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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第340話 ナイルの新機体
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ナイルに言われたとおりに特別チケットを手に、格納庫へ行くとすんなりと機兵の元に案内された。
「おお! リーフ殿!」
「ナイル! リーフとホム、アルフェが来てるよ!」
僕たちをいち早く見つけたのはアイザックとロメオだ。
「アイザックとロメオも見学かい?」
「いやいや、そうではござらんよ。なあ、ナイル殿?」
僕の問いかけに、アイザックがぶんぶんと尻尾を揺らしながら近づいてくるナイルを振り返る。
「もちろん。アイザックとロメオの二人には俺の機体の整備を頼んでいるんだ。こんなに強力な助っ人はないぜ」
「カナルフォード杯で、リーフたちの機体整備の手伝いをしただろ? その腕を見込まれたんだ」
ナイルの返事にロメオが誇らしげに補足する。整備の際に出た黒血油で汚れた頬や服も、彼らにとっては勲章のようなものなのだろう。僕たちと武侠宴舞・カナルフォード杯に出たときよりもずっと彼らの姿が大人びて見えた。
「二人ともすごいね。夢が叶っちゃいそう」
「うん。今、その入り口にいるって実感してる」
「ロメオ殿! まずは武侠宴舞御用達のメカニックになるでござるよ~!」
アルフェの感嘆の声にロメオとアイザックが興奮した様子で応じる。
「まあ、そのためには俺が活躍しないとだな」
「ナイル殿なら大丈夫でござる! このヤクトレーヴェなんて、拙者には鼻血ものでござるよ~!」
隠しきれない興奮に尻尾を大きく振りながらアイザックがナイルの新しい機体を示す。色はバーニングブレイズのトレードマークでもあった真紅を基調にしたものだ。
「ヤクトレーヴェとは……?」
僕は初めて耳にした機体名だが、軍事科のホムもそれは同じだったらしい。興味を持って聞き返したホムに、ナイルは機体の脚部に触れながら微笑みかけた。
「まあ、簡単に言えば、対艦戦闘用の突撃仕様に改修されたレーヴェだ。帝国の主力艦隊ヘイムダルなどで編成されるんだが、大きく違うのは装甲配置だな」
ナイルが全長8メートルの機体を見上げて、ホムの視線を誘導する。
確かに全体的な印象はレーヴェに似ているが、細かな装甲の配置が異なっている。装甲配置に注目すれば、機体前面に装甲が集中しているのに対し、背部は骨組みが剥き出しになっているという潔さだ。
顔は騎士の兜を思わせ、レーヴェとよく似ているが特徴的な赤い鬣はなく、代わりに鋭い突起が付いている。バーニングブレイズとして今後武侠宴舞に参加することを考えれば、突起は通信装置の類なのだろう。
その他に特に目を引くのは背部の大きなバックパックだ。通常のレーヴェのものよりも大きく、追加のエーテルタンクと思しき増槽らしきものが追加されているのがわかる。
「……なるほど。装甲を前面に集中させたことで軽量化を実現し、噴射推進装置をバックパックに二基追加して機動力を上げているのですね」
ホムの解釈にナイルだけでなく、機兵マニアを自負しているアイザックとロメオも大きく何度も頷いている。
「そうなのでござる! 機動力はレーヴェに比べて三割増加しているのでござるよ!」
「ただ、その軽量化と機動力に特化させた結果、機体の操縦性が非常にピーキー……おっと、ちょっと癖があって扱いづらいんだよね」
そう言い添えながらロメオがナイルへと視線を移す。
「だが、それ故に乗りこなせる者は帝国の機兵部隊のエースと呼ばれる。戦闘では常に最前線を任されて戦地を疾走する非常に栄誉ある機体だ」
「しかも、しかもでござるよ! 本来は破槍砲という推進装置のついた槍を敵艦に投擲して攻撃を行うのでござるが、ナイル殿のこの機体は、破槍砲をオミットして彼のスタイルである剣と盾を装備しているのでござる!」
「……つまり、その扱いづらさを制し、なお自分のスタイルを貫くことができるのが、ナイル様ということですね」
ホムが確かめるようにナイルに訊くと、ナイルは自信たっぷりに頷いた。
「そういうこと。こいつなら、エステアのセレーム・サリフともやり合える。そう思って、大学教授のツテを辿って無理言って一機回してもらったんだがなぁ……」
