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ノ32 悲壮物語

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「う~む、そうであったか、すまぬ...だが承知した。もう余計な口は挟まぬゆえ続けてくれ」

 聖天座真如の言うことももっともだと判断した仙花は素直に謝り、欲しい情報に辿り着くまでは我慢しようと話の続きを促した。

「...儂はのう。十八という若さで田舎の農家のに嫁いだものじゃった。質素な食事ばかりの貧しい暮らしじゃったが、優しい夫が側におるだけで、幾ら仕事や家事に追われようとも儂の心は癒され幸せな気分になっておった...」

 仙花が不意に、懐かしそうに語る老婆の方へ目を向けると、彼女の横顔が二十代の頃に若返ったような錯覚を起こし、己の眼は正常であるか?と首を傾げ、手の甲で瞼をゴシゴシと擦った。

 そんな仙花のことなど露知らず、聖天座真如は語り続ける。

「じゃがのう。死ぬまで続くかと想っておった幸せはぁ、あぁ、儚きことかな、三十路を迎える前に悲しくも途絶えてしまったんじゃよ...」

 当時の悲しき記憶が蘇り、普段よりやや早めだった口調が噛み締めるように語っているため漸進的になる。

 仙花達は昨夜も、悲しき幽霊の物語を聞いたばかりであったけれど、聖天座真如の口調と話しのくだりからして、またもや悲壮感漂う話だなと思いつつも興味深く聞き入っていた。

「不味い、不味いのう...」

「どうした真如様。何が不味いというのじゃ?」

「昔のことを思い出したら悲しくなって来たわい...」

「...そこは端折って貰っても構わぬよ。真如様の気持ちを沈めさせるために訊いたのではないからのう」

 仙花はそう言いながらも、聖天座真如のことだからきっと話を続けるのであろうと思っていたのだが...

「そうかいえぇ、ならば、儂と家族が別離することとなった部分は端折らせてもらとするわい」

「「「「なにーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」この展開で喋らぬとは何事か!と、雪舟丸以外の四人が心の中で叫んだものである。もちろん雪舟丸が皆と違って無関心だったというわけではない。ただ、串団子を食べて腹を満たした彼は、立ったまま寝ていたからに外ならなかった。

「んでなぁ、儂は夫と子を失って自暴自棄になってのう。生きる意欲を完全に失っておったというわけじゃ...」

 昨夜の幽霊の話しに似ていると四人は思ったけれど、肝心なところを端折られたため何とも言えぬ歯痒さが残った。

「そんな折、儂の目の前に突如として現れ、少しばかり強引だったが、仙人になるよう勧めてくれた仙女がおってのう...」
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