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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第362話 憤怒の暴風
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★エステア視点
「よくも、よくも、よくも――!!」
身体が熱い。まるで怒りで血が沸騰しているかのようだ。口から零れる声は、もう言葉としては機能していない。戦う相手に対し、呪わしいまでの憎しみが込み上げて、それが今の私を動かしている。
怒りでエーテルの消費が激しくなった私を嗅ぎつけて、翼持つ異形がこちらに群れを成して飛んでくる。
ついさっきまでこれらを撃ち落としてくれていたマリーとメルアの遠距離攻撃は、今は、もう――
脳裏を過る最悪の予感を振り払い、私は自分を戒めるように唇を噛み締めて、刀を振るった。
「伍ノ太刀――」
技の名を叫ぶ間すら惜しい。私は自らの後方に暴風を発生させ、研究棟からこちらに戻ってくるアークドラゴンに肉迫し、迎え撃った。
「キィェエエエエッ!」
甲高い耳障りな鳴き声を上げ、アークドラゴンが私に向けて爪を立ててくる。鬼気迫る攻撃に本能的な防御が働いたというわけではない。これは、私に対する嘲りだ。私を敵とはみなしていても、脅威とは感じていない。だが、それでいい。
「はぁああああっ!」
急降下してくるアークドラゴンに向けて、暴風を背に急接近した私は、擦れ違いざまに鋭い爪を刀で薙いだ。
「……っ!」
元々硬質である爪ならば、あるいは爪と皮膚の境ならばと考えたが、狙い通りにはいかない。私は体格差の煽りをまともに受けて、宙で木の葉のように翻弄された。
「あ……ぐっ、あああああっ!」
アークドラゴンの羽ばたきによる風と、自らが放つ暴風がせめぎ合い、大声を上げなければ息をすることさえままならない。空気を欲した身体が悲鳴を上げたかと思うと、目の前の景色が、漆黒に閉ざされた。
『人間と人間モドキが、我々に勝てると思うな――』
不快と嫌悪を詰め込んだような声は、私の意識を再び持ち上げるには充分だった。
「勝てる! 私たちは負けない!」
叫び、意図的に風魔法を解いて自らの身体を急降下させる。生温かく肌にまとわりつくような風に顔を歪めながら、私は改めて自らの上空での立ち位置を定めた。
地上のリーフたちよりも少し離れた場所、アークドラゴンとの戦闘の余波を与えないギリギリの場所へ。完全に離れずにいられるのは私の甘えだ。
――ホム、リーフをお願い。
私の魔力消費は思ったよりも激しい。怒りに支配され過ぎているとわかっているのに、もう自分では制御出来ない。でも、戦いに水を差したあの漆黒に閉ざされた一瞬で、ほんの少しだけ冷静になれた。
「無事で居て……」
研究棟の方を一瞥するが、幾つもの棟が崩落している。私がアークドラゴンを引きつけていられなかったから、最悪の事態が起きてしまった。
もっと最悪なのは、同じことがリーフたちに起こってしまうこと。
「一か八か……」
魔力が続くうちに、決着を付けなければならないのは明らかだ。
「参ノ太刀――飛燕!」
私は柄を握り締め、斬撃と共に風の刃を放つ。アークドラゴンが牽制に反応して首を持ち上げるのを見逃さず、背後に壱ノ太刀の応用で暴風を発生させ、首に狙いを定めた。
「弐ノ太刀、旋風車が崩し――裂空!」
急速に上昇してアークドラゴンとの距離を詰めながら、通常の横軸の回転ではなく縦回転の斬撃を繰り出す。
「ギィーー!!」
ドラゴンの首を狙った一撃は確かにダメージを与え、紫色の出血が見られた。だが、傷は浅い。空中では踏ん張りが効かず想定の威力が出なかった。
振り抜いた刀を戻す間もなく、アークドラゴンの尻尾が私の身体を薙ぐ。
「あ、ぐっ!」
激しい衝撃に息が詰まる。意識が一瞬途切れ、宙に自らを留めていた風魔法が効力を失った。墜落を阻止しようと歯を食いしばった私よりも早く、アークドラゴンが大きく口を開いた。
「あああああっ!」
考えている暇はない。風魔法を刀に施し、防御の姿勢を取る。間一髪、アークドラゴンの黒炎の第一波を防ぐことは出来たが、それは致命傷を免れたというだけで、凄まじい熱波が髪を焦がし、じりじりと身体を焼くのに耐える以外に術はない。
暴風を起こして炎と相殺し、落下によって逃れようにも地面はもうすぐそこに迫っている。
「……ぅ、あっああっ!」
肌を突き刺すような痛みに思わず悲鳴を上げた次の瞬間、視界を雷鳴瞬動のような閃光が白く覆った。
「ギィェエェエエエ!!!」
悲鳴を上げながら黒炎を吐き出していた口を天に向け、アークドラゴンが悲鳴を上げている。その首には亀裂が入り、紫の血が噴き出している。
――ホム!!
