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第104話 すき焼き

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 目の前にある木製のテーブルの上には、火の点いたカセットコンロに蓋のしてある土鍋が置いてあった。

 季節は春であり、若干シーズンは過ぎているけれど、旅先で食す鍋はその存在だけで良い雰囲気を醸し出している。

「そうか、醤油のいい香りがしていたということは、これはたぶん『すき焼き』だな」

「だねぇ、香りがたまりせんなぁ♪」

 未桜が土鍋から漏れる蒸気を手で仰ぎ、よだれを垂らさんばかりに香りを楽しんでいる。

「おまちどぉさまぁ、はい、こちらが追加の井伊影村地産の牛肉とお野菜になります。お飲み物は何になさいますかぁ?」

 若女将(仮)が慣れた手つきで肉と野菜の乗った皿をテーブルに置く。

「あのぉ、生ビールってありますかぁ?♪」

 助手よ。言っちゃ悪いがそれは愚問というものだぞ。ここは人の多い町から遠く離れた辺境の小さな村の民宿だ、あっても缶ビールが関の山、生ビールをつくる機材なんて置いてあるわけがなかろう。

「あら♪あるわよぉ♪生2つでよろしいかしら?」

 あるんかーい!!!???

 もちろん僕は声には出さず、心の中で思いっきりツッコミを入れつつ「それで結構です」という意味の相槌を打った。

 ここで見せた若女将(仮)の綺麗な笑顔の裏には、微かに「してやったり感」があったような気がした...

 
 
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