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第三章 暴風のコロッセオ
第245話 イグニスの告発
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「ええ……。こ、これはどういうことでしょう……」
マイクを奪われたらしいジョニーが、予備のマイクを手に困惑した表情を浮かべている。イグニスと教頭は、憤怒の表情を浮かべて大闘技場の中央――つまり、僕たちがいる表彰台の方へと向かって来た。
事態を重く見たのか、一度は退席したフェリックス伯爵が大闘技場に戻り、ジョニーの傍に立つのが見えた。
「……イグニスだ……」
「あの攻撃を生身で受けて、もう回復しているのか!?」
自らの脚でしっかりと歩むイグニスの登場に、観客席から困惑の声が上がる。ざわめきは広がり、僕たちの祝福モードから一転、不穏な空気が漂い始める。
イグニスは僕たちを睨めつけながら歩を止めると、ゆっくりと観客席を見渡して声を上げた。
「あれで優勝とはとんでもない不正だ! 審判はヤツらの反則行為を見逃してるぞ!」
イグニスの大声にマイクから甲高い不協和音が響く。観客席のざわめきは大きくなり、実況席付近に控えていた審判員たちは不満げな表情で大闘技場に進み出た。
「おぉーっとぉおおおおおおおお!! 表彰式が終わった今になって、不正! 不正との抗議の声が上げられているぅううううっ!!」
イグニスの告発に対し、一番に声を上げたのは司会のジョニーだった。イグニスが好き放題喋らないようにというフェリックス伯爵の配慮もあるようだが、表情から見るに、ジョニーもイグニスの告発は腹に据えかねている様子だ。
「……イ……イグニス……イグニス!」
「イグニス! イグニス!」
だが、ジョニーが味方であると勘違いしたのか、観客席からイグニスを讃える声が上がり始める。
「イグニス! イグニス!」
「イグニス! イグニス!」
高まっていく声援を制するように、ジョニーは左手を肩の高さで水平に伸ばし、静まるようにと身振りで示す。
「全ての戦いを見届けた司会としてぇええええええっ! 私は断固抗議したぁあああああああああい!!!!! 差し当たってはぁああああああああっ!! 不正の証拠を挙げていただきましょうッ!!」
ジョニーがイグニスにマイクを向け、不正の証拠を求める。イグニスはふんと鼻を鳴らすと、マイクを構えて口を開いた。
「レムレスの撃墜判定の遅延。それが全てだ。レムレスはエステアの技を受けて壁にめり込むほどの大ダメージを負ったと聞く。そのとき既に大破していたと見るのが、正しい判定ではないのか? それにもかかわらず、レムレスは機体を動かし、魔法を発動させた。俺はそれに巻き込まれて撃墜判定を受け、生徒会チームは統率を乱された結果敗北した。これが不正でなくてなんなんだ!?」
イグニスの口調は落ち着いていた。怒りでがなり立てるわけでもなく、理論立てて話しているように見える。だが、恐らくそれは観客たちを味方につけるための演出なのだ。
その証拠に勝ち誇ったように僕たちを振り返るその表情には、蔑みと嘲笑が浮かんでいる。
「……ヒトモドキはヒトモドキらしく、俺様に負けるべきだ」
マイクを離した状態ではあったけれど、はっきりとその嘲りの言葉は僕たちの耳に届いた。
「いい加減にしなさい、イグニス」
「そーだよ! アルフェちゃんが大破してるんだったら、そもそもあの魔法に耐えられるわけないんだから」
エステアとメルアが抗議するのを、ホムは静かに見守っている。握りしめた拳が震えているところを見るに、かなり怒っているのが僕にはわかった。
「……ワタシのせい……?」
アルフェが微かに呟き、僕の手を握りしめた。
「違うよ。アルフェのせいじゃない。アルフェのおかげだ――僕たちは勝った。それ覆らない」
僕はアルフェの手を握り返しながら微笑みかけ、そっと手を解いた。
「イグニス! イグニス!」
「エステア! エステア!」
判定が覆り、生徒会チームの勝利の可能性があると見出したのか、観客席からイグニスだけでなく、エステアを呼ぶ声が響いてくる。
審判やジョニーはフェリックス伯爵と協議を重ねている様子だ。だが、判定を覆す気がないことはその断固とした表情から理解できた。
「反論しましょう、リーフ。イグニスの発言は、正々堂々と戦った私たちへの侮辱です」
