刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

文字の大きさ
上 下
99 / 113

ノ99 霊蟲(れいちゅう)

しおりを挟む
 落ち着きを取り戻した彼女は横に首を回し、隣で寝ていた筈の城太郎の姿が消えていることに気づき。

「あら?廁(かわや)にでも行ったのかしら...」

 部屋を見回すが城太郎の姿は無い。
 
 暫く経っても現れないものだから、真如は心配になり立ち上がろうとしたところへ。

「おっと、もしかして起こしてしまったかい?」

 暗闇から浮き出たように城太郎が姿を現し、真如は声こそ出さなかったものの少しばかり驚き心臓が高鳴った。

「...いえいえ、とても恐ろしい夢を見たものだから起きてしまったの...」

 真如がそう返すと、城太郎の口角がついぞ上がり不敵に笑ったように見えたのだけれど、部屋の中が暗いのと悪夢の余韻の所為だろうと思い、彼女はこれといって深く考えようとはしなかった。

「そうかい、可哀想に、それは災難だったねぇ。俺も急に目が覚めてさっき廁へ行って用を済ませたところだよ。さて、夜はまだ長い、仕切り直して気持ち良く寝ようじゃないか」

「...城太郎がそばを離れずに居てくれれば安心して寝れると思うわ...」

「ハハ、もう廁の用も済んだし大丈夫。さぁ横におなり」

「...はい...」

 愛する男の「大丈夫」という言葉に安心感を持った彼女は横になり、そっと目を閉じると暫くして深い眠りについたのだった...

 城太郎が隣に居ることで安心を得て眠る真如の寝顔は穏やかなものである。

 今更かも知れないけれど、二人の居るこの部屋は灯り一つ点けず、戸の隙間から溢れる月の明かりが無ければ殆ど何も見えぬほど暗い。
 外からは、人間界でいうところの「鈴虫」と同種であろう美しい虫の鳴き声が微かに響いてはいるものの、死んだように眠る真如の寝息が聴こえるほど静かなものであった。

 だが部屋の中へ僅かに入り込む月明かりが朧げに彼女の寝顔を照らした時、何かの黒い影が月明かりを遮る。

 影の正体。彼女と月明かりの間に割り込んでいたのは、隣で一緒に寝ていたと思われた城太郎が、彼女の横で立っていた為に出来たものであった。

「...父上より授かりしこの霊蟲(れいちゅう)。早速役立たせてもらうとしよう...」

 真如の寝顔を見つめる美しい青年の口元が嫌な角度で曲げ、彼女に聴こえぬ程度の声でボソッと独り言を呟いた。

 羅賦麻が仙人界に訪れ、城太郎と別れる際に密かに渡していた「霊蟲」とは、人間でいうところの幽霊に当たり、謂わば虫の魂魄が形成するあの世の蟲(むし)である。

 実はこの蟲、仙力や魔力を持つもので有れば育成することが可能で、育成者の意思によって様々な形に変化し、強力な能力でも植え付けられるという摩訶不思議で特殊な蟲であった...
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...