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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第358話 生存のための道筋
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★ホム視点
エステアがアークドラゴンを一手に引きつけて戦っているのを感じながら、わたくしはマスターの元へと全速力で駆けるしかなかった。
「アルフェ様!」
「うん!」
アルフェ様がわたくしの狙いを受け止め、リリルル様と共に風の結界を巻き起こしてくれる。炎を纏った竜巻のような風の中に蒸気車両とアーケシウスは閉じ込められ、わたくしは攻撃に転じることが出来た。
「雷鳴瞬動!!」
飛雷針を握りしめ、近距離に築いた砲身から自らを射出させてレッサーデーモンたちを回転蹴りで薙ぎ払う。マスターがわたくしの意図を汲んで炎属性付与を施してくれたのを感じながら、目に見える敵を一掃することが出来たが、喜んでいるような場合ではなかった。血涙で濡れた地面が、ぼこぼこと沸騰するように動いているのだ。
「マスター!」
最早一刻の猶予もないと叫んで、わたくしはマスターと皆の元へと走る。マスターは思いの外落ち着いており、冷静な眼差しでデモンズアイを仰いでいた。
「厄介な敵が出て来たな……」
マスターの視界には、デモンズアイだけではなくエステアの姿も映し出されている。同調するエーテルを軸に同一の視界を共有したわたくしは、大きく息を吐いた。
このような感情は殆ど初めてと言っていいだろう。わたくしは、生まれて初めて冷静さというものを失ってしまいつつある。
「……大丈夫かい、ホム?」
問いかけるマスターに頷いて忠誠を示したかったけれども、マスターの視線は上空のエステアを心配そうに見上げているだけだった。
「あ……」
それについての可否などわたくしには判断出来るはずもない。ただ、マスターの思考と同調したことで、現代人――とりわけわたくしたちのように特別な能力を持たない学生にアークドラゴンの弱点を見抜けるはずがないことだけは理解出来た。
「わたくしたちは、どうすれば勝てるのでしょうか……?」
問いかけながら自分らしくないと強く感じていた。でも、今は自分の弱さを取り繕っている場合ではない。なんとしても勝つために、今の状況を打破しなければならない。今ここで、それが出来るのは、たった一人でアークドラゴンと対峙しているエステアと、わたくし以外にないはずだ。
「難しい相手だけど、勝てない相手じゃない」
マスターの視線がこちらに向けられる。その言葉で、わたくしは強く希望を持つことが出来た。だが、それだけではなんの解決にもならない。エステアが時間を稼いでくれている今のうちに、状況を打開する策をマスターの知識とわたくしの記憶を頼りに見出さなければ。
「打撃が通じている感覚が、まるでありませんでした。柔らかいゴムを殴打しているかのような……。でも、そうであるならエステアの斬撃が通らない理由がわかりません」
わたくしの話にマスターが険しい表情で頷く。その視線は上空のエステアへと戻った。
「アークドラゴンは皮膚の硬さを自在に変えられる。エステアもその違和感と戦っているはずだ」
マスターの視線を辿るように、わたくしもエステアを見上げる。エステアは風の刃を繰り出し続けているけれど、アークドラゴンは全く気にしている様子が見られない。要するに傷を負わせることはおろか、ダメージとして蓄積すらしていないのだ。
「そんな……」
「皮膚の硬度を変えられるといっても、攻撃に対して見合っていない硬さに変化してしまえば、その時は想定外のダメージを受けることになるだろうね。今までの戦いでエステアの攻撃もホムの攻撃も大したことはないと、油断しているはずだ。その隙を突けばいい」
「つまり、アークドラゴンの予測とは真逆の攻撃を行えば、いいということですね」
