212 / 396
第三章 暴風のコロッセオ
第212話 エステアの人気
しおりを挟む
アルタードとレムレス、それにアーケシウスの整備と起動実験を終えたところで、バックヤードが混雑しはじめた。
貴族寮の生徒の大半は機兵一機につき、メカニックを最低二人は従えているので、全15チームが揃うとかなりの人数になるのだ。
その上、エステアのセレーム・サリフへの取材なども継続して行われているので、中継を行うテレビ局や新聞社、雑誌社の記者たちも増え始めた。
「他の選手の妨げにならないよう、移動致しましょう」
取材を受けていたエステアも混雑はかなり気にしていたようで、区切りの良いところでそう切り出すと大闘技場の客席の方へと移動を始めた。
「わたくしたちも闘技場の方へ出ても良いのでしょうか?」
「試合を行うエリアはまだ点検中だろうけれど、客席から見る分には構わないはずだよ」
事前に配布された注意事項に目を通しながら、ホムの問いかけに応える。
「一般入場が始まる前に、会場の様子を把握しておこうか」
「うん。みんなで行こっ」
僕の提案にアルフェが僕とホムの手を繋いで歩き出した。
「……凄い人の声がするね」
「収容人数以上の人間が集まっているようですね」
闘技場に向かう通路を歩いていても、外のざわめきが強く感じられる。バックヤードにいた時は気がつかなかったが、一般開場までまだ一時間もあるというのに、既に多くの人が詰めかけているようだ。
「あのインタビューも中継されているようですね」
「リアルタイムで観られるのって、なんだかすごいねぇ」
闘技場に出ると、あの大きな映像盤にエステアの姿が映し出されているのが見えた。まだ人が入っていないというのに、闘技場の外からエステアへの期待を込めた声援や拍手が輪を成すように響いている。
「これが、エステア様の人気……想像以上です……」
「この前のエキシビションマッチで、知名度が上がったせいもあるだろうね」
エステアは昨年の武侠宴舞・カナルフォード杯の優勝チームのエースだ。あのエキシビションマッチにたった一人で参加したことで、その実力が高校生の枠に留まらないことをその場の誰もが目の当たりにしたのだ。
「あれでファンになった人も多いよね」
「そうそう! エステアは大人気で大忙しなんだよ~」
アルフェの呟きに頭上から声が降る。反応したのはメルアだった。
「メルアは、インタビューを受けないのかい?」
「うちはエステアに比べたらその他大勢だもん」
観客席の最上段に立ったメルアが、中腹にある踊り場でインタビューを受けているエステアを横目で見ながら、爪先を鳴らしている。
「まあ、誰かさんと違って、別に嫉妬とかぜーんぜんないんだけど」
意味ありげに呟いたメルアが目線はそのままで、指先だけを別方向に動かす。メルアの指先を視線だけでそっと辿ると、イグニスが明らかに悔しげな様子でエステアを睨んでいるのがわかった。
「仲間内で嫉妬とかヤダヤダ~、なんだけど……。まあ、なに言っても聞かないしねぇ」
大仰に首を竦めたメルアが、やれやれとばかりに客席の柵に頬杖をつく。
「チームとしてやっていけるのかい?」
「正直、エステアがいればカンケーないかなって」
あっけらかんと言い放つメルアの言葉は、要するに戦力としてイグニスを認めていないということだ。同じ生徒会であり、チームでありながらも、エステアとメルアの二人とイグニスの間には埋められない溝があるのが、僕にもはっきりとわかる。
「フツーに考えたら、去年と同じで書記のマリーが出るはずなんだけど……。ホント、納得行ってないのはうちだけじゃないから」
イグニスの機兵適性値と彼の機兵への疑惑の話を踏まえると、プロフェッサーも疑念を抱いてはいるのだろうな。それぞれの立場を考えると、学園で最も高い地位にいるデュラン家の子息であるイグニスに意見出来る者はいないのだ。
「まあ、愚痴ってもはじまらないし、連携取れるかどうかはあっち次第だけど、うちは調整役も兼ねてるからさ、うまいことやらないとね」
「……大変そうだね」
エステアとイグニスは表面上取り繕うこともしないほど、関係がこじれている。その二人を繋ぐ役割を担うことになっているメルアの苦労を思うと、苦笑に顔を歪めるしかなかった。
「でっしょー。あっ、エステアが呼んでる! じゃ、また~」
それでもメルアはいつもの調子で明るく手を振ると、漸くインタビューを終えたエステアの元へと走って行った。
