289 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ
第289話 工学科の特別講師
しおりを挟む
迎えた翌日の工学科の授業、珍しい参加者が教室に現れた。
「本日は特別講師として、メルア・ガーネル特級錬金術師が授業に参加します。ご存じのとおり当学園の二年生ですから、どうぞ気軽に相談してください」
「はーーい! わからないことがあったら、うちにどんどん聞いちゃって~!」
「拙者とロメオ殿は、機兵改造について少々ご相談があるでござる!」
にこにこしながら手を振るメルアに、アイザックとロメオが早速挙手する。
「はいはーい!」
メルアは愛想良くそれを引き受けると、二人の席まで移動する。アイザックとロメオが質問の先陣を切ったことで、他の生徒もメルアに次々と相談を持ちかけはじめた。
やれやれ。いつもよりも賑やかになってきたが、今のうちにレポートを仕上げておかないとな。それにしても、工学科の授業なのに特級錬金術師とはいえ、どうしてメルアが参加することになったのだろうか。
「……気になりますか?」
メルアの方をちらちらと見ていたのがばれたのか、プロフェッサーがこちらに近づいて来て囁いた。
「助手が必要な段階とも思えないですし、何故かなとは思いますけど」
「それはもちろん、魔導砲についてあれこれ聞かせてもらうためですよ」
ああ、なるほど。授業時間というある程度自由に使える時間を有効活用しようという訳なのか。さすがはプロフェッサー、自分の興味に驚くほど正直だな。
仕方ないのでレポートをまとめながら、簡単に魔導砲のアイディアと実装した機構について説明していく。
プロフェッサーは、設計図と昨日メルアが土魔法で模写した模型を眺めながら感嘆の溜息を吐きながら嬉しそうに目を輝かせた。
「……いやいや! 模型で見ても素晴らしい機構です。天才というものはやはり存在するんですね。武侠宴舞・カナルフォード杯でも充分にその才能を発揮していましたが、この設計図からこれを仕上げてくるとは思いませんでした」
設計図は出来るだけ簡略化していたので、ブラッドグレイルのことを含めてもっと突っ込まれるかと覚悟していたのだが、昨日の感嘆以上の驚きはなく、ただただ興味を持ってプロフェッサーは僕の説明に聴き入り、レポートに魅入っているだけだった。
案外メルアが入ってくれて、レポートや質問に集中出来る時間が出来たことで、プロフェッサーも自問自答する時間を楽しんでいるのかもしれないな。全てを知ることと同じくらい、自分で考えることが好きなのだろう。
「これで三学期の課題はほぼ終了ですね。出来ればもうひとつくらい、君の作った魔導器をこの目で見たいものです」
「ひとつでいーの? なんかそれって、今年で最後みたいな言い方じゃん」
一通り生徒からの質問に答えたメルアが、プロフェッサーから当然のように僕が書いたレポートを受け取りながら首を傾げる。
「……まあ、当たらずしも遠からずですね。別の研究職のポストに誘われているんです」
「へぇ……」
さして興味がないのか、よくあることだから慣れているのか、メルアはもう僕の論文の方にすっかり夢中になっている。まあ、そのお陰で僕はプロフェッサーが目で合図したことに気づくことができた。
どうやらプロフェッサーは、イグニスと教頭の企みを挫けば、この学園での任務が終わるらしい。そして、今の発言が出たということは、エステアの再選を確信しているのだ。
エステアはかなり気に病んでいたけれど、武侠宴舞・カナルフォード杯の勝利よりも大切なものを在任中にこの学園にもたらしていたことの証にならないかな。それを伝えられるのは、きっと総選挙が終わった後になりそうだけれど。
「……というわけなので、君にこれを」
そう言いながらプロフェッサーが差し出したのは、一枚の名刺だった。そこに書かれた名前はもちろんこの学園でも使われている偽名だが、連絡先は本物のようだ。
「今後、魔導器で会心の出来の作品が出来た時は、ぜひ知らせてください。所属は変わっても、ここに連絡してもらえれば、必ず繋がります」
「わかる、わかるよプロフェッサー! ししょーの作品、うちも絶対見たいもん」
メルアはプロフェッサーが連絡先を渡したことよりも、僕の研究を追いかけたいという興味の方に激しく共感している。
「あー、でもそれもあと一年ちょっとだよね!? 卒業したらどーしよ~!」
「大学部に進学すれば近いですよ」
身もだえするメルアの悩みにあっさりと解決策を示したのは、プロフェッサーだった。
「確かに! じゃあ、このまま研究職を突き進むのもいいよね。卒業したら、錬金学会に就職みたいな感じで言われてたけど、大学部に進学してからでも遅くないだろうし!」
なんだか僕の錬金術見たさに進路を変えたように聞こえるけど、それは大丈夫なんだろうか。でも、メルアが決めたことだし、進路のことなのだからきっと両親や他の先生方にも相談するんだろうな。
