上 下
49 / 113

ノ49 光る眼

しおりを挟む
 二人が暗黙の了解のもと押し黙ったまま会話もせず、森の暗闇に目を向け狼を警戒していると...

「来た...」

 狼の襲来に伊乃が先に気付いた。

 木と木のあいだの暗闇に、焚き火の反射によって光を帯びた狼の鋭い眼が浮かんでいる。
 それが一つ、また一つと瞬く間に増えていく...

「十はいやがるな...」

 男は肝が据わっているのか冷静に数を数え、暗闇に浮かんだ光る眼に向けて弓を構える。

 伊乃も男にならい足元の石を拾い上げいつでも投石できる体勢を取った。

 すると複数の光る眼が徐々に二人の方へ近づき、十数匹の狼達の姿がはっきりと分かるまでになった。

「グゥルルルルル....」

 空腹の狼達が獲物を前にし涎を垂らして喉を鳴らす。
 十数匹の狼に対して伊乃はたったの二人。もし、狼の群れが数にものをいわせて襲い掛かって来れば、捌ききれずに噛みつかれるは必至。

 どう見積もっても圧倒的に不利な状況、伊乃と男がどうすべきか個々に思案する最中、先頭の狼が二人に向かって駆け出しニ匹の狼がそれに続き跳躍して襲いくる!

「ていぃっ!!」

 男が矢を放つより早く伊乃が石を投げつけた!

「バゴォォッ!!!」

「ギャフッ!!??」

 弾丸の如き速度で飛ぶ石が先頭の狼の額を砕いてぶち抜いた!!
 だが後続の狼二匹が怯まず二人へ飛びかかる!

「ザシュッ!!」

「ギャン!?」

 片方の狼の眼に男の矢が見事命中した!が、残るもう一匹が伊乃の目前まで接近する!

「バッキィッ!!」

「ギャッ!!??」

 狼の牙が伊乃の顔に到達しようかという寸前、彼女は一投したあと即座に拾い上げていた大きな石で豪快に狼の頭をカチ割った!!

 二人が三匹の狼達に当てた攻撃は全て致命傷となり、地べたにはその死骸が無惨に転がる。

 三匹を倒したとはいえ残る狼の数はまだ十匹以上。
 伊乃と男は油断せず、各々が武器となる石と矢を再び急ぎ構えた。

 だがこの行動は杞憂に終わる。

 何故なら、残りの狼達は人間に一瞬でやられてしまった仲間の無惨な姿を見て、既に戦意を喪失していたのである。

 一匹がゆるりと踵を返し、正に尻尾を巻いて逃げ出すと、他の狼達もそれに続いてあっという間に消え去った。

 これが人間であったならば残りの総戦力でもって攻めて来たのであろうが、徒党を組んで獲物を狩る狼とはいえ、流石にそこまでの知恵は無かったのであろう。
 
 狼の群れが予想外に早く退散するのを見た二人がホッと胸を撫で下ろし、命を賭した緊張が解けて薪木の上に腰を下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...