苦笑を浮かべるナイルは、エステアとの再戦が叶わないことをまだ残念に思っているようだ。
「そのせいかどうかわからないが、どうも大闘技場の客が朝から殺気立ってるんだよな……」
言われてみれば、遠くで暴言とも野次ともつかない罵声が聞こえるような気もする。
「今回は賭け事はなかったはずでござるが、どうにも柄が悪いでござるな」
「そういう筋の人たちが混じってるのかもね。プロリーグってそういうのもあるみたいだし」
「……どうだかな……」
ナイルは歯切れ悪く呟いて、新しい愛機を切なげに見上げている。きっとエステアとの再戦を願って、今日まで自身を鍛え直してきたのだろうと思うと彼の表情の意味が感じられるような気がした。
「…………」
短い沈黙が降り、僕たちはそれぞれナイルの新しい機体――ヤクトレーヴェを見上げる。もうすぐこの機体の初陣だというのに、どうにも落ち着かない心持ちだ。
「……ナイル様」
沈黙を破ったのはホムだった。重くなりかけたその場の空気を打ち破るように、ホムは微笑んでナイルを見上げて続けた。
「わたくしのアルタードと戦う、というのは選択肢にはありませんか?」
「お前の、アルタードと……?」
ホムの言葉をナイルが呆けたように繰り返す。繰り返して呟いたことで、ホムの言葉の意味を理解したのか、ナイルが不意に笑い出した。
「ははははっ! そりゃいい! アルタードほどの好敵手なら、プロリーグの比じゃないな! ははっ! 俺はなにを拘ってたんだ……。エステア以外にも好敵手が出来たっていうのに……!」
ナイルの表情に明るさが戻る。自嘲気味だった笑い声は、新たな好敵手を認知したことで、実に楽しげなものとなった。
「……好敵手と認めて頂けて、光栄にございます」
「良かったね、ホムちゃん」
ホムの微笑みにアルフェも笑顔を浮かべる。
「はい。……ナイル様、わたくしと戦うまで決して――」
「負けねぇよ。そもそもこいつは、適性のある操手を探すための特別措置の意味合いもあるんだ。この機体でみすみすやられるなんて真似、恥ずかしくて出来ねぇよ」
快活に笑うナイルは、もう戦いに挑み、楽しむ者の瞳になっている。彼の言葉で気づいたが、どうもこのヤクトレーヴェもまた、生徒の中から適性者を探すという、格納庫の中で眠っていたアルフェのレムレスと同じ扱いのようだ。
「おお! リーフ殿!」
「ナイル! リーフとホム、アルフェが来てるよ!」
僕たちをいち早く見つけたのはアイザックとロメオだ。
「アイザックとロメオも見学かい?」
「いやいや、そうではござらんよ。なあ、ナイル殿?」
僕の問いかけに、アイザックがぶんぶんと尻尾を揺らしながら近づいてくるナイルを振り返る。
「もちろん。アイザックとロメオの二人には俺の機体の整備を頼んでいるんだ。こんなに強力な助っ人はないぜ」
「カナルフォード杯で、リーフたちの機体整備の手伝いをしただろ? その腕を見込まれたんだ」
ナイルの返事にロメオが誇らしげに補足する。整備の際に出た黒血油で汚れた頬や服も、彼らにとっては勲章のようなものなのだろう。僕たちと武侠宴舞・カナルフォード杯に出たときよりもずっと彼らの姿が大人びて見えた。
「二人ともすごいね。夢が叶っちゃいそう」
「うん。今、その入り口にいるって実感してる」
「ロメオ殿! まずは武侠宴舞御用達のメカニックになるでござるよ~!」
アルフェの感嘆の声にロメオとアイザックが興奮した様子で応じる。
「まあ、そのためには俺が活躍しないとだな」
「ナイル殿なら大丈夫でござる! このヤクトレーヴェなんて、拙者には鼻血ものでござるよ~!」
隠しきれない興奮に尻尾を大きく振りながらアイザックがナイルの新しい機体を示す。色はバーニングブレイズのトレードマークでもあった真紅を基調にしたものだ。
「ヤクトレーヴェとは……?」
僕は初めて耳にした機体名だが、軍事科のホムもそれは同じだったらしい。興味を持って聞き返したホムに、ナイルは機体の脚部に触れながら微笑みかけた。
「まあ、簡単に言えば、対艦戦闘用の突撃仕様に改修されたレーヴェだ。帝国の主力艦隊ヘイムダルなどで編成されるんだが、大きく違うのは装甲配置だな」
ナイルが全長8メートルの機体を見上げて、ホムの視線を誘導する。
