276 / 396
第四章 絢爛のスクールフェスタ
第276話 特級錬金術師への道
しおりを挟む
「それじゃあさ、早速弾いてみようよ。確か原理がわかれば弾けるって、ししょー言ってたよね!?」
メルアがそう言いながら、楽器店の店主から預かったテスト用の小型増音魔導器とエーテル供給用のケーブルで接続する。だが、弾く前にガリガリという砂を踏み潰したような異音が響いた。
「おっと。ノイズ入っちゃってる~。これ、うちが土魔法で削ったあれこれがジャックに入ってるかも」
メルアが慌ててケーブルを外し、接続穴の部分をアルコールを染みこませた綿棒で拭く。再度接続すると、ギターの優しい音色を響かせることが出来た。
「おっ。すごく優しい音! なんか知ってるギターとはひと味違うね」
「ホムの感情を響かせられるよう、簡易術式を工夫してみたんだ」
感心するメルアにちょっとした一工夫を明かすと、メルアは驚いたように僕を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「えっ!? 構造がわかったからってそんなことしちゃう!? しかも出来ちゃう!? マジししょーはんぱないっ!!」
「まあ、エステアのは特注品だし、ただ直すよりはホムに合わせた方がいいだろうからね」
「それもそーだけど……。いや、ししょー、三級錬金術師って肩書き、そろそろやめよーよ!」
メルアはなにやら忙しそうに身振り手振りで自分の感情を表したあと、真顔で僕に詰め寄ってきた。
ああ、そう言えば帰省したときにルドセフ院長と約束したんだったな。メルアとちょうど二人きりだし、いい機会だから相談しておこう。
「……そのことなんだけど、特級の資格試験を受けたいんだ。メルアに推薦を頼めないかな?」
調べたところ、特級錬金術師の資格試験には、特級錬金術師からの推薦が必要なのだ。
「ししょーの頼みを断るわけないじゃん! 今すぐ書くよ!」
「いや、来年でいいんだ」
二つ返事で引き受けてくれたメルアだったが、僕としては今すぐ必要なわけではないと断った。なぜかと言えば、特級錬金術師の資格を取得するためには提出するは論文が有用でなおかつ革新的な内容でないといけない。だから今その話をしたという事実が大事で、黒石病抑制剤の論文を一年かけて準備したという既成事実をつくらなければならないのだ。
「来年? なんで?」
「発表したいものがあって、準備中なんだよ。だからそれに合わせて推薦状を書いて欲しい」
「ししょーがいいなら、うちは構わないよ!」
こういうとき、メルアの興味の有無がはっきりとわかるのは面白いな。錬金術や魔法まわりのことは注意を払わなければならないことには変わりはないのだけれど、ギターの修理も特級錬金術師の推薦にも目途が立ったことだし、メルアのお願いも叶えておこうか。
「ありがとう、メルア」
「手伝ってくれたお陰で予定よりかなり早く終わったことだし、お礼になにか出来ることはないかい?」
「……じゃあさ、魔導砲作るの手伝ってほしいんですけど~」
「魔導砲?」
意外な返事に思わず聞き返してしまった。メルアのことだから、また何らかの魔導具をねだられるかと思っていたのだが。
「実はさ~、去年マリーに誕生日プレゼントなにがいいって聞いたらすっごいカスタマイズ特盛りみたいなリクエストをされちゃったんだよね~。うちも、うっかりなんでもいーよって言っちゃったし、断るって選択肢もないわけ。でも、どーしていいかわかんないうちにマリーが軍に入れられちゃったでしょ! ってわけで、一年越しのプレゼントになっちゃったんだよね。さすがにこれ以上引っ張れないから、今年こそ渡さないと!」
メルアを悩ませるほどのマリーのリクエストというものに、錬金術師として純粋に興味が湧いた。
「詳しく聞いてもいいかい?」
「いいもなにも!! ししょーの知恵を借りないとぜったい無理な気がするっ!!」
メルアはそう言うと、アトリエの棚から一冊のノートを取り出し、該当する頁を開いて見せた。
メルア自身もかなり検討したメモが残っているが、マリーのカスタマイズはそれでも解決出来ないほど厄介そうなものだった。
ひとつは、銃弾を使わず銃弾よりも速く着弾するもの――。これは恐らく、リロードの手間を省きたいというのが理由だろう。そしてもう一つは、既存の魔導砲の二倍の射程距離を可能にするもの、ということらしい。
メルアに聞いたところ、マリーが得意とするのは狙撃ということなのですぐに合点がいった。恐らく軍で実戦を伴う経験を積んできた以上、二倍程度では満足できなくなっていそうだな。戦場で有利になるには、それだけ有能な武器が必要だということは、僕も前世の人魔大戦で経験している。
「……なるほどね。店では絶対売ってなさそうだ」
「でっしょ~!」
僕の発言にメルアが何度も頷いて共感を示す。
「でも、ししょーだったらこの性能の何倍も凄いのを作ってくれそうだよね!」
「まあ、そうだね。リクエストを超えたところに、目指す高みがあるだろうし」
飽くなき探究心というのは僕がグラスだった頃から持っているものだが、今世ではそれを認め、共に高めようと志を高く持つ仲間も出来た。自分以外の誰かのために、他の誰かの力を借りてなにかを成すなんてことは、今の僕だからこそ出来る芸当だ。一見面倒なことも興味を持って話を聞けるということは、僕はその可能性をもっと知りたいし、見てみたいと思っているんだろうな。
メルアがそう言いながら、楽器店の店主から預かったテスト用の小型増音魔導器とエーテル供給用のケーブルで接続する。だが、弾く前にガリガリという砂を踏み潰したような異音が響いた。
「おっと。ノイズ入っちゃってる~。これ、うちが土魔法で削ったあれこれがジャックに入ってるかも」
