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ノ25 串団子

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「うぉぉぉぉーーーっ!!!」

「なっ!?」

 仙花は抜き去ったお銀をあっという間に抜き去り突き放してしまった。

 一ヵ月ほど前、橋の上で芥藻屑の悪党に襲われる夫婦を助けようと、疾風の如く駆ける仙花を追いかける場面があり、脚力に自信のあるくノ一のお銀が追いかけるも彼女には届かなかった。
 今回もまたその時と同じく仙花の脚力に屈服することとなったお銀であったが、特段悔しがる様子も無く、己の主の脚力に改めて感嘆し、嬉しくすら思って頬笑みを浮かべた次第である。

 結局のところ、峠の団子屋に一番乗りしたのはお銀を凌ぐほどの脚力を見せつけた仙花であった。

 次点はお銀、蓮左衛門と続き、次は当然九兵衛かと思いきや、眠りながらもひょうひょうと坂を上った雪舟が先に辿り着く...

 「ヒーヒー」苦しそうにしてようやく坂を上りきった体力不足の九兵衛。いやいや、彼を貶めるような言葉は相応しく無いのかも知れない。そもそも化け物じみた体力を持つ他の四人と比べること自体が間違いなのだから...

 汗だくとなった彼が小さな木造の団子屋に目をむけると、紅く華やかな布の掛けられた長椅子に座り、串団子を美味しそうに頬張る仙花、お銀、蓮左衛門の姿があった。
 眠っていた雪舟丸はというと、三人から少しは離れた場所で、団子の匂いを嗅ぎつけちゃっかりと目を覚まし、お茶の入った湯飲みを片手にやはり美味そうに食べていた。

 じ~っと眺めていた九兵衛が「ゴクリ」と唾を呑み込み嘆願する。

「あ、あっしもお団子!お団子を食べたいでやんすよ~」

「ハッハッハッ、心配するでない九兵衛。ちゃ~んと其方の分まで頼んでおるわ」

 仙花が笑って知らせると、紺色の生地に白い文字で「お団子」と書かれたのれんを捲って、店の中から笑顔の可愛い若娘が団子と湯呑みの乗ったお盆を抱えて運んで来た。

「お待たせ致しました~。こちらがご注意の串団子にございます~」
 
 昔から庶民の甘味として愛されて来た「お団子」は、鎌倉や室町時代から存在し、特に「串団子」ときたら江戸時代に一大旋風を巻き起こすほど流行したらしい。

 腹を空かせた九兵衛の目の前は、皿に乗った「みたらし」、「こし餡」、「きな粉」、「醤油」、「よもぎ」といったいった五種類の串団子が各一本ずつ並べられていた。

 それを見た九兵衛がまたもや「ゴクリ」と唾を呑み込む。

「うひゃ~!これは堪らないでやんすよ~!しかも久しく見ていない可愛い娘さんが運んで来てくれるなんて最高でやんす!」
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