わたくしの問いかけに、マスターは目を合わせて頷いてくれた。エステアの斬撃とわたくしの打撃に対するアークドラゴンの皮膚の変化は真逆だ。それを逆手に取った攻撃を繰り出すことが出来れば、ダメージが通る。わたくしとエステアなら、それが出来る。
「話は終わりましたか、リーフ、ホム?」
わたくしとマスターの間の沈黙に割って入ったのは、プロフェッサーの声だった。
「エステアの心配も重要ですが、今はこの状況をどうすべきかを優先して考えなければなりません。消耗戦となると、かなり分が悪いですが……」
「ワタシもリーフも、撤退は考えていない。だって、アムレートを発動させないとこの状況は変えられない。今、ワタシたちがなんとかしないと!」
弱気を吐露するプロフェッサーを勇気づけようとしているのか、アルフェ様が強く言い切る。決して諦めないという強い決意を持ったアルフェ様の美しい瞳に、わたくしは思わず息を呑んだ。マスターが将来の家族――伴侶と認めた特別な御方は、わたくしの心まで奮い立たせてくれたのだ。
『そーそー! なんとかしなきゃね! 今こそうちの発明品の出番じゃん!』
メルア様の声が多機能通信魔導器から聞こえてくる。
「……ああ、そうだ。そうだったね」
マスターがなにかに気づいた様子で、魔力増幅器を手に、プロフェッサーたちに示す。まだスイッチはオフのままだが、マスターがこれを使ってなにをしようとしているのかはわたくしはすぐに理解出来た。
「僕が魔族たちを引きつけます。空腹のレッサーデーモンにとって、僕のエーテルはうってつけの餌なので」
「けど、引きつけてどうすんだよ。わらわら湧いて来んだぞ!?」
「そうだよ~! エステアさんがアークドラゴンを引きつけてくれているのに~!」
マスターの発言にヴァナベルとヌメリンが不安げな声を上げる。だが、それを希望に変えるような心強い声が、すぐに多機能通信魔導器から響いた。
『……ご心配なく! 私が一網打尽にしてやりますわぁ~!!』
『そこは宵の明星の最大出力の見せどころだし! ホムちゃん、アルフェちゃん、ししょーは任せたよ!』
「もちろんです!」
エステアがアークドラゴンを一手に引きつけて戦っているのを感じながら、わたくしはマスターの元へと全速力で駆けるしかなかった。
「アルフェ様!」
「うん!」
アルフェ様がわたくしの狙いを受け止め、リリルル様と共に風の結界を巻き起こしてくれる。炎を纏った竜巻のような風の中に蒸気車両とアーケシウスは閉じ込められ、わたくしは攻撃に転じることが出来た。
「雷鳴瞬動!!」
飛雷針を握りしめ、近距離に築いた砲身から自らを射出させてレッサーデーモンたちを回転蹴りで薙ぎ払う。マスターがわたくしの意図を汲んで炎属性付与を施してくれたのを感じながら、目に見える敵を一掃することが出来たが、喜んでいるような場合ではなかった。血涙で濡れた地面が、ぼこぼこと沸騰するように動いているのだ。
「マスター!」
最早一刻の猶予もないと叫んで、わたくしはマスターと皆の元へと走る。マスターは思いの外落ち着いており、冷静な眼差しでデモンズアイを仰いでいた。
「厄介な敵が出て来たな……」
マスターの視界には、デモンズアイだけではなくエステアの姿も映し出されている。同調するエーテルを軸に同一の視界を共有したわたくしは、大きく息を吐いた。
このような感情は殆ど初めてと言っていいだろう。わたくしは、生まれて初めて冷静さというものを失ってしまいつつある。
「……大丈夫かい、ホム?」
問いかけるマスターに頷いて忠誠を示したかったけれども、マスターの視線は上空のエステアを心配そうに見上げているだけだった。
「あ……」
それについての可否などわたくしには判断出来るはずもない。ただ、マスターの思考と同調したことで、現代人――とりわけわたくしたちのように特別な能力を持たない学生にアークドラゴンの弱点を見抜けるはずがないことだけは理解出来た。
「わたくしたちは、どうすれば勝てるのでしょうか……?」
