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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第361話 疾風のホムンクルス
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★ホム視点
デモンズアイの血涙とそこから這い出る魔族たちに蹂躙されていた街が、氷の中に閉じ込められ、ひとときの静寂に包まれている。
アルフェ様の活躍で状況は一変した。だが、危機が去ったわけではない。魔力増幅器を使って発動した氷炎雷撃によって、アークドラゴンの標的がアルフェ様へと向けられているのだ。
しかし、アルフェ様の驚異的な魔法を目の当たりにしたばかりとあり、また、エステアが牽制の攻撃を放ち続けていることから、アークドラゴンは警戒するように様子を窺いながら周囲を低空飛行しているに過ぎない。
「来なさい! 私と戦いなさい!」
緩く弧を描くように飛ぶアークドラゴンに向けて、風の刃が飛び、その身体を立て続けに攻撃している。わたくしにはエーテルが見えるわけではないけれど、今までに聞いたことのないようなエステアの声に象徴されるように、風の刃はこれまでにない鋭さを具現させている。
攻撃を続けるエステアは、再びアークドラゴンを挑発して引きつけ、マスターから遠ざけようと努めてくれているのだろう。ただ、それだけが理由でないことは、口にしないだけで誰の目にも明らかだった。
「来ないなら、こっちから行く!!」
エステアが叫び、刀に纏わせている風魔法を自らに纏わせて空高く舞い上がる。壱ノ太刀颯の応用のその技は、多大なエーテルを消耗するはずだが、エステアは手段を選ばなかった。
「……エステアさん……」
アルフェ様が苦しげに呟く声に、わたくしも思わず顔を歪めた。
上空でたった一人でアークドラゴンと戦うエステアの動きは、いつもの精彩を欠いている。動きひとつひとつは力強いが、荒々しさが目立ち、怒りの感情に支配されていることは容易に想像がついた。
大切な仲間であるマリー様とメルア様がアークドラゴンの攻撃を受け、交信が途絶えてしまったのだから無理もない。
「このままでは……」
『行っておいで、ホム』
決して大きな声を出したわけではないのに、多機能通信魔導器からマスターの声が響いた。
『エステアと同じ動きが出来るのは、ホムだけだ。魔法陣はもうすぐ完成する。アルフェのおかげで、ここはもう大丈夫だから』
「……マスター……」
反論してはいけない気がした。わたくしは、マスターの身の安全を最優先にしなければならないのに、たった一人で戦うエステアを助けたいと思っていたのだから。マスターは、それを見抜いてわたくしを送り出そうとしてくれているのだから。
「にゃはっ! 迷ってる場合じゃないぞ、ホム!」
依然時間稼ぎにしかならないとわかっていても、アルフェ様の勇気はこの場の士気を確実に上げてくれた。ファラ様の魔眼に於いても、今は――今だけはエステアを助けに行ける時間があるということだ。
「行ってやってくれ! その方が絶対にいい!」
ヴァナベルの声にアルフェ様が力強く頷いてくれる。
「リーフを守るぞ! ここが勝負処だ!」
皆がマスターを守るために輪を作る。マスターはその中心で魔法陣の完成を急いでいる。それぞれが、それぞれの持つ力の全てを投じて、この危機を乗り越えようと踏ん張っているのだ。それを背負うことが出来る力があることを、マスターがそのようにわたくしを造ってくれたことを誇りに思う。
「行って参ります!!」
わたくしは叫び、返事を待たずに駆け出した。
長靴に施された簡易術式にエーテルを流し、風魔法を発動させ、瓦礫の山を力強く蹴る。風魔法によって身体は浮き上がり、わたくしは宙を駆けながら、崩落した研究棟の方へと真っ直ぐに向かった。
この付近では最も高い場所は、まだ残っている研究等の建物の屋上だ。だから、そこから雷鳴瞬動を放てば、アークドラゴンに肉迫することが出来、不意を突くことが出来る。
建物の頂上まで一気に宙を駆け、わたくしは無意識に止めていた息を吐き出した。
エステアは彼方のアークドラゴンと空中での戦闘を続けている。間近で見れば痛々しいほどわかる。その動きが、いつもの彼女のものとは掛け離れた、怒りと復讐に支配されたものであることが。
心を平静に保つ必要がある。エステアが冷静でいられない分。
「……タオ・ラン老師様、わたくしに力をお貸し下さい」
師への敬意を唱えると、初めて奥義を成功させた日のことを思い出した。
あの時も失敗は許されなかった。わたくしは、アルフェ様と力を合わせてでも、いつか来たる脅威からマスターを守るために奥義の修得が必要だった。
今も同じだ。
マスターが与えてくれた飛雷針を使って、一人で奥義雷鳴瞬動を使えるようになった今、魔族の脅威を前に失敗は許されない。
「……鋼の身体よ、武威を示せ。武装錬成」
初心を思い出しながら、武装錬成の詠唱を唱えると、両手両脚が武具で包まれる頼もしい感覚があった。
わたくしは武具で包まれた足を大きく踏み出し、建物に強く力を込める
「我が元に来たれ、軌道!」
崩落した建物の瓦礫を破り、二本の鋼鉄製の軌道が見る間に建物の頂上から空へと伸びていく。
軌道の根元を振り返ったわたくしは、そこにある二つの影に目を奪われた。
「メルア様! マリー様!」
土埃と煤に塗れてしまっているけれど、わたくしの声にお二人が手を挙げて応じてくれる。
――生きていた! ご無事でいらっしゃった!