まだまだ先だと思っていたけれど、僕も進路の話をきちんとする時が来ているのかもしれない。
「本日は特別講師として、メルア・ガーネル特級錬金術師が授業に参加します。ご存じのとおり当学園の二年生ですから、どうぞ気軽に相談してください」
「はーーい! わからないことがあったら、うちにどんどん聞いちゃって~!」
「拙者とロメオ殿は、機兵改造について少々ご相談があるでござる!」
にこにこしながら手を振るメルアに、アイザックとロメオが早速挙手する。
「はいはーい!」
メルアは愛想良くそれを引き受けると、二人の席まで移動する。アイザックとロメオが質問の先陣を切ったことで、他の生徒もメルアに次々と相談を持ちかけはじめた。
やれやれ。いつもよりも賑やかになってきたが、今のうちにレポートを仕上げておかないとな。それにしても、工学科の授業なのに特級錬金術師とはいえ、どうしてメルアが参加することになったのだろうか。
「……気になりますか?」
メルアの方をちらちらと見ていたのがばれたのか、プロフェッサーがこちらに近づいて来て囁いた。
「助手が必要な段階とも思えないですし、何故かなとは思いますけど」
「それはもちろん、魔導砲についてあれこれ聞かせてもらうためですよ」
ああ、なるほど。授業時間というある程度自由に使える時間を有効活用しようという訳なのか。さすがはプロフェッサー、自分の興味に驚くほど正直だな。
仕方ないのでレポートをまとめながら、簡単に魔導砲のアイディアと実装した機構について説明していく。
プロフェッサーは、設計図と昨日メルアが土魔法で模写した模型を眺めながら感嘆の溜息を吐きながら嬉しそうに目を輝かせた。
「……いやいや! 模型で見ても素晴らしい機構です。天才というものはやはり存在するんですね。武侠宴舞・カナルフォード杯でも充分にその才能を発揮していましたが、この設計図からこれを仕上げてくるとは思いませんでした」
設計図は出来るだけ簡略化していたので、ブラッドグレイルのことを含めてもっと突っ込まれるかと覚悟していたのだが、昨日の感嘆以上の驚きはなく、ただただ興味を持ってプロフェッサーは僕の説明に聴き入り、レポートに魅入っているだけだった。
案外メルアが入ってくれて、レポートや質問に集中出来る時間が出来たことで、プロフェッサーも自問自答する時間を楽しんでいるのかもしれないな。全てを知ることと同じくらい、自分で考えることが好きなのだろう。
「これで三学期の課題はほぼ終了ですね。出来ればもうひとつくらい、君の作った魔導器をこの目で見たいものです」
「ひとつでいーの? なんかそれって、今年で最後みたいな言い方じゃん」
一通り生徒からの質問に答えたメルアが、プロフェッサーから当然のように僕が書いたレポートを受け取りながら首を傾げる。
「……まあ、当たらずしも遠からずですね。別の研究職のポストに誘われているんです」
「へぇ……」
さして興味がないのか、よくあることだから慣れているのか、メルアはもう僕の論文の方にすっかり夢中になっている。まあ、そのお陰で僕はプロフェッサーが目で合図したことに気づくことができた。
どうやらプロフェッサーは、イグニスと教頭の企みを挫けば、この学園での任務が終わるらしい。そして、今の発言が出たということは、エステアの再選を確信しているのだ。
エステアはかなり気に病んでいたけれど、武侠宴舞・カナルフォード杯の勝利よりも大切なものを在任中にこの学園にもたらしていたことの証にならないかな。それを伝えられるのは、きっと総選挙が終わった後になりそうだけれど。
「……というわけなので、君にこれを」
そう言いながらプロフェッサーが差し出したのは、一枚の名刺だった。そこに書かれた名前はもちろんこの学園でも使われている偽名だが、連絡先は本物のようだ。
「今後、魔導器で会心の出来の作品が出来た時は、ぜひ知らせてください。所属は変わっても、ここに連絡してもらえれば、必ず繋がります」
「わかる、わかるよプロフェッサー! ししょーの作品、うちも絶対見たいもん」
メルアはプロフェッサーが連絡先を渡したことよりも、僕の研究を追いかけたいという興味の方に激しく共感している。
「あー、でもそれもあと一年ちょっとだよね!? 卒業したらどーしよ~!」
「大学部に進学すれば近いですよ」
身もだえするメルアの悩みにあっさりと解決策を示したのは、プロフェッサーだった。
「確かに! じゃあ、このまま研究職を突き進むのもいいよね。卒業したら、錬金学会に就職みたいな感じで言われてたけど、大学部に進学してからでも遅くないだろうし!」
なんだか僕の錬金術見たさに進路を変えたように聞こえるけど、それは大丈夫なんだろうか。でも、メルアが決めたことだし、進路のことなのだからきっと両親や他の先生方にも相談するんだろうな。
まだまだ先だと思っていたけれど、僕も進路の話をきちんとする時が来ているのかもしれない。
0
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる