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ノ37 亜孔雀(あくじゃ)
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青々としている空から、それもかなりの高度から舞い降りるでもなく、あたかも隕石の如く堕ちて来た者の姿は、側から見れば人間の形と相違なかった。
しかし誰もがひと目見れば気付くであろう決定的で奇怪とも云える違いがあった。この者のそれは肌と云っても良いのかは分からぬが、真っ黒な地肌で構成された顔は怪異の「のっぺらぼう」を彷彿させるような異形をしており、頭には一本も見当たらない髪の毛の代わりに二本の金色の角が生え、瞼と口を開けば赤く不気味な光を発していた。
そしてさらに仙花達の目を惹いたのは、身に纏う、この時代には珍しい西洋風のマントであった。
「お、お前が、なぜ、こんな場所へ?」
身体だけでなく、声まで震わせ怯えるように喋る真如。
彼女の口振りからして、突如として現れた者が彼女にとっては未知で無いことを指し示していた。
奇怪な者が不気味な目を光らせ悪魔の如き口を開き、この世のものとは思えない笑い声を出す。
「グァグァグァグァ!まさかこんなところで会えるとは思ってもいなかったぞ、聖天座真如よ。歳をとった所為か顔が皺くちゃゆえ気付かんかったわ。グァグァグァグァ!過去の貴様は息を呑むほどに美しかったが哀れなことよ、今となっては見る影もないな。貴様が仙人界を追放されてかれこれ五十年くらいは経つのかな?」
「...あぁ、それくらいじゃろうて、儂は質問に答えてやったぞい。お前も儂の問いに答えろ亜孔雀(あくじゃ)」
「グァグァグァグァ!相変わらず強気な女だな!あの頃を思い出して惚れ直してしまいそうだぞ。グァグァグァグァ!」
耳障りな亜孔雀の笑い声が辺りに響き、いつでも刀を引き抜ける状態の蓮左衛門が無駄に驚く。
「な、なんと!?真如様は昔は美人だったというでござるか!?」
「蓮さんお黙り!あいつの桁外れな妖気からしてとんでもない奴だってことは鈍いあんたでも分かるだろ。真如様が会話している間に奴を出来る限り分析するんだよ」
亜孔雀を見た瞬間にゾッとする想いをしたお銀に秒で叱られる始末の蓮左衛門であった。
そんな二人のやり取りなど全く耳に入らない真如が言う。
「気持ちの悪るくなる笑いと余計な話は不要じゃ。さっさと言え、なぜお前が此処に居ると訊いておるのじゃ」
「...貴様に答える義理は無いが、別段隠すほどのことでもあるまい。オレは諸用があってついさっき魔界を出たばかりでな、南西の地まで今日中に飛んで行かねばならんのよ。それで真っ直ぐ飛んで行くつもりだったが、何やら美味そうな匂いが鼻をついて此処へやって来たわけだ」
しかし誰もがひと目見れば気付くであろう決定的で奇怪とも云える違いがあった。この者のそれは肌と云っても良いのかは分からぬが、真っ黒な地肌で構成された顔は怪異の「のっぺらぼう」を彷彿させるような異形をしており、頭には一本も見当たらない髪の毛の代わりに二本の金色の角が生え、瞼と口を開けば赤く不気味な光を発していた。
そしてさらに仙花達の目を惹いたのは、身に纏う、この時代には珍しい西洋風のマントであった。
「お、お前が、なぜ、こんな場所へ?」
身体だけでなく、声まで震わせ怯えるように喋る真如。
彼女の口振りからして、突如として現れた者が彼女にとっては未知で無いことを指し示していた。
奇怪な者が不気味な目を光らせ悪魔の如き口を開き、この世のものとは思えない笑い声を出す。
「グァグァグァグァ!まさかこんなところで会えるとは思ってもいなかったぞ、聖天座真如よ。歳をとった所為か顔が皺くちゃゆえ気付かんかったわ。グァグァグァグァ!過去の貴様は息を呑むほどに美しかったが哀れなことよ、今となっては見る影もないな。貴様が仙人界を追放されてかれこれ五十年くらいは経つのかな?」
「...あぁ、それくらいじゃろうて、儂は質問に答えてやったぞい。お前も儂の問いに答えろ亜孔雀(あくじゃ)」
「グァグァグァグァ!相変わらず強気な女だな!あの頃を思い出して惚れ直してしまいそうだぞ。グァグァグァグァ!」
耳障りな亜孔雀の笑い声が辺りに響き、いつでも刀を引き抜ける状態の蓮左衛門が無駄に驚く。
「な、なんと!?真如様は昔は美人だったというでござるか!?」
「蓮さんお黙り!あいつの桁外れな妖気からしてとんでもない奴だってことは鈍いあんたでも分かるだろ。真如様が会話している間に奴を出来る限り分析するんだよ」
亜孔雀を見た瞬間にゾッとする想いをしたお銀に秒で叱られる始末の蓮左衛門であった。
そんな二人のやり取りなど全く耳に入らない真如が言う。
「気持ちの悪るくなる笑いと余計な話は不要じゃ。さっさと言え、なぜお前が此処に居ると訊いておるのじゃ」
「...貴様に答える義理は無いが、別段隠すほどのことでもあるまい。オレは諸用があってついさっき魔界を出たばかりでな、南西の地まで今日中に飛んで行かねばならんのよ。それで真っ直ぐ飛んで行くつもりだったが、何やら美味そうな匂いが鼻をついて此処へやって来たわけだ」
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