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ノ57 千載一遇

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 たったそれだけで至極御満悦となった喜怒哀楽の分かりやすい仙女が問う。

「ところで貴方は何で死のうとしてたのかなぁ?」

 命を救った者の特権、などとは産毛ほども関係なく、ずけずけと人の闇に遠慮なく踏み込む。

「...........」

 問われた伊乃が俯いたまま沈黙する。  
 彼女の反応は全くもって当然であろう、ついさっきまで己の人生の幕を自ら閉じようとしていたのだから...

「あらぁ、そう、残念ねぇ...でもでもでも~、貴方のたまたま拾ったその命、まさか無駄に捨てたりしないわよねぇ?」

「.......今日は」

 己の生きる意味と目的を失い、自暴自棄な精神状態の伊乃はボソッとそれだけで呟いた。

 仙女の雲峡は普段、他人のことなど心配しないし力になるような者ではない。
 だが今日の彼女は何故か一味も違った。
 いつもであればとっくに場を立ち去っていても不思議でない彼女が腕組みをし、普段は考えごとをすることもないのに暫く一考し...

「...う~ん、へ~、そっかぁ。んじゃぁさ~、貴方、仙人になってみない?」

「...仙人?」

 雲峡の余りにも突飛な提案に、伊乃は俯いていた顔を上げ思わず聞き返した。

「そう、仙人界と呼ばれる世界にいる超長寿な命と特別な力を併せ持つ仙人。我のように自由奔放に楽しく生きていけるかもしれないわよぉ♪」

「..............つまり、人間では無くなって、新しい人生をやり直せるってこと?」

 雲峡の言葉に伊乃の顔が若干の生気を帯びる。
 それを見逃さなかった雲峡が首をコクンコクンと縦に振り頷いた。

「そうそう♪人間ではなくなり我らと同じ高尚な仙人と成れば、きっと多分今よりマシな人生を送れる筈よぉ♪た~だ~し~、人間が仙人に覚醒するためには想像を絶する試練を乗り越えなくちゃならないけどねん♪でもでも滅多に訪れないこの機会、是非とも挑戦してみてはどうかなぁ?」

 仙人は滅多なことでは人間が仙人へと覚醒する話しなど持ち出さない。試練が厳しく命懸けであることもそうだが、根本的に人間の中で仙人になれる資質を備えている者が極めて稀であり、一生のうちで出会うことすら叶わないというのが現実である。

 そもそも此度において彼女達の出会いを生んだのは、気紛れな雲峡が呑気にも仙葉に乗って空の散歩を嗜んでいたところ、仙骨と仙血を持つ伊乃が醸し出す死の気配が漂うのを感じとり、本能的に興味を惹かれたのが発端であった。

 というわけで、とんと望んではいなかったけれど、雲峡との軌跡的な出会いを果たした伊乃の答えは...
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