メルアが慌ててケーブルを外し、接続穴の部分をアルコールを染みこませた綿棒で拭く。再度接続すると、ギターの優しい音色を響かせることが出来た。
「おっ。すごく優しい音! なんか知ってるギターとはひと味違うね」
「ホムの感情を響かせられるよう、簡易術式を工夫してみたんだ」
感心するメルアにちょっとした一工夫を明かすと、メルアは驚いたように僕を見て、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「えっ!? 構造がわかったからってそんなことしちゃう!? しかも出来ちゃう!? マジししょーはんぱないっ!!」
「まあ、エステアのは特注品だし、ただ直すよりはホムに合わせた方がいいだろうからね」
「それもそーだけど……。いや、ししょー、三級錬金術師って肩書き、そろそろやめよーよ!」
メルアはなにやら忙しそうに身振り手振りで自分の感情を表したあと、真顔で僕に詰め寄ってきた。
ああ、そう言えば帰省したときにルドセフ院長と約束したんだったな。メルアとちょうど二人きりだし、いい機会だから相談しておこう。
「……そのことなんだけど、特級の資格試験を受けたいんだ。メルアに推薦を頼めないかな?」
調べたところ、特級錬金術師の資格試験には、特級錬金術師からの推薦が必要なのだ。
「ししょーの頼みを断るわけないじゃん! 今すぐ書くよ!」
「いや、来年でいいんだ」
二つ返事で引き受けてくれたメルアだったが、僕としては今すぐ必要なわけではないと断った。なぜかと言えば、特級錬金術師の資格を取得するためには提出するは論文が有用でなおかつ革新的な内容でないといけない。だから今その話をしたという事実が大事で、黒石病抑制剤の論文を一年かけて準備したという既成事実をつくらなければならないのだ。
「来年? なんで?」
「発表したいものがあって、準備中なんだよ。だからそれに合わせて推薦状を書いて欲しい」
「ししょーがいいなら、うちは構わないよ!」
こういうとき、メルアの興味の有無がはっきりとわかるのは面白いな。錬金術や魔法まわりのことは注意を払わなければならないことには変わりはないのだけれど、ギターの修理も特級錬金術師の推薦にも目途が立ったことだし、メルアのお願いも叶えておこうか。
「ありがとう、メルア」
「手伝ってくれたお陰で予定よりかなり早く終わったことだし、お礼になにか出来ることはないかい?」
「……じゃあさ、魔導砲作るの手伝ってほしいんですけど~」
「魔導砲?」
意外な返事に思わず聞き返してしまった。メルアのことだから、また何らかの魔導具をねだられるかと思っていたのだが。
「実はさ~、去年マリーに誕生日プレゼントなにがいいって聞いたらすっごいカスタマイズ特盛りみたいなリクエストをされちゃったんだよね~。うちも、うっかりなんでもいーよって言っちゃったし、断るって選択肢もないわけ。でも、どーしていいかわかんないうちにマリーが軍に入れられちゃったでしょ! ってわけで、一年越しのプレゼントになっちゃったんだよね。さすがにこれ以上引っ張れないから、今年こそ渡さないと!」
メルアを悩ませるほどのマリーのリクエストというものに、錬金術師として純粋に興味が湧いた。
「詳しく聞いてもいいかい?」
「いいもなにも!! ししょーの知恵を借りないとぜったい無理な気がするっ!!」
メルアはそう言うと、アトリエの棚から一冊のノートを取り出し、該当する頁を開いて見せた。
メルア自身もかなり検討したメモが残っているが、マリーのカスタマイズはそれでも解決出来ないほど厄介そうなものだった。
ひとつは、銃弾を使わず銃弾よりも速く着弾するもの――。これは恐らく、リロードの手間を省きたいというのが理由だろう。そしてもう一つは、既存の魔導砲の二倍の射程距離を可能にするもの、ということらしい。
メルアに聞いたところ、マリーが得意とするのは狙撃ということなのですぐに合点がいった。恐らく軍で実戦を伴う経験を積んできた以上、二倍程度では満足できなくなっていそうだな。戦場で有利になるには、それだけ有能な武器が必要だということは、僕も前世の人魔大戦で経験している。
「……なるほどね。店では絶対売ってなさそうだ」
「でっしょ~!」
僕の発言にメルアが何度も頷いて共感を示す。
「でも、ししょーだったらこの性能の何倍も凄いのを作ってくれそうだよね!」
「まあ、そうだね。リクエストを超えたところに、目指す高みがあるだろうし」
飽くなき探究心というのは僕がグラスだった頃から持っているものだが、今世ではそれを認め、共に高めようと志を高く持つ仲間も出来た。自分以外の誰かのために、他の誰かの力を借りてなにかを成すなんてことは、今の僕だからこそ出来る芸当だ。一見面倒なことも興味を持って話を聞けるということは、僕はその可能性をもっと知りたいし、見てみたいと思っているんだろうな。
0
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
人狼という職業を与えられた僕は死にたくないので全滅エンド目指します。
ヒロ三等兵
ファンタジー
【人狼ゲームxファンタジー】のダンジョン攻略のお話です。処刑対象の【人狼】にされた僕(人吉 拓郎)は、処刑を回避し元の世界に帰還する為に奮闘する。
小説家になろう様 にも、同時投稿を行っています。
7:00 投稿 と 17:00 投稿 です。 全57話 9/1完結。
※1話3000字程度 タイトルの冒頭『Dead or @Live』を外しました。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる