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第一章 わたしと弟子の王立魔法学園入学試験
第7話 欠陥水晶
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試験官の先生が苦笑しながら合格者の待機スペースへ案内してくれる。ちょうどロザリィ様は他の合格者たちに囲まれていて、近寄ってきてくれたのはミナリーだけだった。
「ミナリー、何とか合格できたよぉ~」
わたしは出迎えてくれたミナリーの胸にぽすっと顔を埋めて抱き着く。
「お疲れ様でした、師匠」
ミナリーはわたしの髪を優しく撫でてくれる。えへへぇ、優しい弟子を持てて幸せだなぁ。
「それにしてもあの魔力水晶、やっぱりおかしいです。師匠の魔力量がたった15000ちょっとなはずがありません」
「えぇー? そうかなぁ? ミナリーが25000だったでしょ? それと比べたら多すぎるくらいだよ」
「そもそも私の魔力量の数値に納得できないです。あの人が90000なら私の魔力量は920000あってしかるべきです」
「920000ってそれはさすがに……」
言い過ぎ……なのかなぁ? ミナリーだったらそうとも言い切れないような気がして口を噤んでしまう。少なくともミナリーの魔力量が王国魔法師団員の平均以下なのはおかしい。
幼い頃にお母様の仕事の関係で師団員の人たちの訓練を見学したことがあるけど、思い返してみてもミナリーより凄いと思う魔法使いは居なかった。
「あの魔法水晶が壊れてるってこと?」
「仮に壊れていないのだとしたら、もしかしたら……」
ミナリーが何かに気づいたように顔を上げた時だった。
「――そ、そんなっ!」
か細い女の子の悲鳴が、魔力水晶の方から聞こえてくる。そちらを見れば真っ黒な髪の小柄な女の子が、魔力水晶の前で小さく項垂れている。どうやら基準の魔力量を超えられなかったみたいだけど……。
「師匠、ちょっと行ってきます」
「み、ミナリー?」
ミナリーは抱き着いていたわたしを優しく引き剥がして、魔力水晶の方へ向かっていく。
「ニーナ・アマルフィア、不合格ですね。他の受験者の邪魔になります。すぐにそこを退きなさい」
「は、はい……」
「待ってください」
ミナリーは女の子と、彼女を退場させようとしていた試験官の先生を制止する。
「君、待機場所に戻りなさい」
「すぐに済みます」
ミナリーは試験官の先生にそう告げると、項垂れていた女の子にそっと耳打ちをする。女の子はハッと顔を上げて、恐る恐るもう一度魔力水晶の表面に右手を押し付けた。
【魔力量:99928】
「99000!?」
ロザリィ様の記録を上回る膨大な魔力量。試験官の先生はあまりの驚きに腰を抜かしてしまっていた。見守っていたわたしも、驚きのあまり息を呑んでしまう。
ど、どうなってるの……?
「合格基準を超えたので、この人も合格でいいですよね?」
ミナリーは未だに腰を抜かしたまんまの試験官の先生に問いかける。先生はミナリーと魔力水晶に表示された数値を見てあんぐりと口を開けている女の子を見比べて言い淀む。
「え、あ、しかし、一度失格にした受験生を合格にするのは……」
「この中で最も多い魔力量を持っているのに、不合格なんですか?」
ミナリーの鋭い指摘に、試験官の先生は言葉を詰まらせた。判定を覆すのが難しいのはわかるけど、魔力量99000という数字は他の受験生を圧倒している。これで王立魔法学園に入れないなんて、あまりにもあの女の子が可哀想だ。
「…………合格で、いいでしょう」
それは試験官の先生も思ったのかもしれない。やがて苦虫を噛み潰すような表情で、試験官の先生は判定を覆した。それを聞いた女の子は「ふへ?」と間の抜けた声を出す。
「合格だそうですよ。よかったですね」
「え、あの、わたしが……?」
「そうです。他に誰が居るんですか」
「あ、ああありがとうございますっ! あなたのアドバイスのおかげですっ! 本当にありがとうございますっ!」
「いいえ。それでは私はこれで」
ミナリーは女の子に深々と頭を下げられながらこっちに戻って来た。ミナリーはあの女の子に何を吹き込んだんだろう……?
「あの魔力水晶の欠陥がわかりました」
「欠陥?」
「あれ、触れた人の魔力総量を数値化してますが、下五桁までしか表示してないです」
「え、えぇぇ……?」
し、下五桁までしか表示していないってことは、つまり魔力量が100000を超えたら初めの数字が消えちゃうってこと!?
「そ、それってとんでもない欠陥…………って、そもそも魔力量が六桁を超える人なんて居るのかなぁ?」
よくよく考えれば近衛魔法師団の指揮官クラスで60000、大魔法王マグナ様の血を受け継ぐ直系のロザリィ様で90000に届かないくらい。100000を超える魔力量を持つ人なんて、そうそう居ないんじゃ?
