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第一章 わたしと弟子の王立魔法学園入学試験

第11話 ざまぁRTA

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「しょ、勝者! ミナリー・ポピンズ!」

 ミナリーとロザリィ様の戦いを見届けたわたしは、ミナリーを出迎えるため観覧席を離れて控室へと向かうことにした。

 天才で最強で心優しい我が弟子は、ちゃんとロザリィ様に手加減をしてくれた。途中ちょっと危ないところもあったけど、ギリギリ思いとどまったからセーフ。師匠としてギュッと抱きしめて頭よしよししてあげないと。

 それに、ロザリィ様も後で労ってあげないとね。幼い頃から凄い才能だったけど、会わない内に見違えるほどの成長をしていた。ミナリー相手だったから負けちゃったけど、きっと他の受験生相手なら誰にも負けなかったと思う。

 ロザリィ様は医務室かな……? わたしの試合が第六試合だから、それが終わったら試験官の先生に訊いてみようかな?

 なんて考えながら歩いていた矢先のこと、

「おやおや。誰かと思えばオクトーバー家の落ちこぼれじゃありませんか」

 わたしの前に現れたのは一人の男の子だった。濃緑色の髪に赤縁の眼鏡をかけたその男の子を、わたしは知っていた。

「もしかして、ドラコくん……?」

「ええ。お久しぶりですねぇ、アリス・オクトーバー」

 ドラコ・セプテンバーくん。

 セプテンバー家はわたしの実家であるオクトーバー家と同じ公爵家で、これまた同じく大魔法王マグナ様の血縁の血を受け継ぐ王家の遠い親戚の家系。オクトーバー家とセプテンバー家は、もうずっと昔から続く政敵の関係だ。

 ドラコくんと会うのはたぶん八年ぶりくらい。当時はまだお互いに小さかったし、親同士の関係もあってあんまり一緒に遊ぶ機会もなかったけど……。

「まさかこんな所で貴女にお会いできるとは思いませんでしたよ。貴族の責務から逃げ出したあなたがよくもまあ、このような所に顔を出せたものですねぇ」

 ドラコくん、しばらく会わない間にずいぶんと性格悪く育っちゃったなぁ。

「ごめんね、ドラコくん。わたしちょっと急いでるから話は後でいいかな?」

「ええ、構いませんよ。それにしても僕はなんて運がいいんでしょうねぇ。王立魔法学園の合格を決める最終試験。模擬魔法戦の対戦相手があの噂に名高い無能令嬢とは。くくくっ、どうやら僕は神に愛されているらしい」

「無能令嬢……?」

「おや、ご存じありませんか! そりゃぁそうだ。貴族の責務から逃げ続けたあなたが、自分がどのような誹りを社交界で受けているかなんて知る由がありませんものねぇ。いやぁ、随分と笑いの種にさせて頂いていますよ」

「ふーん、そっか」

 わたしはそれだけ言って、ドラコくんとすれ違う。

「……っ! せいぜい新しい笑い話を提供してもらいますよ!」

「うん、考えとくね」

 わたしは振り返らずに手を振って、ミナリーが戻ってくるだろう控室を目指した。

 控室の前に着くと、ちょうど扉が開いて中からミナリーが出てくる。わたしはミナリーの顔を見た瞬間にホッと息を吐いて、彼女の胸に飛び込んだ。

「お疲れさま、ミナリーっ!」

「わっ……とと。師匠、急に飛びついてくるのは辞めてくださいといつも言ってるじゃないですか」

「だってミナリーに会いたかったんだも~ん」

「まったく、師匠は甘えん坊ですね」

「えへへぇ~」

 ミナリーが頭を撫でてくれて、思わず口元が緩んでしまう。……おっと、そういえば逆だった。わたしがミナリーをよしよししてあげるんだったよ。すっかり忘れてた。

「交代! ミナリーもよしよししてあげるね!」

「いえ、私は別に……」

「ほら、遠慮しなくていいんだよ? おいで、ミナリー!」

「……私は犬か何かですか。まったくもぅ」

 ミナリーはどこか諦めたようにため息を吐いて、わたしの胸に額を押し付ける。よしよし、従順な弟子は師匠大好きだよ。サラサラでシルクのような手触りの髪に優しく手を這わせる。ミナリーの髪を撫でてると心が落ち着くなぁ。

「ありがとね、ミナリー。ロザリィ様を気遣ってくれて」

「……別に、師匠から褒められるようなことじゃないです。あの人の風系統の魔法の才能は本物でした。だから、合格すべきだと思ったので」

「うんうん。見せ場を作ってあげたんだね。他者を慮れる心優しい弟子を持てて師匠は幸せ者だよ」

「……師匠、何かありましたか?」

「どうして?」

「いいえ、何となくですが」

 普段通りに接していたつもりだったけど、ミナリーには何か感じるところがあったみたい。どうしよう、さっきのことはあんまりミナリーには知られたくないなぁ。

「あ、そろそろ控室で待機しなくちゃ。ごめんね、ミナリー。わたしの試合が終わるまで待っててくれる?」

「もちろんです。頑張ってくださいね、師匠」

「うんっ! 瞬殺してくるね」

「はい、しゅんさ――えっ?」

 わたしはミナリーに手を振って控室に入ると、小さく息を吐いた。

 ……さて。

 迎えた模擬魔法戦第六試合。対戦相手であるドラコくんは、わたしと相対してもまだへらへらと笑っている。

「てっきり僕と戦うことに臆して、また逃げたんじゃないかと思ってたんですがねぇ。くひひっ、臆せず出てきたことを褒めて差し上げますよ、アリス・オクトーバー」

「ねぇ、ドラコくん。一つ面白い笑い話が思い浮かんだんだけど」

「へぇ、どんな愉快な笑い話か聞いてみたいものですねぇ?」

「そんなたいした話じゃないんだけどね」

 ――試合開始。

 試験官の先生の合図と同時に、わたしは杖の先から魔法を放つ。

「無能令嬢って呼ばれている女の子が、実家と敵対する公爵家の長男を瞬殺する話。どう? 面白いかな?」

「が……ぁ……――」

 壁にめり込んだドラコくんがうめき声をあげる。よかった、ぎりぎり死なない程度には手加減できたみたい。

 放ったのは〈火球《ファイアボール》〉〈水球《アクアボール》〉〈風球《ウィンドボール》〉〈雷球《サンダーボール》〉〈砂球《サンドボール》〉。どれも魔法使いを目指す子供が最初に覚える低級魔法。これ以外を使っていたらきっと殺しちゃっていたと思う。

「ごめんね、ドラコくん。わたし、ミナリーほど優しくないんだよ」
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