「ああ、僕もそう思っていた」
表情をかたくして申し出たエステアに頷き、揃って前に進み出る。
「ししょーもエステアもばっちばちに怒ってるじゃん~! まっ、うちもそうなんだけど、ここは二人に任せるよ」
メルアがそう言いながら、僕たちに拡声魔法を施してくれる。
「お集まりの皆様、お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。カナルフォード生徒会チームリーダー、および、生徒会会長として、副会長が告発したような不正はなかったものと、証言させて頂きます」
「おい! てめぇのチームの勝敗に関わることだぞ! 氷壁で見てもいねぇのに口を挟むんじゃねぇ!」
エステアの抗議にイグニスが眉を吊り上げる。
「氷壁で見えていないのはあなたも同じです、イグニス。それに、結果から見て、レムレスは私の技を食らった時点では撃墜されてはいませんでした。司会の実況では僅かに動いていることが目撃されています。機体の有効部位損傷の確認は、魔法発動まで充分な時間があったことから、それがなされなかったということは考えられません」
「実際、大破判定されなかったってのは、審判の怠慢だろ!」
「それは違うよ」
エステアの発言に本性を露わにして怒鳴りつけるイグニスに、僕は努めて冷静に口を挟んだ。
「自分でなにを言っているかわかっていないようだけど、アルフェは大破判定を受けていない。レムレスは『操手気絶』による撃墜判定を受けたんだ」
「あ……」
僕の指摘にイグニスと教頭が揃って顔を見合わせた。大破判定と思い込んでいたのは、これで明らかだ。
「確かにぃいいいいいいいいいいいいいいい!!! レムレスは操手気絶による撃墜判定ぇええええええええええええいいいいいぃいいいいいいいいいいいいい!!!! よってぇええええええぇええええええええええ!!! その主張はぁああああああああ!! 誤りであると見なしまぁあああああああああああああああああすッッ!!!」
ジョニーが叫ぶようにイグニスの指摘の誤りを指摘する隣で、フェリックス伯爵が険しい顔で頷いている。観客も僕たちの主張に納得したのか、しんと静まり返った。
「……失礼」
ジョニーからマイクを受け取ったフェリックス伯爵が、咳払いとともにイグニスと教頭に厳しい視線を向ける。
「……有終の美という言葉がある。一人残されたエステアは、正々堂々と立派に戦い抜き、素晴らしい戦いを見せてくれた。勝利を収めたリインフォースも然りだ。たとえ双方が求めていた結果に手が届かなかったとしても、素晴らしい戦いを見せてもらったと我々は自負していた。……イグニス、君がこうして神聖なる大闘技場を汚すまでは。そしてそれにカールマン殿、あなたが加担するまでは」
「理事長……。その、……あの……」
冷たい目を向けられ、教頭のカールマンがおろおろと焦り出す。イグニスはこれ以上の面倒を避けようとしているのか、貝のように押し黙った。
「それ相応の処分を検討する。恥を知り給え」
二人の言い分を聞くつもりはないと言いたげに、フェリックス伯爵がジョニーにマイクを返し、背を向けて去って行く。
マイクを戻されたジョニーは、安堵の息を少しだけ吐くと、周囲を見回し、僕とエステアに視線を寄越した。
「手を繋ぎましょう。観客の皆様に、感謝の気持ちを伝えたいです」
「それはいいね」
エステアの提案に、僕はホムとアルフェを呼び、メルアも駆けつけた。
僕はアルフェとホムと手を取りあい、アルフェはメルアと、ホムはエステアともう片方の手を繋いだ。うっかり中心に立つことになってしまったけれど、悪くない気分だ。
「リインフォース! リインフォース!」
「リインフォース! リインフォース!」
僕たちのチーム名を観客たちが声を揃えて叫んでくれる。
「今一度ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 武侠宴舞・カナルフォード杯ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお、栄えある優勝チームに、盛大な拍手をぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! リインフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」
