開放〉までしちゃうなんて……」
あれだけの才能を持ちながら……ううん、持っていたからこそなのかな。闇系統魔法への適性が高すぎるが故に、ニーナちゃんは他の系統の魔法が使えなかった。アルミラ教のシスター見習いとして過ごしていたら、あの才能は埋もれちゃっていたかもしれない。
「師匠、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん。そうだね、ニーナちゃんを出迎えてあげないとね」
「出迎え? 何を言っているんですか? 王都散策の方です」
「え、そっち!?」
わたしはてっきりニーナちゃんを迎えに行って三人で王都探索に出かけるんだと思ってた。でもミナリーはどうやらそういうつもりはまったくないみたいで、そのまま観覧席から外へ向かう通路の方へ歩いて行ってしまう。
「あ、あれっ!? この体内から溢れ出る魔力はどうやって止めるんですか!? み、ミナリーさん見てますよね!? これの止め方教えてくださいよーっ!?」
「ミナリー呼ばれてるよ……?」
「魔力が切れたらその内止まります」
そりゃそうだけども……。
先を行くミナリーに追いついて横顔をちらりとうかがう。心なしか、ミナリーの表情は満足そうに見えた。言動には出さないけど、内心ではニーナちゃんが模擬魔法戦に勝って嬉しがってるみたい。会いに行ってあげないのは気恥ずかしいだけなのかも。
わたしたちは学園の外へ出るにあたって試験官の先生に許可を貰いに行った。合格者発表は日暮れ頃に予定されていて、それまでに戻ってくるようにと言われて許可を貰う。
学園の外に出たわたしたちは、大勢の人々が行きかう王都を二人揃って歩き出す。
「来るときも思いましたが凄い人の数ですね」
「王国で一番人口の多い街だもん。あ、そうだ! ミナリー、はぐれちゃわないように手を握って歩こうよ。ほら、一緒に旅をし始めたときみたいに!」
「私もうそんな歳じゃないですよ」
「そう言わずに、ね?」
ミナリーの手を取って指を絡ませる。ミナリーはわたしと繋いだ手を見て小さく溜息を吐いた。
「まったく……。甘えん坊な師匠です。わたしからはぐれないよう注意してください」
「はぁ~い!」
何だかんだ手を繋いでくれる弟子を持ててわたしは幸せな師匠だよ。思い出すなぁ、ミナリーを連れて旅をしていた時のこと。移動は基本的には箒だったけど、行く先々の村や町ではこうして手をつないで色々なところを見て回ったなぁ。
ログハウスで生活するようになってからはそういう機会も減ってしまって、ミナリーが小さかった頃を懐かしみながら王都を色々と見て回る。
まずは模擬魔法戦でボロボロになっちゃったミナリーのローブを探しに行く。王都には魔法使い向け専門のお店が幾つもあって、質素なローブから魔道具的な役割を持つローブなんかも色々あった。予算の都合で安価なローブを買うことにはなっちゃったけど、ミナリーと一緒に専門店を見て回るのはとっても楽しかった。
その後は帽子屋さんに入って二人でお揃いの魔女帽子をかぶって鏡の前に並んでみたり、露店で売られているアクセサリーを見てみたり。色々歩き回ったわたしたちは、日暮れが近づいて最後に学園近くのオシャレなカフェに腰を落ち着かせることにした。
「楽しかったね、ミナリー?」
わたしが尋ねると、ミナリーはハーブティを飲みながら視線を横にそらす。
「師匠は少しはしゃぎすぎです」
「えー? もしかして師匠とのデートは楽しくなかった?」
「……別に、楽しくなかったとは言ってないですが」
ミナリーは顔を隠すようにティーカップを傾けた。んもぅ、ミナリーったら照れ屋さんなんだから。わたしもハーブティを一口。口いっぱいに優しい甘みと爽やかな香りが広がる。
「美味しい! ねぇミナリー、春になったら畑でハーブも育ててみない?」
「別に構いませんが、学園の敷地で勝手に栽培するつもりですか?」
「あっ!」
そうだった。無事に合格が決まったら春からわたし、王立魔法学園の生徒になるんだった。実はあんまりまだ実感がわいてないんだよねぇ……。
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