「少なくとも受験者の中に三人は居ます」
「そ、それって……」
「私と師匠とさっきの人です」
道理でミナリーの魔力量が少なく感じたわけだ。一番上の桁が表示されていなかったんだとしたら、あの数値にも納得がいく。
……でもわたしの魔力量が100000越えって、それはさすがにあり得ないと思うけどなぁ。
「ミナリー、何とか合格できたよぉ~」
わたしは出迎えてくれたミナリーの胸にぽすっと顔を埋めて抱き着く。
「お疲れ様でした、師匠」
ミナリーはわたしの髪を優しく撫でてくれる。えへへぇ、優しい弟子を持てて幸せだなぁ。
「それにしてもあの魔力水晶、やっぱりおかしいです。師匠の魔力量がたった15000ちょっとなはずがありません」
「えぇー? そうかなぁ? ミナリーが25000だったでしょ? それと比べたら多すぎるくらいだよ」
「そもそも私の魔力量の数値に納得できないです。あの人が90000なら私の魔力量は920000あってしかるべきです」
「920000ってそれはさすがに……」
言い過ぎ……なのかなぁ? ミナリーだったらそうとも言い切れないような気がして口を噤んでしまう。少なくともミナリーの魔力量が王国魔法師団員の平均以下なのはおかしい。
幼い頃にお母様の仕事の関係で師団員の人たちの訓練を見学したことがあるけど、思い返してみてもミナリーより凄いと思う魔法使いは居なかった。
「あの魔法水晶が壊れてるってこと?」
「仮に壊れていないのだとしたら、もしかしたら……」
ミナリーが何かに気づいたように顔を上げた時だった。
「――そ、そんなっ!」
か細い女の子の悲鳴が、魔力水晶の方から聞こえてくる。そちらを見れば真っ黒な髪の小柄な女の子が、魔力水晶の前で小さく項垂れている。どうやら基準の魔力量を超えられなかったみたいだけど……。
「師匠、ちょっと行ってきます」
「み、ミナリー?」
ミナリーは抱き着いていたわたしを優しく引き剥がして、魔力水晶の方へ向かっていく。
「ニーナ・アマルフィア、不合格ですね。他の受験者の邪魔になります。すぐにそこを退きなさい」
「は、はい……」
「待ってください」
ミナリーは女の子と、彼女を退場させようとしていた試験官の先生を制止する。
「君、待機場所に戻りなさい」
「すぐに済みます」
ミナリーは試験官の先生にそう告げると、項垂れていた女の子にそっと耳打ちをする。女の子はハッと顔を上げて、恐る恐るもう一度魔力水晶の表面に右手を押し付けた。
【魔力量:99928】
「99000!?」
ロザリィ様の記録を上回る膨大な魔力量。試験官の先生はあまりの驚きに腰を抜かしてしまっていた。見守っていたわたしも、驚きのあまり息を呑んでしまう。
ど、どうなってるの……?
「合格基準を超えたので、この人も合格でいいですよね?」
ミナリーは未だに腰を抜かしたまんまの試験官の先生に問いかける。先生はミナリーと魔力水晶に表示された数値を見てあんぐりと口を開けている女の子を見比べて言い淀む。
「え、あ、しかし、一度失格にした受験生を合格にするのは……」
「この中で最も多い魔力量を持っているのに、不合格なんですか?」
ミナリーの鋭い指摘に、試験官の先生は言葉を詰まらせた。判定を覆すのが難しいのはわかるけど、魔力量99000という数字は他の受験生を圧倒している。これで王立魔法学園に入れないなんて、あまりにもあの女の子が可哀想だ。
「…………合格で、いいでしょう」
それは試験官の先生も思ったのかもしれない。やがて苦虫を噛み潰すような表情で、試験官の先生は判定を覆した。それを聞いた女の子は「ふへ?」と間の抜けた声を出す。
「合格だそうですよ。よかったですね」
「え、あの、わたしが……?」
「そうです。他に誰が居るんですか」
「あ、ああありがとうございますっ! あなたのアドバイスのおかげですっ! 本当にありがとうございますっ!」
「いいえ。それでは私はこれで」
ミナリーは女の子に深々と頭を下げられながらこっちに戻って来た。ミナリーはあの女の子に何を吹き込んだんだろう……?
「あの魔力水晶の欠陥がわかりました」
「欠陥?」
「あれ、触れた人の魔力総量を数値化してますが、下五桁までしか表示してないです」
「え、えぇぇ……?」
し、下五桁までしか表示していないってことは、つまり魔力量が100000を超えたら初めの数字が消えちゃうってこと!?
「そ、それってとんでもない欠陥…………って、そもそも魔力量が六桁を超える人なんて居るのかなぁ?」
よくよく考えれば近衛魔法師団の指揮官クラスで60000、大魔法王マグナ様の血を受け継ぐ直系のロザリィ様で90000に届かないくらい。100000を超える魔力量を持つ人なんて、そうそう居ないんじゃ?
「少なくとも受験者の中に三人は居ます」
「そ、それって……」
「私と師匠とさっきの人です」
道理でミナリーの魔力量が少なく感じたわけだ。一番上の桁が表示されていなかったんだとしたら、あの数値にも納得がいく。
……でもわたしの魔力量が100000越えって、それはさすがにあり得ないと思うけどなぁ。
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