貴族寮の生徒の大半は機兵一機につき、メカニックを最低二人は従えているので、全15チームが揃うとかなりの人数になるのだ。
その上、エステアのセレーム・サリフへの取材なども継続して行われているので、中継を行うテレビ局や新聞社、雑誌社の記者たちも増え始めた。
「他の選手の妨げにならないよう、移動致しましょう」
取材を受けていたエステアも混雑はかなり気にしていたようで、区切りの良いところでそう切り出すと大闘技場の客席の方へと移動を始めた。
「わたくしたちも闘技場の方へ出ても良いのでしょうか?」
「試合を行うエリアはまだ点検中だろうけれど、客席から見る分には構わないはずだよ」
事前に配布された注意事項に目を通しながら、ホムの問いかけに応える。
「一般入場が始まる前に、会場の様子を把握しておこうか」
「うん。みんなで行こっ」
僕の提案にアルフェが僕とホムの手を繋いで歩き出した。
「……凄い人の声がするね」
「収容人数以上の人間が集まっているようですね」
闘技場に向かう通路を歩いていても、外のざわめきが強く感じられる。バックヤードにいた時は気がつかなかったが、一般開場までまだ一時間もあるというのに、既に多くの人が詰めかけているようだ。
「あのインタビューも中継されているようですね」
「リアルタイムで観られるのって、なんだかすごいねぇ」
闘技場に出ると、あの大きな映像盤にエステアの姿が映し出されているのが見えた。まだ人が入っていないというのに、闘技場の外からエステアへの期待を込めた声援や拍手が輪を成すように響いている。
「これが、エステア様の人気……想像以上です……」
「この前のエキシビションマッチで、知名度が上がったせいもあるだろうね」
エステアは昨年の武侠宴舞・カナルフォード杯の優勝チームのエースだ。あのエキシビションマッチにたった一人で参加したことで、その実力が高校生の枠に留まらないことをその場の誰もが目の当たりにしたのだ。
「あれでファンになった人も多いよね」
「そうそう! エステアは大人気で大忙しなんだよ~」
アルフェの呟きに頭上から声が降る。反応したのはメルアだった。
「メルアは、インタビューを受けないのかい?」
「うちはエステアに比べたらその他大勢だもん」
観客席の最上段に立ったメルアが、中腹にある踊り場でインタビューを受けているエステアを横目で見ながら、爪先を鳴らしている。
「まあ、誰かさんと違って、別に嫉妬とかぜーんぜんないんだけど」
意味ありげに呟いたメルアが目線はそのままで、指先だけを別方向に動かす。メルアの指先を視線だけでそっと辿ると、イグニスが明らかに悔しげな様子でエステアを睨んでいるのがわかった。
「仲間内で嫉妬とかヤダヤダ~、なんだけど……。まあ、なに言っても聞かないしねぇ」
大仰に首を竦めたメルアが、やれやれとばかりに客席の柵に頬杖をつく。
「チームとしてやっていけるのかい?」
「正直、エステアがいればカンケーないかなって」
あっけらかんと言い放つメルアの言葉は、要するに戦力としてイグニスを認めていないということだ。同じ生徒会であり、チームでありながらも、エステアとメルアの二人とイグニスの間には埋められない溝があるのが、僕にもはっきりとわかる。
「フツーに考えたら、去年と同じで書記のマリーが出るはずなんだけど……。ホント、納得行ってないのはうちだけじゃないから」
イグニスの機兵適性値と彼の機兵への疑惑の話を踏まえると、プロフェッサーも疑念を抱いてはいるのだろうな。それぞれの立場を考えると、学園で最も高い地位にいるデュラン家の子息であるイグニスに意見出来る者はいないのだ。
「まあ、愚痴ってもはじまらないし、連携取れるかどうかはあっち次第だけど、うちは調整役も兼ねてるからさ、うまいことやらないとね」
「……大変そうだね」
エステアとイグニスは表面上取り繕うこともしないほど、関係がこじれている。その二人を繋ぐ役割を担うことになっているメルアの苦労を思うと、苦笑に顔を歪めるしかなかった。
「でっしょー。あっ、エステアが呼んでる! じゃ、また~」
それでもメルアはいつもの調子で明るく手を振ると、漸くインタビューを終えたエステアの元へと走って行った。
0
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる