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第三章 暴風のコロッセオ

第205話 アルタードの最終仕上げ

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 プロフェッサーから『プラズマ推進装置』の資料を譲り受けた後、僕はすぐに寮に戻り、真なる叡智の書アルス・マグナにその内容を写し取った。

 プロフェッサーから処分を推奨されたのは勿論だが、資料の間には念を入れるように焼却を促すメモが挟まれていたからだ。

 ――今は、まだ。

 その言葉が示すように、現段階では科学に関する資料を所持しているだけでも不要な嫌疑がかけられる可能性がある。武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯を前にそうしたトラブルは絶対に避けなければならない。

 非常に興味深い論文ではあったので、しっかりと読み込んで独自の理論を打ち出したいところだがタイムリミットはもう迫ってきている。

 基本的な仕組みは難なく理解できたので、後は僕の持つ知識と技術を総動員して、錬金術で実用化すればやりたかったことを叶えることができる。

 念のため真なる叡智の書アルス・マグナに写し取ったとはいえ、元となる資料を焼却処分した今となっては、今回僕が生み出そうとしている推進装置バーニア――プラズマ・バーニアは科学的理論に基づいているとはいえ、それを知らない人々にとっては錬金術の産物でしかないのだ。

 高揚した気分を抑えながら設計図を書き上げて作業場に戻ると、ちょうどアイザックとロメオが完成させたエーテル遮断ローブをアルフェ機に着せているところだった。

 サイズもかなりぴったりで、アルフェが喜びそうな仕上がりだ。

「リーフ殿、どこへ行っていたでござるか!」
「こっちはもう作業が終わっているよ。あとは、アルタードの推進装置バーニアだけだよね」
「そのことなんだけど――」

 二人同時に話しかけられた僕は、苦笑を浮かべながら完成したばかりの設計図を作業台の上に広げた。

「……プラズマ・バーニアでござるか?」

 聞き慣れない言葉にアイザックが首を捻る。ロメオはその構造理論を見極めようと、真剣な表情で設計図を端から端まで読み込んでいる。

「そう。圧縮空気を用いる既存の推進装置バーニアと違い、電気のエネルギーを推進器から噴射することで加速を得ると言う機構なんだ」
「そんなことが出来るのか……」

 説明を聞きながら、ロメオが唸っている。

「理論上は可能だよ。設計図にも破綻はないはずだよね?」

「メインユニットで周辺の大気を推進剤として取り込むところまではわかるんだけど、この後は……?」

 まあ、二人が初見でこの機構を理解するのは無理があるだろう。丁寧に説明している時間的な余裕はないので、ごく簡単に説明を追加することにした。

「推進剤として取り込んだ大気を、チャンバー内で電気的に過熱状態に遷移させ、プラズマ化するんだ。プラズマ化された大気は、電磁界の力場によって一定方向へと加速される。そうして加圧されたプラズマを噴射口から放出することで、爆発的な加速力を得ることができるんだ」

「うーん……」
「拙者たちには、なにがなんだか……」

 アイザックもロメオもしきりに首を捻っているが、時間がないことは承知してくれているらしく、それ以上の質問は重ねてこない。

「まあ、要は大気を電気で限界まで圧縮して一気に解き放って推力を得ると言うことだよ。そのためには大量の電力が必要になる。なので帯電布を作ろうと思う」
「電気を蓄積する布を取りつけて、供給源にするわけだね」

 二人に噛み砕いて説明する間に、ロメオの理解は少し進んだようだ。その鋭い考察に思わず笑みがこぼれた。

「そう。バックパックに外付けすることで、アルフェの雷の魔法でいつでもチャージが出来るし、戦闘中でもすぐに補充が出来て何度でも雷鳴瞬動ブリッツレイドを放つことができる」

 これならエステア相手にも勝機を見いだせるはずだ。

「いやはや、リーフ殿! 既存の推進装置バーニアからここまでの新機能を生み出すとは、凄い発明でござるよー!」

 話が読めてきたのか、アイザックが興奮に尻尾をぶんぶんと左右に揺らしながら叫ぶ。

「時間が惜しいから今すぐ取り掛かろう。僕は帯電布を作るから、アイザックとロメオはメインユニットの部品を出力してほしい」
「拙者、徹夜も辞さぬでござるよ~!」
「この設計図に合わせて金型を作ってパーツを出力すればいいんだよね?」

 僕の指示にアイザックとロメオが頼もしく頷いた。

「その通り。組み立ては僕がやる。今日中に仕上げて、最高の機兵を完成させよう!」

 この調子だと、今夜は本当に徹夜になりそうだな。だけど、この高揚感がなんとも言えない感覚を僕にもたらしてくれる。きっと嬉しい、という感情に似ているなにかだ。

 噴射式推進装置バーニアの組み立てが完成すれば、なんとか査定日最終日にアルタードとレムレスの申請を間に合わせることができる。

 やれやれ。僕もようやく武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯が楽しみだと呼べる域まで踏み込めたようだ。
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