春の季節は

「君」は今

　いつもより早めに家を出た。ゆっくり何も考え
ないで歩きたかったからだ。
　何も考えないようにしながら歩いていても、
やはり彼女のことを思い出してしまう。後悔して
しまう。もっと楽しませてあげたかった。もっと彼女と生きたかった。こんなことばかり考えて
しまう。僕自身、過ぎたことを後悔するのは好きではない。だって、考えたところで何も変わらないから。ただ、虚しいだけだから。だけど、彼女のことは、後悔せずにはいられなかった。

わかってる、わかってるんだ。考えるだけ虚しいだけだって。だけど、彼女が頭から離れない。
忘れようとしてる訳じゃない。彼女の分まで、
生きる。そう誓ったから。だけど、どうしても、
後悔ばかりが頭を埋め尽くす。そして、考える度に罪悪感に蝕まれる。なんで僕だけ生きている？
君はもう幸せを掴めないというのに、何故僕だけ
幸せな日々を謳歌している？彼女の分まで生きていても、彼女は生きていない。だったら、僕も
死んでしまえば、彼女と一緒に過ごしてあげられるんじゃないか？なんて考えてしまう。
　わかっている。こんな事考えたって、こんな事したって、彼女は喜ばない。僕が、彼女の分まで生きていくしかないんだ。そうするしかないんだけど....どうしようもなく、悲しい。押し殺して
いた感情が、溢れ出てくる。....慣れてたと思ったけど、慣れる訳ないよな。だって、こんなにも、
悲しいんだから.....
「ほんと、なんで君だけ死んでいったのかな。」
どうせなら、僕も一緒に死んであげたかった。
だけど、彼女に止められた。蒼くんはまだ生きられる。その命を、その炎を、燃え尽きる前に
消しちゃいけないよ。と言われた。
　彼女は自分より他人を気にする人だった。
自分がどんな状況でも、僕のことを気にしてくれていた。たとえ、癌であっても。
「なんで.....なんで君は.....」
聞こえてない。わかってる。でも、言わずには
いられなかった。
「そんなにも、優しいの.....？」
空を眺める。曇り空。今にも雨が降りそうだ。
だから、いいよね。
枯れたと思っていた涙は、溢れ出る。
君のせいで流した涙も、君には見えないよね.....？

　今日まで押し殺していた感情が、今になって
溢れてきた。多分、2人の親友と関わってきて
しまったからだろう。それで、感情を出し過ぎて
押し殺せなくなってしまったのだろう。でも、
悪い事だとは思わない。だって、また彼女の為に泣けたから。親友達と話せるから。だから、僕は
感情を押し殺すのはやめる事にした。そうじゃ
なきゃ、君は怒るでしょ？
これは、やっぱり白玖には言わない方がいいな。
あの子にまで僕の事情を持ち出すのは、流石に
気が引けるからな....だから、白玖の前だけでは
いつも通りでいよう。いつまでも、親友でいる
ために.....

「蒼.....泣いてるの.....？」

その時、一つの聞き慣れた声が響き渡った。