確かに全体的な印象はレーヴェに似ているが、細かな装甲の配置が異なっている。装甲配置に注目すれば、機体前面に装甲が集中しているのに対し、背部は骨組みが剥き出しになっているという潔さだ。
顔は騎士の兜を思わせ、レーヴェとよく似ているが特徴的な赤い鬣はなく、代わりに鋭い突起が付いている。バーニングブレイズとして今後武侠宴舞に参加することを考えれば、突起は通信装置の類なのだろう。
その他に特に目を引くのは背部の大きなバックパックだ。通常のレーヴェのものよりも大きく、追加のエーテルタンクと思しき増槽らしきものが追加されているのがわかる。
「……なるほど。装甲を前面に集中させたことで軽量化を実現し、噴射推進装置をバックパックに二基追加して機動力を上げているのですね」
ホムの解釈にナイルだけでなく、機兵マニアを自負しているアイザックとロメオも大きく何度も頷いている。
「そうなのでござる! 機動力はレーヴェに比べて三割増加しているのでござるよ!」
「ただ、その軽量化と機動力に特化させた結果、機体の操縦性が非常にピーキー……おっと、ちょっと癖があって扱いづらいんだよね」
そう言い添えながらロメオがナイルへと視線を移す。
「だが、それ故に乗りこなせる者は帝国の機兵部隊のエースと呼ばれる。戦闘では常に最前線を任されて戦地を疾走する非常に栄誉ある機体だ」
「しかも、しかもでござるよ! 本来は破槍砲という推進装置のついた槍を敵艦に投擲して攻撃を行うのでござるが、ナイル殿のこの機体は、破槍砲をオミットして彼のスタイルである剣と盾を装備しているのでござる!」
「……つまり、その扱いづらさを制し、なお自分のスタイルを貫くことができるのが、ナイル様ということですね」
ホムが確かめるようにナイルに訊くと、ナイルは自信たっぷりに頷いた。
「そういうこと。こいつなら、エステアのセレーム・サリフともやり合える。そう思って、大学教授のツテを辿って無理言って一機回してもらったんだがなぁ……」
苦笑を浮かべるナイルは、エステアとの再戦が叶わないことをまだ残念に思っているようだ。
「そのせいかどうかわからないが、どうも大闘技場の客が朝から殺気立ってるんだよな……」
言われてみれば、遠くで暴言とも野次ともつかない罵声が聞こえるような気もする。
「今回は賭け事はなかったはずでござるが、どうにも柄が悪いでござるな」
「そういう筋の人たちが混じってるのかもね。プロリーグってそういうのもあるみたいだし」
「……どうだかな……」
ナイルは歯切れ悪く呟いて、新しい愛機を切なげに見上げている。きっとエステアとの再戦を願って、今日まで自身を鍛え直してきたのだろうと思うと彼の表情の意味が感じられるような気がした。
「…………」
短い沈黙が降り、僕たちはそれぞれナイルの新しい機体――ヤクトレーヴェを見上げる。もうすぐこの機体の初陣だというのに、どうにも落ち着かない心持ちだ。
「……ナイル様」
沈黙を破ったのはホムだった。重くなりかけたその場の空気を打ち破るように、ホムは微笑んでナイルを見上げて続けた。
「わたくしのアルタードと戦う、というのは選択肢にはありませんか?」
「お前の、アルタードと……?」
ホムの言葉をナイルが呆けたように繰り返す。繰り返して呟いたことで、ホムの言葉の意味を理解したのか、ナイルが不意に笑い出した。
「ははははっ! そりゃいい! アルタードほどの好敵手なら、プロリーグの比じゃないな! ははっ! 俺はなにを拘ってたんだ……。エステア以外にも好敵手が出来たっていうのに……!」
ナイルの表情に明るさが戻る。自嘲気味だった笑い声は、新たな好敵手を認知したことで、実に楽しげなものとなった。
「……好敵手と認めて頂けて、光栄にございます」
「良かったね、ホムちゃん」
ホムの微笑みにアルフェも笑顔を浮かべる。
「はい。……ナイル様、わたくしと戦うまで決して――」
「負けねぇよ。そもそもこいつは、適性のある操手を探すための特別措置の意味合いもあるんだ。この機体でみすみすやられるなんて真似、恥ずかしくて出来ねぇよ」
快活に笑うナイルは、もう戦いに挑み、楽しむ者の瞳になっている。彼の言葉で気づいたが、どうもこのヤクトレーヴェもまた、生徒の中から適性者を探すという、格納庫の中で眠っていたアルフェのレムレスと同じ扱いのようだ。
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