ジョニーの渾身の祝福の叫びと万雷の拍手に見送られ、僕たちは長い戦いを終えた大闘技場を後にした。
マイクを奪われたらしいジョニーが、予備のマイクを手に困惑した表情を浮かべている。イグニスと教頭は、憤怒の表情を浮かべて大闘技場の中央――つまり、僕たちがいる表彰台の方へと向かって来た。
事態を重く見たのか、一度は退席したフェリックス伯爵が大闘技場に戻り、ジョニーの傍に立つのが見えた。
「……イグニスだ……」
「あの攻撃を生身で受けて、もう回復しているのか!?」
自らの脚でしっかりと歩むイグニスの登場に、観客席から困惑の声が上がる。ざわめきは広がり、僕たちの祝福モードから一転、不穏な空気が漂い始める。
イグニスは僕たちを睨めつけながら歩を止めると、ゆっくりと観客席を見渡して声を上げた。
「あれで優勝とはとんでもない不正だ! 審判はヤツらの反則行為を見逃してるぞ!」
イグニスの大声にマイクから甲高い不協和音が響く。観客席のざわめきは大きくなり、実況席付近に控えていた審判員たちは不満げな表情で大闘技場に進み出た。
「おぉーっとぉおおおおおおおお!! 表彰式が終わった今になって、不正! 不正との抗議の声が上げられているぅううううっ!!」
イグニスの告発に対し、一番に声を上げたのは司会のジョニーだった。イグニスが好き放題喋らないようにというフェリックス伯爵の配慮もあるようだが、表情から見るに、ジョニーもイグニスの告発は腹に据えかねている様子だ。
「……イ……イグニス……イグニス!」
「イグニス! イグニス!」
だが、ジョニーが味方であると勘違いしたのか、観客席からイグニスを讃える声が上がり始める。
「イグニス! イグニス!」
「イグニス! イグニス!」
高まっていく声援を制するように、ジョニーは左手を肩の高さで水平に伸ばし、静まるようにと身振りで示す。
「全ての戦いを見届けた司会としてぇええええええっ! 私は断固抗議したぁあああああああああい!!!!! 差し当たってはぁああああああああっ!! 不正の証拠を挙げていただきましょうッ!!」
ジョニーがイグニスにマイクを向け、不正の証拠を求める。イグニスはふんと鼻を鳴らすと、マイクを構えて口を開いた。
「レムレスの撃墜判定の遅延。それが全てだ。レムレスはエステアの技を受けて壁にめり込むほどの大ダメージを負ったと聞く。そのとき既に大破していたと見るのが、正しい判定ではないのか? それにもかかわらず、レムレスは機体を動かし、魔法を発動させた。俺はそれに巻き込まれて撃墜判定を受け、生徒会チームは統率を乱された結果敗北した。これが不正でなくてなんなんだ!?」
イグニスの口調は落ち着いていた。怒りでがなり立てるわけでもなく、理論立てて話しているように見える。だが、恐らくそれは観客たちを味方につけるための演出なのだ。
その証拠に勝ち誇ったように僕たちを振り返るその表情には、蔑みと嘲笑が浮かんでいる。
「……ヒトモドキはヒトモドキらしく、俺様に負けるべきだ」
マイクを離した状態ではあったけれど、はっきりとその嘲りの言葉は僕たちの耳に届いた。
「いい加減にしなさい、イグニス」
「そーだよ! アルフェちゃんが大破してるんだったら、そもそもあの魔法に耐えられるわけないんだから」
エステアとメルアが抗議するのを、ホムは静かに見守っている。握りしめた拳が震えているところを見るに、かなり怒っているのが僕にはわかった。
「……ワタシのせい……?」
アルフェが微かに呟き、僕の手を握りしめた。
「違うよ。アルフェのせいじゃない。アルフェのおかげだ――僕たちは勝った。それ覆らない」
僕はアルフェの手を握り返しながら微笑みかけ、そっと手を解いた。
「イグニス! イグニス!」
「エステア! エステア!」
判定が覆り、生徒会チームの勝利の可能性があると見出したのか、観客席からイグニスだけでなく、エステアを呼ぶ声が響いてくる。
審判やジョニーはフェリックス伯爵と協議を重ねている様子だ。だが、判定を覆す気がないことはその断固とした表情から理解できた。
「反論しましょう、リーフ。イグニスの発言は、正々堂々と戦った私たちへの侮辱です」
「ああ、僕もそう思っていた」
表情をかたくして申し出たエステアに頷き、揃って前に進み出る。
