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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第286話 宵の明星
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※魔導砲完成
スパークショットの簡易術式を彫り込んだイシルディンとドゥマニウムの複合素材に錬金金属であるレイヴァスキンの液体を流し込んで乾燥魔導器の温風で乾かす。そうして仕上がった全長2mほどになる四枚の細長い板を組み合わせた銃砲身を組み立て、接着面をヒートペンで溶接すると、細長い長方形の筒状の砲身が出来上がった。
ここまでくればあとはもう仕上げだけだ。僕はそこに予め用意していた銃把を嵌め込んで、握り具合を確かめた。マリーが扱いやすいようにベースは魔導砲のパーツを使ったが、なかなかに馴染みが良い。この銃把に設けていた窪みにエーテル増幅装置であるブラッドグレイルを嵌め込み、金具で四方を固定すると、マリーの要求を全て採り入れた特注の魔導砲が完成した。
「……出来た。本当に出来ちゃった」
組み立てを息を呑むように眺めていたメルアが、感嘆の声を漏らす。
「おめでとう、メルア」
総重量約5kgの大きな魔導砲を作業台の上で回転させ、メルアに銃把を向ける。メルアは目を潤ませて完成したばかりの細長く大きな魔導砲を持ち上げ、大切に抱えた。
「ありがと……って、もうほとんどししょーのお陰だから!」
「いやいや、要になる簡易術式を根気強く彫ったのはメルアだよ」
僕が出来ないことというわけではないけれど、メルアがマリーのために苦手を克服したのは大きな進歩だ。実際、滞りなく液体レイヴァスキンが簡易術式の溝に行き渡ったのを見るに、いかにメルアが慎重に正確に作業を進めていたかがわかる。
「褒められるのは嬉しいよ。ありがと……でも、でもね! これはししょーのブラッドグレイルがあってこその機構だし! ……だけど……だけど、本当にありがとう! お陰でマリーの誕生日に間に合った!」
「それはなにより」
メルアには僕が褒めていることがきちんと伝わっているようで安心した。ここで妙に謙遜してしまうあたりが、メルアの人の良さを表しているようでなんだか安心するな。
「でさ、これせっかくだからししょーに格好いい名前をお願いしたいんだけど、いい?」
「そこは、君がつけた方がいいよ。なにか考えていたんじゃないかい?」
そもそも一年もこれを完成させるためのアイディアを出し続けてきたのだ。メルアがなにも考えていないとは考え辛い。
「……うーん……うちがつけてもなんかコレじゃない感になっちゃうし、あんまりセンスないから、ししょーのセンスにお任せ――」
「メルア」
ああ、もしかするとメルアは僕に遠慮しているのかもしれないな。だったら尚更師匠と呼ばれる身としては、弟子に遠慮などされたくないのだけれど。
「これは誰から誰へのプレゼントなんだい?」
どう説得したらいいだろうかと考えたところで、アルフェの顔が浮かんだ。多分アルフェならこう言っただろうな。プレゼントというものは、誰が誰のために贈りたいものなのかということが大事なのだ。それを作ったのが、誰であれ、贈り主の想いが尊重されるはずだ。メルアは気にしているが、それはこの錬金術で作り出したプレセントにおいても同じだろう。
「うちからマリーへのだよ。それはわかってる……」
「だったらわかるね?」
諭すように問いかけると、メルアは観念したように俯いた。
「……笑わないで聞いてよ。宵の明星……ってのを考えてたんだけど」
「素敵な名前だよ、メルア。由来を聞いてもいいかな?」
