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第一章 わたしと弟子の王立魔法学園入学試験
第15話 わたしと弟子と闇魔法
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ニーナちゃんは素っ頓狂な声を上げた。しばらくしてミナリーの提案の意味を理解したようで、ぶんぶんぶんと首を横に振る。
「や、闇魔法なんてダメですよぅ! アルミラ教じゃ、闇魔法は悪しき者の使う力。神にその身を捧げるシスターが闇魔法を使うなんて言語道断で、教義に反しちゃいます!」
そうなんだよねー……。アルミラ教は闇系統の魔法を否定している宗教で、アルミラ教への信仰が厚い人ほど闇系統の魔法を目の敵にしている。
だから魔法分野で他国を圧倒するフィーリス王国においても闇系統の魔法の研究はあんまり進んでいなくて、ミナリーも闇系統の魔法については手探りで身に着けていくしかなかった。
ニーナちゃんによればアルミラ教の経典には神と敵対する悪魔や魔人など悪しき者たちが描かれているそうで、そういう存在が主に闇系統の魔法を使うみたい。そういった理由からアルミラ教の関係者が闇系統の魔法を扱うのはご法度で、禁忌中の禁忌とされているんだって。
「そりゃわたしだって『もしかしたら』って思ってましたよ? でも、闇魔法だけはダメです。使ったら最後、わたしはもうシスターになることができなくなっちゃいます!」
「ですが、光魔法が使えないとシスターにはなれないんですよね? どっちにしてもなれないんじゃありませんか?」
「だから悩んでるんじゃないですかぁっ!」
ニーナは頭を抱えて嘆くばかりだった
「ミナリー……」
こればっかりは、わたしたちからはあまり言わない方が良い問題だと思う。政治も面倒だけど、それと同じかそれ以上に宗教は面倒くさい。
わたしもミナリーもアルミラ教の信徒ってわけじゃないから闇系統魔法に抵抗がないけど、ニーナちゃんはアルミラ教のシスター見習いだもん……。
「ですがこのままでは……」
せっかくのニーナちゃんの才能が埋もれていく。ミナリーが言いたいこともよくわかる。それに、わたしにはもう一つ気になっていることがあった。
ニーナちゃんはいずれ光魔法が使えるようになるまでシスター見習いとして生きていくつもりかもしれないけど、彼女は気づいているのかな……。
本来なら許可されない王立魔法学園入学試験への参加が修道院に許可されたことの意味。
ニーナちゃんはもう既に、半ば修道院から見捨てられている気がする。ニーナちゃんがシスター見習いである以上、修道院側も慈善活動で彼女の面倒を見ているわけじゃないから……。
「ニーナは、本当にそれでいいんですか?」
「……ミナリーさんには、わかりません。わたしは両親に捨てられて、教会で育ちました。行き場のないわたしを、教会のシスターたちは暖かく迎え入れてくれたんです。わたしはその時の恩を片時も忘れたことがありません。シスターになって、受けた恩を返したい。わたしみたいに身寄りのない子供たちを救ってあげたい。だからわたしは、シスターになるって決めたんですっ!」
「ですが、このままではニーナはシスターになれません。あなたが受けた恩は返せないし、身寄りのない子供を救うこともできないです」
「ミナリー……?」
ミナリーが珍しく語気を強めた。
あぁ、そっか……。ミナリーがどうしてニーナちゃんに対して感情を表に出しているのか、何となく察する。子供の頃の境遇が似てるんだ。
親に捨てられたニーナちゃんと、親から奴隷のように扱われていたミナリー。ニーナちゃんはアルミラ教の教会に預けられて、ミナリーはわたしが弟子にして旅に連れ出した。
二人はよく似ていて、だからこそ、ミナリーはニーナちゃんを放っておけないんだね。
「光魔法を使えなければシスターにはなれないのかもしれません。だけど、闇魔法も使えなければ、何にもなれないんです。本当にそれでいいんですか……? 何かを変えたかったから、ここに来たんですよね?」
「で、でも、わたしは……――」
「ニーナは、本当にシスターになりたいんですか?」
「――っ!」
ミナリーの問いかけに、ニーナちゃんは言葉を詰まらせて答えることができなかった。
「なりふり構わずシスターになりたいなら、あなたはここに来ていないはずです。入学試験の招待状なんてものに惑わされずに、今も修道院で修業を積んでいたはずですよ」
「…………」
ニーナちゃんは何も答えない。そしてミナリーも、それ以上、ニーナちゃんに対して返事を求めようとはしなかった。
「今から二つの闇魔法の発動方法と使い方を独り言で話します。聞きたくなければ聞かないでください。知りたくなければ立ち去ってくれて構いません」
結局最後まで、ニーナちゃんの踏ん切りはつかなかった。ミナリーは時間ギリギリまで闇魔法を独り言で伝えたけれど、ニーナちゃんはまだ一度も闇魔法を使っていない。
ニーナちゃんの模擬魔法戦の時間が近づいて、控室に居なかったニーナちゃんを試験官の先生が呼びに来る。ニーナちゃんは俯いたままその後について行って、わたしたちはその背中を見送った。
「師匠、王都散策はニーナの模擬魔法戦が終わってからでもいいですか?」
「もちろん。最後まで見届けてあげようね」