「ししょーもエステアもばっちばちに怒ってるじゃん~! まっ、うちもそうなんだけど、ここは二人に任せるよ」
メルアがそう言いながら、僕たちに拡声魔法を施してくれる。
「お集まりの皆様、お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。カナルフォード生徒会チームリーダー、および、生徒会会長として、副会長が告発したような不正はなかったものと、証言させて頂きます」
「おい! てめぇのチームの勝敗に関わることだぞ! 氷壁で見てもいねぇのに口を挟むんじゃねぇ!」
エステアの抗議にイグニスが眉を吊り上げる。
「氷壁で見えていないのはあなたも同じです、イグニス。それに、結果から見て、レムレスは私の技を食らった時点では撃墜されてはいませんでした。司会の実況では僅かに動いていることが目撃されています。機体の有効部位損傷の確認は、魔法発動まで充分な時間があったことから、それがなされなかったということは考えられません」
「実際、大破判定されなかったってのは、審判の怠慢だろ!」
「それは違うよ」
エステアの発言に本性を露わにして怒鳴りつけるイグニスに、僕は努めて冷静に口を挟んだ。
「自分でなにを言っているかわかっていないようだけど、アルフェは大破判定を受けていない。レムレスは『操手気絶』による撃墜判定を受けたんだ」
「あ……」
僕の指摘にイグニスと教頭が揃って顔を見合わせた。大破判定と思い込んでいたのは、これで明らかだ。
「確かにぃいいいいいいいいいいいいいいい!!! レムレスは操手気絶による撃墜判定ぇええええええええええええいいいいいぃいいいいいいいいいいいいい!!!! よってぇええええええぇええええええええええ!!! その主張はぁああああああああ!! 誤りであると見なしまぁあああああああああああああああああすッッ!!!」
ジョニーが叫ぶようにイグニスの指摘の誤りを指摘する隣で、フェリックス伯爵が険しい顔で頷いている。観客も僕たちの主張に納得したのか、しんと静まり返った。
「……失礼」
ジョニーからマイクを受け取ったフェリックス伯爵が、咳払いとともにイグニスと教頭に厳しい視線を向ける。
「……有終の美という言葉がある。一人残されたエステアは、正々堂々と立派に戦い抜き、素晴らしい戦いを見せてくれた。勝利を収めたリインフォースも然りだ。たとえ双方が求めていた結果に手が届かなかったとしても、素晴らしい戦いを見せてもらったと我々は自負していた。……イグニス、君がこうして神聖なる大闘技場を汚すまでは。そしてそれにカールマン殿、あなたが加担するまでは」
「理事長……。その、……あの……」
冷たい目を向けられ、教頭のカールマンがおろおろと焦り出す。イグニスはこれ以上の面倒を避けようとしているのか、貝のように押し黙った。
「それ相応の処分を検討する。恥を知り給え」
二人の言い分を聞くつもりはないと言いたげに、フェリックス伯爵がジョニーにマイクを返し、背を向けて去って行く。
マイクを戻されたジョニーは、安堵の息を少しだけ吐くと、周囲を見回し、僕とエステアに視線を寄越した。
「手を繋ぎましょう。観客の皆様に、感謝の気持ちを伝えたいです」
「それはいいね」
エステアの提案に、僕はホムとアルフェを呼び、メルアも駆けつけた。
僕はアルフェとホムと手を取りあい、アルフェはメルアと、ホムはエステアともう片方の手を繋いだ。うっかり中心に立つことになってしまったけれど、悪くない気分だ。
「リインフォース! リインフォース!」
「リインフォース! リインフォース!」
僕たちのチーム名を観客たちが声を揃えて叫んでくれる。
「今一度ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 武侠宴舞・カナルフォード杯ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお、栄えある優勝チームに、盛大な拍手をぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! リインフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」
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