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ノ13 幽霊という怪異

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 その不可思議な存在ゆえ、時には怪異と同一視されることのある「幽霊」。
 幽霊というものは江戸時代以前から語り継がれ、この時代には「雨月物語(うげつものがたり)」や、「牡丹燈籠(ぼたんどうろう)」、「四谷怪談」などが怪談噺(かいだんばなし)として大いに流行したという。

 人とかけ離れた姿をしている妖怪系の怪異よりも、同属が死して化けた人の幽霊の方が不思議と恐怖心を煽るのかも知れない...

 蓮左衛門と九兵衛の前に青白い姿で宙に浮いて見える女性の幽霊、彼女はたじろぐ二人を生気を感じさせない顔で眺めている。

 と、面と向かって幽霊と目を合わせられない蓮左衛門があることに気づく。

「ひょひょっとして...あんたぁ、あの骸骨の?...」

 勇気を振り絞り彼女に声をかけた。

 すると幽霊がコクリと頷く...

 蓮左衛門と幽霊の間で会話が成立したことを受け、未だ怖さで震えの止まらない九兵衛が問う。

「はは、白骨死体は三つだったでやんすが、ゆ、幽霊になったのはあんただけでやんすか?」
 
 女性の幽霊は先程と同じようにコクリと頷いた...けれど、今度はそれだけに留まらず...

「...あなた方にはわたくしの姿が見えているのですね」

 彼女の口から出た声は、生ある者の発するものとは明らかに異質であった。

 しかし、蓮左衛門と九兵衛は共にそんな違和感など全くどうでも良かったようで、普通に会話を交わせた安堵感の方が遥かに大きかったのか、強ばっていた表情が俄かに和らいだ。

「あんたの姿はしかとこの目に映っているでござるよ」

 蓮左衛門が応えると同時に九兵衛も相槌を打つ。

「つかぬことを伺いやすが、残りの二人はあんたの家族でやんすか?」

「...そうです。大切な...わたくしの命よりも大切な夫と娘でした...」

 幾ら血の繋がった家族といえども、己の命よりも大切などという言葉はなかなかどうして言えるものではない。だが彼女は心からそう言っているように二人は思えた。

「差し支えがなければ、でござるが...あんたと家族に何があったのか教えてはくれぬか?話せばあんたも成仏し、家族の元へ行けるやも知れぬでござるよ」

 蓮左衛門はさほど仏教への信仰が厚い訳ではないが、人が命を失った時、成仏出来ずこの世へ残ってしまい幽霊と化す道理に碌なことがないのは心得ている。

 悲惨な死に方をしたか怨恨か、それともこの世に何かしらの未練があるのか...いずれにしても彼女の身をとてつもない不幸が襲ったのは、訊かずとも分かることではあったけれど...
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