「由来っていうか……。あのさ、うちにとってエステアは明けの明星なんだよね。夜明けに最も明るく輝く金星で、暗闇を切り裂いて夜明けに皆を導く存在。で、マリーは宵の明星で、夜空で最も明るく輝く金星。暗闇の中でも目印になってエステアを導いてくれる。これからもマリーにはうちと一緒にエステアを支えてほしい。だから、敬愛の意味を込めて宵の明星……って」
メルアがつっかえながらも丁寧に説明してくれる。メルアの過去を聞き、彼女たちの関係性を聞いた今なら、僕にもその意味や願いがすんなりと理解出来た。
「ぴったりだね、マリーに」
「でしょ? まっ、支えるとかお上品な感じじゃなくて、突っ込んでくタイプではあるんだけど」
だったら尚更、この弾丸ではなく雷のエーテルを圧縮して放つ魔導砲はマリーにぴったりだろう。試射したいところだけれど、貴重なその一撃を僕たちがやってしまうのは避けたい。早く見せて反応を見てみたいものだ。
「……で、これからどうするんだい? マリーに直接渡せばいいのかな?」
「いやいやいや、一応銃器だし、学内で作る許可はもらってるんだけど、一年前だし……。完成したからその報告を兼ねて、携帯許可と使用許可取らないとマズいかな~って」
ああ、一応学園内で使うことも想定されるのか。エーテル増幅装置に僕の血を材料にしたブラッドグレイルを使っているので、使う場所や場面はかなり限られるだろうな。
「じゃあ、申請しようか。手伝うよ」
「手伝ってもらうっちゅーほどのことでもないんだけどさ、プロフェッサーのところに行くから、ししょーがいた方が気が楽かも」
メルアから意外な言葉が出たので、僕は小首を傾げた。そもそもプロフェッサーとの付き合いは僕よりもメルアの方が長いし、距離も近いはずなのだけれど。
「そう?」
「緊張するとかそういう話じゃないんだけど、この魔導砲――宵の明星って、すっごく出来がいいじゃん。プロフェッサー、絶対突っ込んでくると思うんだよね」
「ああ、それはそうかもしれないね」
しかもブラッドグレイルを組み込んでいるとあって、また魔力増幅にかなりの興味を示しそうではあるな。突っ込んだ質問が出た場合は、僕がいた方がメルアも気が楽だろう。
スパークショットの簡易術式を彫り込んだイシルディンとドゥマニウムの複合素材に錬金金属であるレイヴァスキンの液体を流し込んで乾燥魔導器の温風で乾かす。そうして仕上がった全長2mほどになる四枚の細長い板を組み合わせた銃砲身を組み立て、接着面をヒートペンで溶接すると、細長い長方形の筒状の砲身が出来上がった。
ここまでくればあとはもう仕上げだけだ。僕はそこに予め用意していた銃把を嵌め込んで、握り具合を確かめた。マリーが扱いやすいようにベースは魔導砲のパーツを使ったが、なかなかに馴染みが良い。この銃把に設けていた窪みにエーテル増幅装置であるブラッドグレイルを嵌め込み、金具で四方を固定すると、マリーの要求を全て採り入れた特注の魔導砲が完成した。
「……出来た。本当に出来ちゃった」
組み立てを息を呑むように眺めていたメルアが、感嘆の声を漏らす。
「おめでとう、メルア」
総重量約5kgの大きな魔導砲を作業台の上で回転させ、メルアに銃把を向ける。メルアは目を潤ませて完成したばかりの細長く大きな魔導砲を持ち上げ、大切に抱えた。
「ありがと……って、もうほとんどししょーのお陰だから!」
「いやいや、要になる簡易術式を根気強く彫ったのはメルアだよ」
僕が出来ないことというわけではないけれど、メルアがマリーのために苦手を克服したのは大きな進歩だ。実際、滞りなく液体レイヴァスキンが簡易術式の溝に行き渡ったのを見るに、いかにメルアが慎重に正確に作業を進めていたかがわかる。
「褒められるのは嬉しいよ。ありがと……でも、でもね! これはししょーのブラッドグレイルがあってこその機構だし! ……だけど……だけど、本当にありがとう! お陰でマリーの誕生日に間に合った!」
「それはなにより」
