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ノ30 唖然

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「ほ、本当にいいのかえぇ?天界から堕ちた仙人の物語なぞ滅多に聴けるものではないぞい」

「うむ、ちとしつこいのう。其方の堕ちた話しは『なし』の方向で構わんよ。それより何より仙女になるにはどうすれば良いのか教えてくれぬか、真如様よ」

 仙花にしては真に珍しく、呼び名に『様』を付けたあたりは少なからず敬意を表したつもりだったけれど、聖天座真如は「自伝」を語れないとあって凹んでいるように見えた。

 と、そこへ、白い大皿に沢山の串団子を乗せて団子屋の娘が現れる。

「お待たせ致しました~!いっぺんに百は無理でしたので取り敢えず三十本になります~」

 皿に盛られた食欲を唆る串団子の見た目と香りに、聖天座真如が「ゴクリ」と唾を飲み込む。

「わしゃぁはらぺこじゃぁ。話しはこの皿の串団子を平らげてからでどうかのう?...でないと仙女になる方法も上手く思い出せぬかも知れん...」

 聖天座真如が三十本という数の串団子をどれほどの時間で食べ切れるのか分からない。どうしようかと考えた仙花であったが良い考えが浮かばず、助けを求めてお銀に視線を送ったけれど、彼女もお手上げといった身振りをして答えるに留まった。

「分かった。だが先にも云うたように時間がない。できるだけ早く食べてくれぬか?」

 すると聖天座真如がニンマリと喜びの表情を見せ...右手で五本の串団子をがっつりと掴み、続けて左手で同じく五本の串団子を掴んだ。

 いくらなんでもそれは持ちすぎ!と、仙花を筆頭に誰もがそう思った矢先。

 堕仙女の聖天座真如は大口を開けるや否や、あろうことか右手の五本の串団子をまとめて口に入れ、休まず左手の五本の串団子まで放り込んだのだのだった。

 一本の串に大きめの団子が三個刺さっているわけだから、彼女の口の中には今や合計で30個の団子が入っていることになる。

 頬を大きく膨らませてモグモグモグとする様は、まるでどんぐりを口いっぱいに入れた「栗鼠」の姿にそっくりであった。

 聖天座真如はここから噛んだ団子を少しずつ呑み込むのかと思いきや、驚くべきことに口に含んでいた団子を「ゴックン!」と一気に呑み込んでこんでしまったのである。

 それを眺めていた仙花一味の全員が口を開けて唖然とする中、元仙女と知れていても老婆であることに相違ない彼女は、また同じ動きを繰り返し、あっという間に三十本の串団子を平らげてしまった。

「ふぅ~、少しは腹の減りがおさまったわいぃ。んん、喉が渇いたのう...すまんが茶を所望するぞい!」

 店の中にいる団子屋の娘に聴こえるように、声を張り上げて茶を要求する大食いの堕仙女であった。
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