心の中で私は叫んでいた。こんなことが出来るのは、彼女しかいない。
「エステア!」
地面に激突する衝撃を覚悟した私を、急降下したホムが素早く抱きかかえる。
「風魔法!」
二人分の体重を補うべく風魔法を駆使したホムが、大闘技場を離れて宙を駆けていく。その細いながらも頼もしい腕の中で、私はアークドラゴンを見失うまいと首を伸ばした。
案の定、怒り狂ったアークドラゴンが激しく翼をはためかせながら迫って来ている。
「アークドラゴンが!」
「狙い通りです」
私の悲鳴のような声にホムは冷静に応えると、歓楽街の入り口にある高い建物の屋根に緩やかに着地した。
「よくも、よくも、よくも――!!」
身体が熱い。まるで怒りで血が沸騰しているかのようだ。口から零れる声は、もう言葉としては機能していない。戦う相手に対し、呪わしいまでの憎しみが込み上げて、それが今の私を動かしている。
怒りでエーテルの消費が激しくなった私を嗅ぎつけて、翼持つ異形がこちらに群れを成して飛んでくる。
ついさっきまでこれらを撃ち落としてくれていたマリーとメルアの遠距離攻撃は、今は、もう――
脳裏を過る最悪の予感を振り払い、私は自分を戒めるように唇を噛み締めて、刀を振るった。
「伍ノ太刀――」
技の名を叫ぶ間すら惜しい。私は自らの後方に暴風を発生させ、研究棟からこちらに戻ってくるアークドラゴンに肉迫し、迎え撃った。
「キィェエエエエッ!」
甲高い耳障りな鳴き声を上げ、アークドラゴンが私に向けて爪を立ててくる。鬼気迫る攻撃に本能的な防御が働いたというわけではない。これは、私に対する嘲りだ。私を敵とはみなしていても、脅威とは感じていない。だが、それでいい。
「はぁああああっ!」
急降下してくるアークドラゴンに向けて、暴風を背に急接近した私は、擦れ違いざまに鋭い爪を刀で薙いだ。
「……っ!」
元々硬質である爪ならば、あるいは爪と皮膚の境ならばと考えたが、狙い通りにはいかない。私は体格差の煽りをまともに受けて、宙で木の葉のように翻弄された。
「あ……ぐっ、あああああっ!」
アークドラゴンの羽ばたきによる風と、自らが放つ暴風がせめぎ合い、大声を上げなければ息をすることさえままならない。空気を欲した身体が悲鳴を上げたかと思うと、目の前の景色が、漆黒に閉ざされた。
『人間と人間モドキが、我々に勝てると思うな――』
不快と嫌悪を詰め込んだような声は、私の意識を再び持ち上げるには充分だった。
「勝てる! 私たちは負けない!」
叫び、意図的に風魔法を解いて自らの身体を急降下させる。生温かく肌にまとわりつくような風に顔を歪めながら、私は改めて自らの上空での立ち位置を定めた。
地上のリーフたちよりも少し離れた場所、アークドラゴンとの戦闘の余波を与えないギリギリの場所へ。完全に離れずにいられるのは私の甘えだ。
――ホム、リーフをお願い。
私の魔力消費は思ったよりも激しい。怒りに支配され過ぎているとわかっているのに、もう自分では制御出来ない。でも、戦いに水を差したあの漆黒に閉ざされた一瞬で、ほんの少しだけ冷静になれた。
「無事で居て……」
研究棟の方を一瞥するが、幾つもの棟が崩落している。私がアークドラゴンを引きつけていられなかったから、最悪の事態が起きてしまった。
もっと最悪なのは、同じことがリーフたちに起こってしまうこと。
「一か八か……」
魔力が続くうちに、決着を付けなければならないのは明らかだ。
「参ノ太刀――飛燕!」
私は柄を握り締め、斬撃と共に風の刃を放つ。アークドラゴンが牽制に反応して首を持ち上げるのを見逃さず、背後に壱ノ太刀の応用で暴風を発生させ、首に狙いを定めた。
「弐ノ太刀、旋風車が崩し――裂空!」
急速に上昇してアークドラゴンとの距離を詰めながら、通常の横軸の回転ではなく縦回転の斬撃を繰り出す。
「ギィーー!!」
ドラゴンの首を狙った一撃は確かにダメージを与え、紫色の出血が見られた。だが、傷は浅い。空中では踏ん張りが効かず想定の威力が出なかった。
振り抜いた刀を戻す間もなく、アークドラゴンの尻尾が私の身体を薙ぐ。
「あ、ぐっ!」
激しい衝撃に息が詰まる。意識が一瞬途切れ、宙に自らを留めていた風魔法が効力を失った。墜落を阻止しようと歯を食いしばった私よりも早く、アークドラゴンが大きく口を開いた。
「あああああっ!」
考えている暇はない。風魔法を刀に施し、防御の姿勢を取る。間一髪、アークドラゴンの黒炎の第一波を防ぐことは出来たが、それは致命傷を免れたというだけで、凄まじい熱波が髪を焦がし、じりじりと身体を焼くのに耐える以外に術はない。
暴風を起こして炎と相殺し、落下によって逃れようにも地面はもうすぐそこに迫っている。
「……ぅ、あっああっ!」
肌を突き刺すような痛みに思わず悲鳴を上げた次の瞬間、視界を雷鳴瞬動のような閃光が白く覆った。
「ギィェエェエエエ!!!」
悲鳴を上げながら黒炎を吐き出していた口を天に向け、アークドラゴンが悲鳴を上げている。その首には亀裂が入り、紫の血が噴き出している。
――ホム!!
心の中で私は叫んでいた。こんなことが出来るのは、彼女しかいない。
「エステア!」
地面に激突する衝撃を覚悟した私を、急降下したホムが素早く抱きかかえる。
「風魔法!」
二人分の体重を補うべく風魔法を駆使したホムが、大闘技場を離れて宙を駆けていく。その細いながらも頼もしい腕の中で、私はアークドラゴンを見失うまいと首を伸ばした。
案の定、怒り狂ったアークドラゴンが激しく翼をはためかせながら迫って来ている。
「アークドラゴンが!」
「狙い通りです」
私の悲鳴のような声にホムは冷静に応えると、歓楽街の入り口にある高い建物の屋根に緩やかに着地した。
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