ならば、もうエステアが怒り悲しむ理由はどこにもない。
「必ず戻ります!」
わたくしはお二人にそう告げると、軌道の先端に駆け上って射出に備えた前傾姿勢を取った。
握りしめた飛雷針から、既に電流が迸っているのを感じる。わたくしはエーテルを収束させるイメージを脳裏に構築させ、それが最大となった瞬間に叫んだ。
「雷鳴瞬動」
迸る雷魔法で視界が白くなる。でも、問題ない。わたくしには見えている。エステアしか見ていないアークドラゴンのその身に生じている隙を見逃してはいない。ああ、でも急がなければ。アークドラゴンが大きく口を開き、メルア様とマリー様を襲った時のような動きをしている。黒炎を吐き出し、エステアを襲う前に、早く、早く、早く――!
放った蹴りは、アークドラゴンの首部を捉える。
「はぁあああああっ!」
わたくしは皮膚の表面に罅が入る確かな手応えとともに、アークドラゴンの巨体を撃ち抜いた。
デモンズアイの血涙とそこから這い出る魔族たちに蹂躙されていた街が、氷の中に閉じ込められ、ひとときの静寂に包まれている。
アルフェ様の活躍で状況は一変した。だが、危機が去ったわけではない。魔力増幅器を使って発動した氷炎雷撃によって、アークドラゴンの標的がアルフェ様へと向けられているのだ。
しかし、アルフェ様の驚異的な魔法を目の当たりにしたばかりとあり、また、エステアが牽制の攻撃を放ち続けていることから、アークドラゴンは警戒するように様子を窺いながら周囲を低空飛行しているに過ぎない。
「来なさい! 私と戦いなさい!」
緩く弧を描くように飛ぶアークドラゴンに向けて、風の刃が飛び、その身体を立て続けに攻撃している。わたくしにはエーテルが見えるわけではないけれど、今までに聞いたことのないようなエステアの声に象徴されるように、風の刃はこれまでにない鋭さを具現させている。
攻撃を続けるエステアは、再びアークドラゴンを挑発して引きつけ、マスターから遠ざけようと努めてくれているのだろう。ただ、それだけが理由でないことは、口にしないだけで誰の目にも明らかだった。
「来ないなら、こっちから行く!!」
エステアが叫び、刀に纏わせている風魔法を自らに纏わせて空高く舞い上がる。壱ノ太刀颯の応用のその技は、多大なエーテルを消耗するはずだが、エステアは手段を選ばなかった。
「……エステアさん……」
アルフェ様が苦しげに呟く声に、わたくしも思わず顔を歪めた。
上空でたった一人でアークドラゴンと戦うエステアの動きは、いつもの精彩を欠いている。動きひとつひとつは力強いが、荒々しさが目立ち、怒りの感情に支配されていることは容易に想像がついた。
大切な仲間であるマリー様とメルア様がアークドラゴンの攻撃を受け、交信が途絶えてしまったのだから無理もない。
「このままでは……」
『行っておいで、ホム』
決して大きな声を出したわけではないのに、多機能通信魔導器からマスターの声が響いた。
『エステアと同じ動きが出来るのは、ホムだけだ。魔法陣はもうすぐ完成する。アルフェのおかげで、ここはもう大丈夫だから』
「……マスター……」
反論してはいけない気がした。わたくしは、マスターの身の安全を最優先にしなければならないのに、たった一人で戦うエステアを助けたいと思っていたのだから。マスターは、それを見抜いてわたくしを送り出そうとしてくれているのだから。
「にゃはっ! 迷ってる場合じゃないぞ、ホム!」
依然時間稼ぎにしかならないとわかっていても、アルフェ様の勇気はこの場の士気を確実に上げてくれた。ファラ様の魔眼に於いても、今は――今だけはエステアを助けに行ける時間があるということだ。
