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ノ7 妖狐の弧浪(ようこのころう)

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「いえ、力はみなぎっているくらいでございます。ただ、一つ問題がございまして...先の雲峡も厄介者でしたけれど、手前が契約を交わした妖狐もまた厄介な者ゆえ、時としてすんなりと事が運ばぬこともございます。少しばかりお待ちくださいませ...」

 微笑を浮かべているお銀の胸の奥底にはえもいわれぬ怒りの感情があった。

 お銀が己の内に潜む妖狐の弧浪に向けて呟く。

「弧浪...言うことが聞けぬのであれば、当分のあいだ封印術で強制的に妖力を抜き取るが、それで良いのだな」

 するとお銀の身体が光に包まれ、突如として目の前に狐の耳をした若い美青年が姿を現した。

 妖狐は怪異の一種ではあったけれど、姿かたちは他の怪異と比べオドロオドロしさは見受けられず、狐の耳と腰の下あたりから生えた尻尾以外は人とさほど変わりない。

 美しい顔をした妖狐の弧浪が口に手を当て欠伸する。

「はわわぁ...やだなぁお銀さん。そんなに怒ると美容に悪いよぉ。若さを保ちたければ顔なんかに皺を寄せちゃあダメダメ」

「っさいねぇ!あたしは美容に気を使うほど歳をとっておらぬ!戯言はやめて早く妖力を寄越せ!」

 今度は怒りの感情剥き出しの表情で怒り狂うお銀。無論、眉間の皺は深々と入りおでこには血管の筋が浮かび上がった。

「はいはいお待ちを~」

 すんなりと事が運ばないのは一目瞭然ではあったが、弧浪はぐだぐだ言いながらも言うことを聞く素振りを見せた。どうやらこの二人の力関係はお銀に軍配が上がっているようである。

 弧浪が地面に座禅を組んで座り、右の掌を面倒くさそうにお銀へ向ける。

「はい。愛を注ぎ込んじゃいますよ~」

「余計なことは言わんで良い!」

 九字法を使い集中力を高めたというのにイライラの収まらぬまま忍術の印を組むお銀。
 そこへ弧浪の禍々しい妖力が注入される。

「土遁の術!土砂浚渫(どしゃしゅんせつ)!」

「ドッゴォォォォォォォン!!!」

 忍術を発動させるや否や凄まじい爆音が上がり、地割れの奥底から火山が噴火したかのように土砂が噴き出す!!

「おおおっ!?」

 仙花を始め蓮左衛門、九兵衛の三人が呆気に取られた表情で見護る。

 三人が驚くのも無理わない。今まで何度となく目にして来たお銀の忍術。だが此度の忍術はかつてのものとは一味も二味も違い、これほどまでの威力は想像の域を遥かに超えていた。

「ドドドドドドドドドドドド!!!」

 豪快に噴き出した土砂が雲峡の破壊した道の大きな地割れをあっという間に埋めていく。
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