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第59話 小雨
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台所の流し台とくれば普通は蛇口が付いているのが当たり前だが、この廃墟にはそのあって当たり前の蛇口が無い。
淀鴛さんの話しを聞いていなければ、僕は大いに違和感と疑問を抱いたことであろう。
廃墟に蛇口が無いのは水道が通っていないのが理由であり、普段の生活水は古くから存在する外の井戸から汲み取って使用していたのである。
確か淀鴛さんのお母さんは都会から嫁いで来た人物で、慣れない田舎暮らしの中、肝心のライフラインである生活水が井戸水ということでさぞや苦労していたことだろう...
流し台の左横にふと視線を移すと、そこには背の高い木製の食器棚が置かれていた。
食器棚の扉のガラスは恐らく外からの風の所為で割れていて、残っている食器はこれでもかというくらいに埃まみれとなり汚れている。
幾つかの食器は倒れて割れたりヒビが入っていたが、30年前まではきちんと整理されていた形跡が見て取れた。
「ねぇねぇ一輪」
「ぬぅっ!?なんだ未桜?...っと、その前に言っておかなければならないことがある。廃墟探索中は不意打ちで声をかけるのはやめてくれ。僕は断じてビビリでは無いが心臓に悪すぎる」
僕が食器棚を集中して眺めていたところへ未桜は足音を殺して近づき、背後から、しかも僕の耳に息が届くほどの至近距離で呼びかけたのである。
彼女の可笑しそうな表情からして悪意があったとしか思えない。
「了解了解。でもそろそろ裏庭に出たほうが良いかもだよ。もう雨がポツポツと降り出してるし」
そう言われて割れた窓ガラスから外へ目をやると、まだパラパラとではあったけれど確かに小雨が降り始めていた...
淀鴛さんの話しを聞いていなければ、僕は大いに違和感と疑問を抱いたことであろう。
廃墟に蛇口が無いのは水道が通っていないのが理由であり、普段の生活水は古くから存在する外の井戸から汲み取って使用していたのである。
確か淀鴛さんのお母さんは都会から嫁いで来た人物で、慣れない田舎暮らしの中、肝心のライフラインである生活水が井戸水ということでさぞや苦労していたことだろう...
流し台の左横にふと視線を移すと、そこには背の高い木製の食器棚が置かれていた。
食器棚の扉のガラスは恐らく外からの風の所為で割れていて、残っている食器はこれでもかというくらいに埃まみれとなり汚れている。
幾つかの食器は倒れて割れたりヒビが入っていたが、30年前まではきちんと整理されていた形跡が見て取れた。
「ねぇねぇ一輪」
「ぬぅっ!?なんだ未桜?...っと、その前に言っておかなければならないことがある。廃墟探索中は不意打ちで声をかけるのはやめてくれ。僕は断じてビビリでは無いが心臓に悪すぎる」
僕が食器棚を集中して眺めていたところへ未桜は足音を殺して近づき、背後から、しかも僕の耳に息が届くほどの至近距離で呼びかけたのである。
彼女の可笑しそうな表情からして悪意があったとしか思えない。
「了解了解。でもそろそろ裏庭に出たほうが良いかもだよ。もう雨がポツポツと降り出してるし」
そう言われて割れた窓ガラスから外へ目をやると、まだパラパラとではあったけれど確かに小雨が降り始めていた...
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