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第37話 裏庭

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 5歳の頃の俺がそのようなことに興味がある筈もなく、神社に訪れる人々に対しては、俺と父母との遊ぶ時間を奪う嫌な大人たちがまた来た、くらいにしか思っていなかったような気がする。

 来訪者あってこそ燈明神社の存続させることができ、淀鴛家のプライベートな生活も成り立っていたのだが、幼い俺の無知な思考なんぞ考えの至らないその程度のものだった。

 一生忘れることのできない運命のに日も、遠方遥々数人の人々が訪れ、いつもと変わらず神主の父と巫女である母が祈祷し、目的を果たした人々は安堵の表情を浮かべて燈明神社をあとにしていたと思われる。

 当時の幼くして頼りない記憶によれば、父と母が神社にてせかせかと働いているあいだの俺は、現代っ子のように家の中で過ごすことはほとんど無く、プラスチック製の黄色いスコップとバケツを手に、子供、否、大人でも十分に広いと感じる裏庭で、健気にも孤独に遊んでいたものだ。

 森に囲まれた地形である我が家の庭は、イメージとしては「となりのトト○」でお馴染みの草壁家の庭に近かっただろう。

 実際のところ、我が家にはガスや水道などの今やあって当たり前のライフラインが備わっておらず、水はご先祖さまが掘り当てた井戸水を使用し、火に関してはガス業者が車で通れるルートが無く、
専ら薪を焚べて火を起こし、調理や風呂などに利用されていた。

 不便にもガスと水道は無かったが、不思議なことに電気だけは通っていた。

 その事を覚えていた俺が成人に達して調べた結果、うちの母が淀鴛家に嫁いだ際に、若い母が不便な暮らしに嫌気がさして逃げてしまう可能性を危惧した井伊影村の村長や村民らが、資金や労力を提供して電気を通してくれたらしい。
 
 このエピソード一つだけ取ってみても、燈明神社と淀鴛家の人間が井伊影村にとって如何に重要だったかが伺い知れる...

 そう考えれば将来の燈明神社の後継として生まれた俺も、井伊影村の人々から大事にされていたかも知れない。

 まぁそんなことが幼い当時に有ったとしても、俺は恩義を感じるほど精神が発達していた訳でもないが...

 おっと、またもや話しが脱線しそうだな。
 何年も刑事という特殊でハードな仕事をしていれば、ゆっくりと幼少期の過去を思い出して語るような機会は早々あるものではない。
 だからと言っては何だが、出来ることなら寛容な心持ちで俺の話しを聞いて欲しいと願うばかりだ...

 話しを裏庭の場面まで戻そう。
 
 幼い俺にとって家の広い裏庭は、自然の素材から作り出すちょっとしたテーマパークであったとも云える。
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