上 下
89 / 93

黒い天使

しおりを挟む
 街の駅に着き電車から降りて、暗い夜道の中を自転車に乗って帰る。

 いつも通る河原の道に差し掛かると、昨日ラズに出逢った時のことを想いだした。

 「ニャーニャー」鳴きながら歩いて来たあの姿は黒いけど天使のようだったなぁ…わたしの天使に早く会いたい!
 ラズに会いたい気持ちが急激に溢れ出し、ペダルを漕ぐ足に力を加えスピードを上げた。

 家に着いて玄関に自転車を入れる。

「ただいま~!」

「「「お帰り~!」」」

 うちの家族はダイニングキッチンに全員揃っているようだ。

 靴を抜ぎ廊下に上がろうとすると…

「ニャァ、ニャァ、ニャァ」

 なんということでしょう!可愛い鳴き声を発しながら、心許ない歩き方の天使ちゃんが歩み寄って来るではありませんか!
 うわぁ~、見ているだけでとろけてしまいそう。
 手の届く距離まで来たラズ抱き上げて、その頬にわたしの頬をくっつけウリウリする。

「ただいま~ラズ♪元気にしてたぁ?」

「ニャァ」

 もう今夜はこのまま離したくない!

 という訳にもいかないので、のんびりしていた弟の真に一度預け、リュックを部屋に置いたあと夕飯を食べることにした。

 家族の三人は先に食べ終わっていて、母がテーブルを片付けながら話し掛けてくる。

「今日は帰りが遅かったわねぇ。仕事が終わらなかったの?」

 母の準備してくれた料理を食べながら質問に答えようとするけれど、河童のワッパさんに会って妙薬を貰ったという話しは絶対に出来ない。どうしようか…

「ん~…行ったことの無かったやしあか農園を先輩に見せて貰って、保管倉庫の人達の手伝いをしていたら遅くなっちゃった。ごねんねぇ」

 嘘をつくのは苦手だし、後ろめたい気持ちになるのも嫌だったので、本当のことをだいぶ端折って答えた。

「…ふ~ん、そうだったのね」

 感の鋭い母は、わたしの顔を見て何かに気付いたようだったけど、それ以上突っ込んで訊いて来なかった。

 ここは話題を変えちゃおう!

「お母さん、今日ラズに変わったこととか無かった?」

「そうねぇ…動物病院の人がこの子は頭が良いって褒めてくれたわよ」

 ほうほう、ラズ君は頭が良いのか。動物病院の人が言うなら間違いないでしょ。

「それと猫じゃらしを買って来てあるから、あとで遊んであげるといいわ」

「さすがお母さん!ありがとう!」

 よ~し、お風呂を早く済ませてたっぷり遊ぶぞ~!っん!?

 さっきまで椅子に座りラズを抱いていた弟の真が、カラフルな猫じゃらしを使ってラズと楽しそうに戯れている。

「何してるの真!わたしの楽しみを奪わないでよ~」

「いいじゃないかこれくらい。な!ラズ」

 まあ、家族がラズと遊んでくれるのは喜ばしいことでもあるし、良しとしておくかぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
四国から巨大ゾンビ軍団を追い払った鶴と誠。 でも今度は九州が大ピンチ!? いざや、火の国九州へ!  この物語、ますます日本を守ります!

扇屋あやかし活劇

桜こう
歴史・時代
江戸、本所深川。 奉公先を探していた少女すずめは、扇を商う扇屋へたどり着く。 そこで出会う、粗野で横柄な店の主人夢一と、少し不思議なふたりの娘、ましろとはちみつ。 すずめは女中として扇屋で暮らしはじめるが、それは摩訶不思議な扇──霊扇とあやかしを巡る大活劇のはじまりでもあった。 霊扇を描く絵師と、それを操る扇士たちの活躍と人情を描く、笑いと涙の大江戸物語。

嗅ぎ煙草

あるちゃいる
キャラ文芸
 俺は浮浪者である  名前は言いたく無い  昼間は寝ている事が多いのだが、最近見掛ける変な奴の話をしようと思う。  とある浮浪者の日常  ちょっとカテゴリーが分からないので、キャラ文芸にしてみる。きっとアルファポリスの担当者が上手いこと分けてくれるだろうと期待する。    

ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀
ファンタジー
36歳無職、元高校中退の引きこもりニートの俺は、ある日親父を名乗る男に強引に若返らされ、高校生として全寮制の学校へ入学する事になった。夜20時から始まり朝3時に終わる少し変わった学校。その正体は妖怪や人外の為の施設だった。俺は果たして2度目の高校生活を無事過ごすことが出来るのか。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭

響 蒼華
キャラ文芸
 始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。  当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。  ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。  しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。  人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。  鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...