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真っ向から

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「あの爆弾人間、生きているのか?...」

 自身の所有する生物探知能力を働かせ、付近に人間のいることを察知したのである。

 また何かに気付き後ろを振り向カラハグ。

「瞬間移動の人間の仕業か......」

 振り向いた視界の先には、倒れていたはずの飛鳥井の姿が消えて無くなっていたのだった。

「危機一髪だったな柴門」

「ああ、本気で死んだと思ったぜ。サンキューな飛鳥井。助かった」

 二人はカラハグから十数軒離れた家屋の屋根上に座っていた。

 飛鳥井が意識気を取り戻したタイミングは、柴門がカラス王をハゲ呼ばわりした時であり、まだ十分に身体を動かせる状態では無かったのだが、倒れた状態から無理を承知で瞬間移動し、命の危機が迫った柴門の救出に成功していたのである。

「お前は気絶して見てなかったろうけど、あの野郎はさらに強力になっちまったぜ。おまけに仲間も奴にやられて生死不明のままだ。俺ももう爆弾を作り出す余力がねぇ。飛鳥井、どうするよ?」

 座っていた飛鳥井が仰向けに寝転がり、雨が降りそうで降らなかった曇り空を眺めながら言う。

「......せめて。せめて匡が目覚めてくれれば一発逆転の策があるにはあるんだが...さて、どうしたものかな...」

 流石の飛鳥井も、疲労感が顔に滲み出ていた。
 こうなる前からカラハグの強さが底知れぬことは理解していたが、柴門からさらにその上をいく強者にまでなってしまった話を聞き、全く気落ちしないと言えば嘘になってしまうだろう...

 だがしかし、そんな二人が会話を交わしている間に、飛鳥井の一発逆転の鍵である当人は既に動き出していた。

 こう言ってはアレだけれど、この物語の主人公はメッキリ影が薄くなってしまっている。

 飛鳥井や柴門、チャラの派手な活躍に隠れつつあった影薄の主人公、世界が崩壊しなければ青春真っ只中を楽しめていたかもしれない元高校生の阿笠匡(あがさたすく)。

 彼は今、死の窮地まで追い込まれた身体もすっかり回復し、カラハグの前に堂々と元気な姿を現していた。

「カカッ。ひ弱な人間が性懲りも無く我の前に再び姿を現そうとはな。貴様の仲間は誰一人ここにはおらぬぞ。真に愚かな人間よ。一人で何ができるというのだ?」

 匡は闘志剥き出しといった表情からは程遠い、就寝前のように穏やかな顔をしている。
 彼がこのような顔をしていられるのは、恐らく相当な覚悟を決めてこの場にいるからなのだろうが、果たしてその覚悟は生と死のどちら側だっただろうか...

「お前をこの世から抹殺する」

 匡は大声で叫ばず、短く静かにそう告げた。
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