ニーナちゃんがどんな選択をするのか、わたしにはわからない。だからニーナちゃんの選択がミナリーにとって最良のものになることを、師匠として願わずに居られなかった。
「や、闇魔法なんてダメですよぅ! アルミラ教じゃ、闇魔法は悪しき者の使う力。神にその身を捧げるシスターが闇魔法を使うなんて言語道断で、教義に反しちゃいます!」
そうなんだよねー……。アルミラ教は闇系統の魔法を否定している宗教で、アルミラ教への信仰が厚い人ほど闇系統の魔法を目の敵にしている。
だから魔法分野で他国を圧倒するフィーリス王国においても闇系統の魔法の研究はあんまり進んでいなくて、ミナリーも闇系統の魔法については手探りで身に着けていくしかなかった。
ニーナちゃんによればアルミラ教の経典には神と敵対する悪魔や魔人など悪しき者たちが描かれているそうで、そういう存在が主に闇系統の魔法を使うみたい。そういった理由からアルミラ教の関係者が闇系統の魔法を扱うのはご法度で、禁忌中の禁忌とされているんだって。
「そりゃわたしだって『もしかしたら』って思ってましたよ? でも、闇魔法だけはダメです。使ったら最後、わたしはもうシスターになることができなくなっちゃいます!」
「ですが、光魔法が使えないとシスターにはなれないんですよね? どっちにしてもなれないんじゃありませんか?」
「だから悩んでるんじゃないですかぁっ!」
ニーナは頭を抱えて嘆くばかりだった
「ミナリー……」
こればっかりは、わたしたちからはあまり言わない方が良い問題だと思う。政治も面倒だけど、それと同じかそれ以上に宗教は面倒くさい。
わたしもミナリーもアルミラ教の信徒ってわけじゃないから闇系統魔法に抵抗がないけど、ニーナちゃんはアルミラ教のシスター見習いだもん……。
「ですがこのままでは……」
せっかくのニーナちゃんの才能が埋もれていく。ミナリーが言いたいこともよくわかる。それに、わたしにはもう一つ気になっていることがあった。
ニーナちゃんはいずれ光魔法が使えるようになるまでシスター見習いとして生きていくつもりかもしれないけど、彼女は気づいているのかな……。
本来なら許可されない王立魔法学園入学試験への参加が修道院に許可されたことの意味。
ニーナちゃんはもう既に、半ば修道院から見捨てられている気がする。ニーナちゃんがシスター見習いである以上、修道院側も慈善活動で彼女の面倒を見ているわけじゃないから……。
「ニーナは、本当にそれでいいんですか?」
「……ミナリーさんには、わかりません。わたしは両親に捨てられて、教会で育ちました。行き場のないわたしを、教会のシスターたちは暖かく迎え入れてくれたんです。わたしはその時の恩を片時も忘れたことがありません。シスターになって、受けた恩を返したい。わたしみたいに身寄りのない子供たちを救ってあげたい。だからわたしは、シスターになるって決めたんですっ!」
「ですが、このままではニーナはシスターになれません。あなたが受けた恩は返せないし、身寄りのない子供を救うこともできないです」
「ミナリー……?」
ミナリーが珍しく語気を強めた。
あぁ、そっか……。ミナリーがどうしてニーナちゃんに対して感情を表に出しているのか、何となく察する。子供の頃の境遇が似てるんだ。
親に捨てられたニーナちゃんと、親から奴隷のように扱われていたミナリー。ニーナちゃんはアルミラ教の教会に預けられて、ミナリーはわたしが弟子にして旅に連れ出した。
二人はよく似ていて、だからこそ、ミナリーはニーナちゃんを放っておけないんだね。
「光魔法を使えなければシスターにはなれないのかもしれません。だけど、闇魔法も使えなければ、何にもなれないんです。本当にそれでいいんですか……? 何かを変えたかったから、ここに来たんですよね?」
「で、でも、わたしは……――」
「ニーナは、本当にシスターになりたいんですか?」
「――っ!」
ミナリーの問いかけに、ニーナちゃんは言葉を詰まらせて答えることができなかった。
「なりふり構わずシスターになりたいなら、あなたはここに来ていないはずです。入学試験の招待状なんてものに惑わされずに、今も修道院で修業を積んでいたはずですよ」
「…………」
ニーナちゃんは何も答えない。そしてミナリーも、それ以上、ニーナちゃんに対して返事を求めようとはしなかった。
「今から二つの闇魔法の発動方法と使い方を独り言で話します。聞きたくなければ聞かないでください。知りたくなければ立ち去ってくれて構いません」
結局最後まで、ニーナちゃんの踏ん切りはつかなかった。ミナリーは時間ギリギリまで闇魔法を独り言で伝えたけれど、ニーナちゃんはまだ一度も闇魔法を使っていない。
ニーナちゃんの模擬魔法戦の時間が近づいて、控室に居なかったニーナちゃんを試験官の先生が呼びに来る。ニーナちゃんは俯いたままその後について行って、わたしたちはその背中を見送った。
「師匠、王都散策はニーナの模擬魔法戦が終わってからでもいいですか?」
「もちろん。最後まで見届けてあげようね」
ニーナちゃんがどんな選択をするのか、わたしにはわからない。だからニーナちゃんの選択がミナリーにとって最良のものになることを、師匠として願わずに居られなかった。
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