「行ってやってくれ! その方が絶対にいい!」
ヴァナベルの声にアルフェ様が力強く頷いてくれる。
「リーフを守るぞ! ここが勝負処だ!」
皆がマスターを守るために輪を作る。マスターはその中心で魔法陣の完成を急いでいる。それぞれが、それぞれの持つ力の全てを投じて、この危機を乗り越えようと踏ん張っているのだ。それを背負うことが出来る力があることを、マスターがそのようにわたくしを造ってくれたことを誇りに思う。
「行って参ります!!」
わたくしは叫び、返事を待たずに駆け出した。
長靴に施された簡易術式にエーテルを流し、風魔法を発動させ、瓦礫の山を力強く蹴る。風魔法によって身体は浮き上がり、わたくしは宙を駆けながら、崩落した研究棟の方へと真っ直ぐに向かった。
この付近では最も高い場所は、まだ残っている研究等の建物の屋上だ。だから、そこから雷鳴瞬動を放てば、アークドラゴンに肉迫することが出来、不意を突くことが出来る。
建物の頂上まで一気に宙を駆け、わたくしは無意識に止めていた息を吐き出した。
エステアは彼方のアークドラゴンと空中での戦闘を続けている。間近で見れば痛々しいほどわかる。その動きが、いつもの彼女のものとは掛け離れた、怒りと復讐に支配されたものであることが。
心を平静に保つ必要がある。エステアが冷静でいられない分。
「……タオ・ラン老師様、わたくしに力をお貸し下さい」
師への敬意を唱えると、初めて奥義を成功させた日のことを思い出した。
あの時も失敗は許されなかった。わたくしは、アルフェ様と力を合わせてでも、いつか来たる脅威からマスターを守るために奥義の修得が必要だった。
今も同じだ。
マスターが与えてくれた飛雷針を使って、一人で奥義雷鳴瞬動を使えるようになった今、魔族の脅威を前に失敗は許されない。
「……鋼の身体よ、武威を示せ。武装錬成」
初心を思い出しながら、武装錬成の詠唱を唱えると、両手両脚が武具で包まれる頼もしい感覚があった。
わたくしは武具で包まれた足を大きく踏み出し、建物に強く力を込める
「我が元に来たれ、軌道!」
崩落した建物の瓦礫を破り、二本の鋼鉄製の軌道が見る間に建物の頂上から空へと伸びていく。
軌道の根元を振り返ったわたくしは、そこにある二つの影に目を奪われた。
「メルア様! マリー様!」
土埃と煤に塗れてしまっているけれど、わたくしの声にお二人が手を挙げて応じてくれる。
――生きていた! ご無事でいらっしゃった!
ならば、もうエステアが怒り悲しむ理由はどこにもない。
「必ず戻ります!」
わたくしはお二人にそう告げると、軌道の先端に駆け上って射出に備えた前傾姿勢を取った。
握りしめた飛雷針から、既に電流が迸っているのを感じる。わたくしはエーテルを収束させるイメージを脳裏に構築させ、それが最大となった瞬間に叫んだ。
「雷鳴瞬動」
迸る雷魔法で視界が白くなる。でも、問題ない。わたくしには見えている。エステアしか見ていないアークドラゴンのその身に生じている隙を見逃してはいない。ああ、でも急がなければ。アークドラゴンが大きく口を開き、メルア様とマリー様を襲った時のような動きをしている。黒炎を吐き出し、エステアを襲う前に、早く、早く、早く――!
放った蹴りは、アークドラゴンの首部を捉える。
「はぁあああああっ!」
わたくしは皮膚の表面に罅が入る確かな手応えとともに、アークドラゴンの巨体を撃ち抜いた。
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