問いかけながら自分らしくないと強く感じていた。でも、今は自分の弱さを取り繕っている場合ではない。なんとしても勝つために、今の状況を打破しなければならない。今ここで、それが出来るのは、たった一人でアークドラゴンと対峙しているエステアと、わたくし以外にないはずだ。
「難しい相手だけど、勝てない相手じゃない」
マスターの視線がこちらに向けられる。その言葉で、わたくしは強く希望を持つことが出来た。だが、それだけではなんの解決にもならない。エステアが時間を稼いでくれている今のうちに、状況を打開する策をマスターの知識とわたくしの記憶を頼りに見出さなければ。
「打撃が通じている感覚が、まるでありませんでした。柔らかいゴムを殴打しているかのような……。でも、そうであるならエステアの斬撃が通らない理由がわかりません」
わたくしの話にマスターが険しい表情で頷く。その視線は上空のエステアへと戻った。
「アークドラゴンは皮膚の硬さを自在に変えられる。エステアもその違和感と戦っているはずだ」
マスターの視線を辿るように、わたくしもエステアを見上げる。エステアは風の刃を繰り出し続けているけれど、アークドラゴンは全く気にしている様子が見られない。要するに傷を負わせることはおろか、ダメージとして蓄積すらしていないのだ。
「そんな……」
「皮膚の硬度を変えられるといっても、攻撃に対して見合っていない硬さに変化してしまえば、その時は想定外のダメージを受けることになるだろうね。今までの戦いでエステアの攻撃もホムの攻撃も大したことはないと、油断しているはずだ。その隙を突けばいい」
「つまり、アークドラゴンの予測とは真逆の攻撃を行えば、いいということですね」
わたくしの問いかけに、マスターは目を合わせて頷いてくれた。エステアの斬撃とわたくしの打撃に対するアークドラゴンの皮膚の変化は真逆だ。それを逆手に取った攻撃を繰り出すことが出来れば、ダメージが通る。わたくしとエステアなら、それが出来る。
「話は終わりましたか、リーフ、ホム?」
わたくしとマスターの間の沈黙に割って入ったのは、プロフェッサーの声だった。
「エステアの心配も重要ですが、今はこの状況をどうすべきかを優先して考えなければなりません。消耗戦となると、かなり分が悪いですが……」
「ワタシもリーフも、撤退は考えていない。だって、アムレートを発動させないとこの状況は変えられない。今、ワタシたちがなんとかしないと!」
弱気を吐露するプロフェッサーを勇気づけようとしているのか、アルフェ様が強く言い切る。決して諦めないという強い決意を持ったアルフェ様の美しい瞳に、わたくしは思わず息を呑んだ。マスターが将来の家族――伴侶と認めた特別な御方は、わたくしの心まで奮い立たせてくれたのだ。
『そーそー! なんとかしなきゃね! 今こそうちの発明品の出番じゃん!』
メルア様の声が多機能通信魔導器から聞こえてくる。
「……ああ、そうだ。そうだったね」
マスターがなにかに気づいた様子で、魔力増幅器を手に、プロフェッサーたちに示す。まだスイッチはオフのままだが、マスターがこれを使ってなにをしようとしているのかはわたくしはすぐに理解出来た。
「僕が魔族たちを引きつけます。空腹のレッサーデーモンにとって、僕のエーテルはうってつけの餌なので」
「けど、引きつけてどうすんだよ。わらわら湧いて来んだぞ!?」
「そうだよ~! エステアさんがアークドラゴンを引きつけてくれているのに~!」
マスターの発言にヴァナベルとヌメリンが不安げな声を上げる。だが、それを希望に変えるような心強い声が、すぐに多機能通信魔導器から響いた。
『……ご心配なく! 私が一網打尽にしてやりますわぁ~!!』
『そこは宵の明星の最大出力の見せどころだし! ホムちゃん、アルフェちゃん、ししょーは任せたよ!』
「もちろんです!」
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