メルアには僕が褒めていることがきちんと伝わっているようで安心した。ここで妙に謙遜してしまうあたりが、メルアの人の良さを表しているようでなんだか安心するな。
「でさ、これせっかくだからししょーに格好いい名前をお願いしたいんだけど、いい?」
「そこは、君がつけた方がいいよ。なにか考えていたんじゃないかい?」
そもそも一年もこれを完成させるためのアイディアを出し続けてきたのだ。メルアがなにも考えていないとは考え辛い。
「……うーん……うちがつけてもなんかコレじゃない感になっちゃうし、あんまりセンスないから、ししょーのセンスにお任せ――」
「メルア」
ああ、もしかするとメルアは僕に遠慮しているのかもしれないな。だったら尚更師匠と呼ばれる身としては、弟子に遠慮などされたくないのだけれど。
「これは誰から誰へのプレゼントなんだい?」
どう説得したらいいだろうかと考えたところで、アルフェの顔が浮かんだ。多分アルフェならこう言っただろうな。プレゼントというものは、誰が誰のために贈りたいものなのかということが大事なのだ。それを作ったのが、誰であれ、贈り主の想いが尊重されるはずだ。メルアは気にしているが、それはこの錬金術で作り出したプレセントにおいても同じだろう。
「うちからマリーへのだよ。それはわかってる……」
「だったらわかるね?」
諭すように問いかけると、メルアは観念したように俯いた。
「……笑わないで聞いてよ。宵の明星……ってのを考えてたんだけど」
「素敵な名前だよ、メルア。由来を聞いてもいいかな?」
「由来っていうか……。あのさ、うちにとってエステアは明けの明星なんだよね。夜明けに最も明るく輝く金星で、暗闇を切り裂いて夜明けに皆を導く存在。で、マリーは宵の明星で、夜空で最も明るく輝く金星。暗闇の中でも目印になってエステアを導いてくれる。これからもマリーにはうちと一緒にエステアを支えてほしい。だから、敬愛の意味を込めて宵の明星……って」
メルアがつっかえながらも丁寧に説明してくれる。メルアの過去を聞き、彼女たちの関係性を聞いた今なら、僕にもその意味や願いがすんなりと理解出来た。
「ぴったりだね、マリーに」
「でしょ? まっ、支えるとかお上品な感じじゃなくて、突っ込んでくタイプではあるんだけど」
だったら尚更、この弾丸ではなく雷のエーテルを圧縮して放つ魔導砲はマリーにぴったりだろう。試射したいところだけれど、貴重なその一撃を僕たちがやってしまうのは避けたい。早く見せて反応を見てみたいものだ。
「……で、これからどうするんだい? マリーに直接渡せばいいのかな?」
「いやいやいや、一応銃器だし、学内で作る許可はもらってるんだけど、一年前だし……。完成したからその報告を兼ねて、携帯許可と使用許可取らないとマズいかな~って」
ああ、一応学園内で使うことも想定されるのか。エーテル増幅装置に僕の血を材料にしたブラッドグレイルを使っているので、使う場所や場面はかなり限られるだろうな。
「じゃあ、申請しようか。手伝うよ」
「手伝ってもらうっちゅーほどのことでもないんだけどさ、プロフェッサーのところに行くから、ししょーがいた方が気が楽かも」
メルアから意外な言葉が出たので、僕は小首を傾げた。そもそもプロフェッサーとの付き合いは僕よりもメルアの方が長いし、距離も近いはずなのだけれど。
「そう?」
「緊張するとかそういう話じゃないんだけど、この魔導砲――宵の明星って、すっごく出来がいいじゃん。プロフェッサー、絶対突っ込んでくると思うんだよね」
「ああ、それはそうかもしれないね」
しかもブラッドグレイルを組み込んでいるとあって、また魔力増幅にかなりの興味を示しそうではあるな。突っ込んだ質問が出た場合は、僕がいた方がメルアも気が楽だろう。
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