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ノ20 止まらぬ九兵衛

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 仙花一味の中でも間違いなく戦闘に不向きな医師の九兵衛。

 体力的なことは勿論だが、悪く云えば「うっかり呑気者」、良く云えば穏やかにして優しい性格ゆえに不向きと云えよう。

 その戦闘に不向きな者が数多いる怪異の中でも危険度の高い闇雲に向かってまっしぐら。
 一ヶ月以上共に旅をしてきた蓮左衛門からすれば、彼の行動は「狂気の沙汰」以外のなにものでもない。

「うおぉい!!九兵衛!!止まれ!!止まるんだ!!死ぬ気でござるかーーーっ!!」

 当然ながら大声を上げて止めようとする蓮左衛門!

 だが、正常な状態であれば絶対に届いているであろう彼の声は、お雛と家族の仇を討つという一心で我を忘てしまった九兵衛には届かなかった。

 勢いに乗った九兵衛が、鼻息も荒く闇雲の浮かんだ場所まで辿り着いてしまう。

「化け物め!宙に浮かんで無いで降りてくるでやんすよ!」

 彼の頭には勝算の思慮など皆無であった。駄洒落のようだけれど、正に彼は「闇雲」に対し「やみくも」に勝負を挑んだわけであり、実のところ、普段は「間抜け」がついてしまうほど温和な九兵衛が、お雛の話しを聞き我を忘れるまで熱くなってしまった理由は幼き頃の記憶に関係しているのだが...
 とりあえず、とは適当過ぎるかも知れないがそれはさておき...

「あちゃ~、どうするどうする!?どうすれば良いでござるか拙者は~!」

 真土間との困惑していた蓮左衛門が九兵衛の突飛な行動に混乱へと陥っていた。
 しかし彼は断じて優柔不断な男ではない。こういう非常事態の際に彼が取る行動はたった一つ。

「待ってろ!否、待たずとも今行くでござる!!」

 仲間の危機に逃げ出すような男ではなかった。例え勝算がほとんど零であったとしても...

 不気味に宙に浮く闇雲には弧浪や真土間のように思考する能力は備わっておらず、微生物の如く本能のままに動く怪異である。

 お雛によれば、闇雲は「恐怖心を察知する」とのことであったが、現状において九兵衛に恐怖心があったかどうかは定かではないが、宙に浮く闇雲が九兵衛に向かって降りてきた。

 それを迎えうとうと九兵衛が棒っきれを竹刀に見立てて迎え構える。

「よ、よ~し。かかって来い!」

 降りて来る闇雲を前にした九兵衛が一瞬我に返り動揺の色が見えた。

「くっ!間に合わん!」

 その様子を駆けながら見ていた蓮左衛門の口から諦めの言葉が漏れた。

「えいっ!」

「スカッ!」

「!?」

 手の届く距離まで接近した闇雲へ棒っきれの一撃を九兵衛が放つもまるで手応えなく、棒っきれはただ闇雲を通り過ぎただけの形となった。
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